エナドリ転生 〜怠惰な暮らしが希望です〜

黒蓮

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第一章 幼少期

転生 1

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「おぎゃ~! おぎゃ~! おぎゃ~!」

 赤ん坊の泣き声に、意識が覚醒する。

(︙︙朝か? というか、なんで赤ん坊の泣き声が? アニメ消し忘れたっけ?)

 耳に入ってくる赤ん坊の鳴き声に困惑しながらも、目を開けようとするが︙︙

(あれ? 目が開かない? というか︙︙声も出ないし、身体に力が入らない! まさか、まだ体調が悪いのか⁉)

 自分の身体の状態に、内心青くなる。これでは会社に遅刻してしまうどころか、その連絡すらできない。日頃、報告・連絡・相談は大事だと口を酸っぱくして部下に伝えている本人が、それを怠ってしまえば、信頼をなくすことに他ならない。

(くそっ! 今日はどうしても出勤しないといけないのに! それにしても、ずっと赤ん坊の泣き声が聞こえるな。さすがに長過ぎだろ)

 アニメのシーンにしてはずっと場面が変わらない事に気がつくと、目は開けられないながらも周辺の状況を探ろうと耳を澄ますが、泣き声がうるさくて他の音が聞き取れない。

(あ~もう! 赤ん坊の泣き声なんて需要無いだろ! 誰だよ、このアニメをプロデュースしたのは!)

 苛立ちを隠せないでいると、不意に身体を浮遊感が襲いかかってきた。

(うわっ⁉ なんだ?)

 まるで誰かに抱き抱えられているような感覚を受けるが、どう考えてもそれはあり得ない。私は三十八歳の成人男性なのだ。身長は百八十センチ弱あるし、趣味の筋トレで体重も八十キロ近くある。

(ありえ――わぷっ)

 突如、私の口に小さな突起物がねじ込まれる。すると、無意識の内にそれに吸い付いてしまう。

(うっ! 生暖かい︙︙なんだこれ?)
「よしよし。お腹が空いていましたね、ハルト様。いっぱい飲んでくださいね」

 女性の優しい声が聞こえてくると、背中を撫でられている感触がした。同時に、先程まで泣き叫んでいた赤ん坊の声は聞こえなくなっていた。

(︙︙嘘だろ? 私はまさか︙︙赤ん坊になっているのか⁉)

 先程まで聞こえていた赤ん坊の泣き声は、自分の口から発せられていたという、にわかには信じられない状況に叫び出したくなるが、体は食事を欲していたようで、腹を満たすのを優先してしまう。

(落ち着け。冷静になれ。店員のあの言葉︙︙あれは夢じゃなかったということか。 いやいや、飲み物で転生するなんて聞いたことがない!)

 混乱のあまり考えるべき点がズレているが、それに気づかないほど動揺していた。
 食事をもたらしてくれた女性は、背中を優しく叩いてゲップをさせてくれると、私を寝かせて何処かに行ってしまった。

(これは夢か現実か? あのエナジードリンクに強力な催眠効果があって、夢を見ているだけというオチなら話のネタにもなるが、現実だった場合は︙︙)

 冷静になって現状を鑑みると、例の店員の言葉が浮かんでくる。同時に、もしかしたら本当に自分は転生したのかもしれないという期待もあった。

(落ち着け。まだ、これがただの夢という可能性がある。そうだ。もう一度寝て、次に目を覚ませばいつもの朝かもしれない)

 自分にそう言い聞かすと、もう一度眠りにつこうと試みる。幸いにして、すぐに眠気はやってきた。
 そうして何度目を覚ましただろう。これが夢でなく現実だと受け入れたのは、体感にして三ヶ月が経過した頃だった。
 なんだかんだ、冷静に事態を把握しているような事を店員に対して言っていたが、それが現実のものとなると、やはりまるで違った。
 

~ 五年後 ~

(なるほど。これがこの世界の在り方か︙︙)

 ハルト・フリューゲン。これは転生した私の新たな名前だ。
 フェルファ王国、フリューゲン辺境伯領の三男としてこの世に生を受け、今年で五歳となった。
 この世界での家族は、上に十歳と七歳の兄がおり、屋敷の中には使用人が多く行き交っているという、そこそこに経済力のありそうな家だ。
 そうして、ある程度体が自由に動かせるようになった三才頃から、屋敷の書庫でこの世界の歴史や情勢、経済などを確認していた。さすがになんの教育を受けていない三歳の子供が書物を読むというのは不信感を与えてしまうだろうと考え、周りの目を盗んで書庫に潜っていた。
 ありがたいことに、この世界の言語や文字については元の世界と異なるはずなのに、なぜか理解することができたのだ。
 どうやらこの世界は、あの店員が言っていたように二つの人種が存在している。人間種は、元の世界の人間と見た目は変わらない。獣人種は、いってみればケモ耳と尻尾がある人間という感じだ。
 この世界は一つの大きな大陸によって形成されており、この二種族は大陸中央にある巨大な山脈を隔てて住む場所が別れている。一応和平条約が締結されており、交易などの交流は普通にあるようだが、人間種と獣人種とでは考え方に致命的な違いがあるようだ。
 人間種は、絶対王政の血統主義で、代々国王の血筋が時代の王となる。その際、能力や人間性がそこまで大きく重視されず、長男が後を継ぐことが多い。
 獣人種は、完全実力主義で、十年に一度王位を賭けた武神際という決闘が行われ、その優勝者が次代の王候補となる。ちなみに、王としての教養が必要不可欠なため、武神際に参加できるのは、事前の筆記試験に合格した者だけらしい。
 前世の記憶がある私にとって、獣人種の方が有能な人材を王とすることができる方法と思ってしまうが、どちらも一長一短があるだろう。
 血統主義の場合は、国のトップが死ぬまで変わらないので、政治が安定しやすい。が、無能が王になってしまうと、国はあっという間に衰退するだろう。
 実力主義は優秀な人物が王となれるが、短期間に国のトップが変わってしまうので政治が安定せず、場合によっては国全体が混乱してしまう可能性がある。
 このように、二種族には大きな考え方の違いがあることから、人間種は獣人種を野蛮と考えており、逆に獣人種は人間種を時代遅れの劣等種と考えているようだ。
 また、この世界の時間の流れは元の世界と一緒のようで、一日は二十四時間、一カ月は三十日。さらには春夏秋冬もあり、休みは週に一日ある。
 この世界において、元の世界と致命的な違いは二つだ。

「う~ん。このオドの量は多いのか?少ないのか?」

 この世界には、元の世界にはない『オド』というエネルギーがある。アニメにあるような魔力みたいなものだが、この世界に魔法はない。代わりに人間種は、オドを使用して身体能力を強化する。
 身体強化には深度があり、その深度に応じて強化の威力が上昇する。深度は一から五まであり、最高到達点の深度五に至れた人物は、国の中でも特に重宝されるようだ。
 獣人種もオドを使用して身体強化するらしいが、彼らはそれを『獣化』と呼んでいる。獣化にも深度があるらしく、その深度によって超人的な力を発揮することができるようだ。
 また、体内のオドを目に集中させると、動体視力を向上させたり、オド自体を見ることが可能になる。
 書物には、オドを制御するには長年の訓練が必要だと記されている。幼少期にオドの存在を知覚できるだけでも、かなりの才能だと認められるようだ。
 私は、これまで三十八年間生きてきた体の感覚があったので、この体で感じていた違和感がオドであると気付くと、オドを扱うことができるようになった。
 今はオドを目に集中させ、自分の保有量を確認しているのだが、水色のもや状のオドが、私の身体から三メートル程の空間を覆っている。
 屋敷の使用人たちのオドを見ようとしても、全く体外に溢れていなかったので、みんな普段は体内に押し止めて制御しているのだろう。
 私はまだ子供だからだろう、オドが体内に収まらないようで、どうしても体外に溢れてしまう。

「まぁ、これから検証していけばいいか。考えるべきは他にもあるし︙︙」

 もう一つの違いは、この世界の生物だ。
 全ての生き物はオドを内包しているが、動物の中にはオドの影響で体が変容し、凶暴化してしまった結果、魔物と呼ばれる危険な生物が徘徊している。
 あの店員とのやり取りで、「命の価値が軽くないか」と確認したことがあったが、あの妙な沈黙の答えがこれだろう。どう考えても、前の世界よりも危険であることは明らかだ。
 ただ、この魔物からはオドを溜め込んだ石の様なもの、『オド結晶』を採取することができる。この結晶からエネルギーを抽出することで、明かりを灯したり火を起こしたりといった、元の世界で言う電気の様な役割を果たす資源となっている。
 一通り書物を確認し、これからの将来をどのようにして生きていくか考えながら書庫を出た時だった。ちょうど廊下を歩いていた、二番目の兄と出くわした。
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