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第二章 王女襲来
実地演習 4
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「何でしゃしゃり出て来んだよ!!」
「そうだ!お前がやらなくても、俺達で十分対処出来たんだ!!」
ライトの治療も終わり、荷物や班員の精神状態等を確認するための小休止となったが、その直後、周囲を警戒するために少し離れた場所にいる俺に、レンドール少年とセルシュ少年が突っ掛かってきた。
「いやいや、さっきの自分達の姿を思い出してみろよ?とてもじゃないが任せられないだろ?」
「何言ってる!!僕が魔術を発動すれば、全て終わっていただろ!」
「僕だって既に体勢を整えていたんだ!お前がしゃしゃり出なければ僕が全て片付けていたんだ!!」
俺の指摘に2人は顔を真っ赤にし、唾を飛ばす勢いで反論してきた。
「あのなぁ、レッド・ラットはロベリアとライトのすぐ側にいたんだぞ?そんな状況で中級魔術なんて発動してみろ、味方ごと殺す気か?それに、あの程度の魔物に武器も魔術も必要ない。もっと状況判断を学習したらどうだ?」
「そんなもの、僕の攻撃の瞬間に2人が避ければ済む話だ!」
「剣士たるもの剣を使うのは当然だろ!野蛮な平民の考え方と一緒にするな!!」
自らの失敗を認めないどころか責任転嫁している2人に、俺は盛大なため息を吐きながら口を開いた。
「あの状況で2人が動けるわけないだろ?腰が抜けてたんだぞ?そんな味方の近距離で武器なんて振り回してみろ、お前の技量じゃ味方ごと斬るだろ?」
「うるさい!!とにかく僕に謝れ!!」
「そうだ!貴族に向かって平民ごときが偉そうに!!さっさと土下座して謝れ!!」
俺の言葉に対して2人はもはや聞く耳を持たず、とにかく謝れと喚き散らしてきた。実際、俺から見れば2人の技量はまだまだひよっこ同然で、この失敗を糧に成長して欲しいと思っての苦言だったのだが、ただ相手が平民というだけでまるで意見を聞こうとしないのは問題だ。
「止めないか2人とも。確かに先程の我々の行動に関しては、それぞれの選択が誤っていた。私とセルシュはもっと声を掛け合ってお互いがどう動くかの連携を図るべきだったし、レンドールも倒れているロベリア達に声を掛け、動けるかの状態を確認するべきだった。いや、そもそもアルが言うように、武器や魔術を使用するという選択自体が誤っていた」
「なっ!マーガレット様!剣士の本分たる剣を操ることを否定されるのですか!?」
「そうです!それにこんな平民の指摘など、検討違いもいいとこです!」
言い争う声を聞き付けてか、マーガレット嬢がこちらに駆け寄って仲裁に入ろうとしたのだが、その言葉に反発を覚えたのか、2人はいっそう興奮した様子で声を荒げた。
「2人ともいい加減にしないか!座学の授業でも習ったはずだ。実戦で最も重要なことは状況判断だと!武器や魔術は使えるから使うんじゃない。状況に即したものであるかを判断した上で使うべきだと!あの状況での最善手は、私とセルシュが身体強化を施し、魔物を素手で蹴散らせば事足りたのだ!」
「し、しかし、貴族である我々が平民ごときに戦闘の実力で劣っているなど・・・」
「僕らは貴族なんです。平民の方が優れているなどあってはならない・・・」
マーガレット嬢の指摘を聞いても、なお彼らは自らの行動を省みることはなく、ただ悔しそうに肩を震わせているだけだった。その様子はまるで、自分の認めたくない現実を受け入れられない小さな子供が、ただただ癇癪を起こしている様だった。
(まぁ、俺から見れば皆まだまだ子供だからな。とはいえ、失敗を反省してこそ成長出来るものなんだが・・・)
彼らとマーガレット嬢のやり取りをぼんやりと見つめながら、レンドール少年とセルシュ少年の考え方をどう矯正していこうか思案に暮れるのだった。
出発から1時間。ようやく目的地のホーン・ラビットの巣に到着した。
ホーン・ラビットの巣は木の無い草原地帯となっており、地面には複数の大きな穴が顔を覗かせている。この穴の全てが内部で繋がっており、そこに大体50匹から100匹ほどの集団となって暮らしている。
討伐方法は至って簡単だ。巣穴に麻痺効果のある薬草を燻した煙を風魔術で送り込み、数分待つだけ。その薬草は魔物が嫌う匂いも放つため、弱ったホーン・ラビットが逃げ出してくるので止めを刺すだけだ。安全が考慮された、極めて初心者向きの実戦演習だ。
さすがにある程度森の雰囲気に馴れたのか、みんなの緊張感は当初よりも薄れていた。皆無というわけではないが、パニックを起こすほどではないだろう。
その為、マーガレット嬢の指示の元、着々と討伐準備を整えていく。ここではライトとロベリアが中心となって麻痺効果の薬草を燻し、それをレンドール少年が風魔術を発動して巣穴に送り込んでいた。
しばらくすると、そこかしこの穴からホーン・ラビットが飛び出てきたが、その動きは緩慢で、自慢の突進攻撃は見る影もなかった。そんな魔物達をマーガレット嬢とセルシュ少年が中心に討伐していき、遠くの巣穴から出てきた個体は、レンドール少年が下級の火魔術を発動して討伐していく。
レッド・ラットの時とは違い、状況の把握が出来ているようでひと安心しつつ、俺は次々と討伐していくホーン・ラビットの討伐証明部位である黒い角を、ライトと一緒になって採取していた。
戦闘開始から30分程が経過し、約20匹のホーン・ラビットを討伐すると、もう巣穴から出てこなくなった。元々臆病な性格をしている魔物なので、外の異変に気付いて閉じ籠ってしまったのだろう。こうなると日が変わるまで出てこないこともあるので、今回の実地演習の魔物の討伐については終了だろう。
時刻はもうすぐ昼の12時になる。時間も時間なので昼食の準備をしたいのだが・・・
「見て下さいましたか?マーガレット様!僕の勇姿を!」
「あ、あぁ・・・」
「僕の魔術もご覧になりましたか?遠距離の魔物をゴミのごとく屠る素晴らしい魔術でしたでしょう?」
「そ、そうだな・・・」
セルシュ少年とレンドール少年は戦闘が一段落すると、マーガレット嬢に向けて自分の勇姿を懇々と語っていた。食事の準備のためにホーン・ラビットの解体を手伝うように言ったのだが、「そんなのは戦闘をしていないお前達がやるべきだ!」と異口同音で2人から拒絶された。そんな彼らに挟まれた彼女は、頬をひきつらせながらも笑顔で相づちを打っている。
(あの年頃の男なら、女の子にちやほやされたいんだろうな。それとも侯爵令嬢のマーガレット嬢を本気で狙っているのか?)
彼女に対して事ある毎に反発する姿を見せていたのだが、それも好みの女性に対して良い格好をつけたい年頃の男子特有のものだったのかもしれない。そう考えると2人のアピール合戦も微笑ましいものに感じた。
「あんな事しても逆効果なのに・・・」
「マーガレット様もお可哀想に・・・」
こっちはこっちでさっさと食事の準備をするため、討伐したばかりのホーン・ラビットを捌いていた。手は止めること無く一口大の大きさに肉を切り分けながら、ロベリアとライトは冷めた目付きで2人の少年の言動を批判していた。
「彼らも必死なんだろ。今まで醜態を晒したから、ここで挽回しておかないとって思ってるんだろうぜ?」
「「・・・・・・」」
俺の言葉に2人は調理の手を止め、不思議なものを見るかのような顔を無言で向けてきた。
「?どうした?」
「アル君って大人なんだね。あんなに2人から嫌みを言われても、全く気にした素振りを見せないもん」
「アルさんは懐が深いです。外野から何を言われても自らの道を突き進む・・・尊敬します!」
2人から称賛の言葉をかけられ、何となく照れくさくなるが、事実として俺が彼らよりも大きく年上だからということもある。とはいえ、今まで自分の見た目から子供扱いされてきた過去を思い返すと、こうして面と向かって大人だと言われる事がこんなに嬉しいとは思いもよらなかった。
だからだろう、俺は無意識に改心のどや顔を浮かべてしまったようだ。
「ふっ、そうだろう?」
「う~ん、やっぱりアル君は見た目通りかな」
「ボクはその方が可愛らしくて良いと思いますよ」
さっきまでの大人の評価から一転し、途端に子供になってしまったことに俺は口を尖らせた。
「なんだよそれ~!!」
俺の反応に、2人は楽しそうに笑っていた。そんな俺達の様子に、マーガレット嬢が意味深な視線を向けてきていたのに気づくことはなかった。
「そうだ!お前がやらなくても、俺達で十分対処出来たんだ!!」
ライトの治療も終わり、荷物や班員の精神状態等を確認するための小休止となったが、その直後、周囲を警戒するために少し離れた場所にいる俺に、レンドール少年とセルシュ少年が突っ掛かってきた。
「いやいや、さっきの自分達の姿を思い出してみろよ?とてもじゃないが任せられないだろ?」
「何言ってる!!僕が魔術を発動すれば、全て終わっていただろ!」
「僕だって既に体勢を整えていたんだ!お前がしゃしゃり出なければ僕が全て片付けていたんだ!!」
俺の指摘に2人は顔を真っ赤にし、唾を飛ばす勢いで反論してきた。
「あのなぁ、レッド・ラットはロベリアとライトのすぐ側にいたんだぞ?そんな状況で中級魔術なんて発動してみろ、味方ごと殺す気か?それに、あの程度の魔物に武器も魔術も必要ない。もっと状況判断を学習したらどうだ?」
「そんなもの、僕の攻撃の瞬間に2人が避ければ済む話だ!」
「剣士たるもの剣を使うのは当然だろ!野蛮な平民の考え方と一緒にするな!!」
自らの失敗を認めないどころか責任転嫁している2人に、俺は盛大なため息を吐きながら口を開いた。
「あの状況で2人が動けるわけないだろ?腰が抜けてたんだぞ?そんな味方の近距離で武器なんて振り回してみろ、お前の技量じゃ味方ごと斬るだろ?」
「うるさい!!とにかく僕に謝れ!!」
「そうだ!貴族に向かって平民ごときが偉そうに!!さっさと土下座して謝れ!!」
俺の言葉に対して2人はもはや聞く耳を持たず、とにかく謝れと喚き散らしてきた。実際、俺から見れば2人の技量はまだまだひよっこ同然で、この失敗を糧に成長して欲しいと思っての苦言だったのだが、ただ相手が平民というだけでまるで意見を聞こうとしないのは問題だ。
「止めないか2人とも。確かに先程の我々の行動に関しては、それぞれの選択が誤っていた。私とセルシュはもっと声を掛け合ってお互いがどう動くかの連携を図るべきだったし、レンドールも倒れているロベリア達に声を掛け、動けるかの状態を確認するべきだった。いや、そもそもアルが言うように、武器や魔術を使用するという選択自体が誤っていた」
「なっ!マーガレット様!剣士の本分たる剣を操ることを否定されるのですか!?」
「そうです!それにこんな平民の指摘など、検討違いもいいとこです!」
言い争う声を聞き付けてか、マーガレット嬢がこちらに駆け寄って仲裁に入ろうとしたのだが、その言葉に反発を覚えたのか、2人はいっそう興奮した様子で声を荒げた。
「2人ともいい加減にしないか!座学の授業でも習ったはずだ。実戦で最も重要なことは状況判断だと!武器や魔術は使えるから使うんじゃない。状況に即したものであるかを判断した上で使うべきだと!あの状況での最善手は、私とセルシュが身体強化を施し、魔物を素手で蹴散らせば事足りたのだ!」
「し、しかし、貴族である我々が平民ごときに戦闘の実力で劣っているなど・・・」
「僕らは貴族なんです。平民の方が優れているなどあってはならない・・・」
マーガレット嬢の指摘を聞いても、なお彼らは自らの行動を省みることはなく、ただ悔しそうに肩を震わせているだけだった。その様子はまるで、自分の認めたくない現実を受け入れられない小さな子供が、ただただ癇癪を起こしている様だった。
(まぁ、俺から見れば皆まだまだ子供だからな。とはいえ、失敗を反省してこそ成長出来るものなんだが・・・)
彼らとマーガレット嬢のやり取りをぼんやりと見つめながら、レンドール少年とセルシュ少年の考え方をどう矯正していこうか思案に暮れるのだった。
出発から1時間。ようやく目的地のホーン・ラビットの巣に到着した。
ホーン・ラビットの巣は木の無い草原地帯となっており、地面には複数の大きな穴が顔を覗かせている。この穴の全てが内部で繋がっており、そこに大体50匹から100匹ほどの集団となって暮らしている。
討伐方法は至って簡単だ。巣穴に麻痺効果のある薬草を燻した煙を風魔術で送り込み、数分待つだけ。その薬草は魔物が嫌う匂いも放つため、弱ったホーン・ラビットが逃げ出してくるので止めを刺すだけだ。安全が考慮された、極めて初心者向きの実戦演習だ。
さすがにある程度森の雰囲気に馴れたのか、みんなの緊張感は当初よりも薄れていた。皆無というわけではないが、パニックを起こすほどではないだろう。
その為、マーガレット嬢の指示の元、着々と討伐準備を整えていく。ここではライトとロベリアが中心となって麻痺効果の薬草を燻し、それをレンドール少年が風魔術を発動して巣穴に送り込んでいた。
しばらくすると、そこかしこの穴からホーン・ラビットが飛び出てきたが、その動きは緩慢で、自慢の突進攻撃は見る影もなかった。そんな魔物達をマーガレット嬢とセルシュ少年が中心に討伐していき、遠くの巣穴から出てきた個体は、レンドール少年が下級の火魔術を発動して討伐していく。
レッド・ラットの時とは違い、状況の把握が出来ているようでひと安心しつつ、俺は次々と討伐していくホーン・ラビットの討伐証明部位である黒い角を、ライトと一緒になって採取していた。
戦闘開始から30分程が経過し、約20匹のホーン・ラビットを討伐すると、もう巣穴から出てこなくなった。元々臆病な性格をしている魔物なので、外の異変に気付いて閉じ籠ってしまったのだろう。こうなると日が変わるまで出てこないこともあるので、今回の実地演習の魔物の討伐については終了だろう。
時刻はもうすぐ昼の12時になる。時間も時間なので昼食の準備をしたいのだが・・・
「見て下さいましたか?マーガレット様!僕の勇姿を!」
「あ、あぁ・・・」
「僕の魔術もご覧になりましたか?遠距離の魔物をゴミのごとく屠る素晴らしい魔術でしたでしょう?」
「そ、そうだな・・・」
セルシュ少年とレンドール少年は戦闘が一段落すると、マーガレット嬢に向けて自分の勇姿を懇々と語っていた。食事の準備のためにホーン・ラビットの解体を手伝うように言ったのだが、「そんなのは戦闘をしていないお前達がやるべきだ!」と異口同音で2人から拒絶された。そんな彼らに挟まれた彼女は、頬をひきつらせながらも笑顔で相づちを打っている。
(あの年頃の男なら、女の子にちやほやされたいんだろうな。それとも侯爵令嬢のマーガレット嬢を本気で狙っているのか?)
彼女に対して事ある毎に反発する姿を見せていたのだが、それも好みの女性に対して良い格好をつけたい年頃の男子特有のものだったのかもしれない。そう考えると2人のアピール合戦も微笑ましいものに感じた。
「あんな事しても逆効果なのに・・・」
「マーガレット様もお可哀想に・・・」
こっちはこっちでさっさと食事の準備をするため、討伐したばかりのホーン・ラビットを捌いていた。手は止めること無く一口大の大きさに肉を切り分けながら、ロベリアとライトは冷めた目付きで2人の少年の言動を批判していた。
「彼らも必死なんだろ。今まで醜態を晒したから、ここで挽回しておかないとって思ってるんだろうぜ?」
「「・・・・・・」」
俺の言葉に2人は調理の手を止め、不思議なものを見るかのような顔を無言で向けてきた。
「?どうした?」
「アル君って大人なんだね。あんなに2人から嫌みを言われても、全く気にした素振りを見せないもん」
「アルさんは懐が深いです。外野から何を言われても自らの道を突き進む・・・尊敬します!」
2人から称賛の言葉をかけられ、何となく照れくさくなるが、事実として俺が彼らよりも大きく年上だからということもある。とはいえ、今まで自分の見た目から子供扱いされてきた過去を思い返すと、こうして面と向かって大人だと言われる事がこんなに嬉しいとは思いもよらなかった。
だからだろう、俺は無意識に改心のどや顔を浮かべてしまったようだ。
「ふっ、そうだろう?」
「う~ん、やっぱりアル君は見た目通りかな」
「ボクはその方が可愛らしくて良いと思いますよ」
さっきまでの大人の評価から一転し、途端に子供になってしまったことに俺は口を尖らせた。
「なんだよそれ~!!」
俺の反応に、2人は楽しそうに笑っていた。そんな俺達の様子に、マーガレット嬢が意味深な視線を向けてきていたのに気づくことはなかった。
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