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第三章 神樹の真実
神樹 5
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「セルシュ!前に出過ぎだ!!魔術師と離れ過ぎたら魔術が間に合わないぞ!」
「なっ!ま、魔術師が僕の剣技に指図するな!!」
「レンドール!もっと剣士達の動きを意識しろ!味方に魔術を当てる気か!?威力は必要最小限だ!」
「う、うるさい!!お前に言われなくても分かってる!!」
神樹の安全域の外、魔物蔓延る森の中で俺達は実地演習を行っている。
標的は表層に多く生息しているグレートボアという猪型の魔物だ。体長は2メートルほどで突進による攻撃を主体としてくるが、火を恐れる性質もあり、魔術師が火魔術で怯ませ、その隙に前衛の剣士が止めを刺せば比較的安全に討伐可能な難度4程度の魔物だ。
今回の演習では、俺が指揮官となって指示を出す役回りをしており、班員の動きについて目に付く事は適宜指摘している。俺自身は積極的に攻防に参加せず、指揮に専念している。というのも、レンドール少年が魔術は自分一人で十分だと主張した結果だ。
ただ戦闘中であるにも関わらず、俺の事を毛嫌いしている2人の少年はかなり反抗的だ。
「セルシュ!マーガレットとの連携にもっと意識を割け!ライトは怯えずに周辺の警戒にもっと意識を巡らせろ!ロベリアに魔物を近づけるなよ!」
「だから命令すんな!わかっているよ!」
「分かりましたアルさん!」
俺の指示にセルシュ少年はずっと反抗的で、ライトは真逆の素直な反応を見せた。そもそも今回の指揮に関しては、マーガレット嬢の発案だ。まぁ俺は魔術コースの首席なのだから普通の事ではあるが、約2名からの猛反発といったらなかった。
また、こうして実地演習に来ているのは、神樹の代替わりの準備のためでもある。安全域消失の危機に際して周辺の魔物を可能な限り討伐するため、学院にも協力の指示が来ているのだ。
ただ実のところ、神樹神話を信仰する貴族や為政者達は神樹の代替わりにかなり懐疑的らしい。寿命など存在しないと考えている彼らにとって、神樹を他の植物と同様に捉えるのは不敬だとのことだ。
とはいえ、国王としては帝国滅亡の現実も確認しており、何も行動をせずに万が一にも国を滅ぼすことは出来ないとして、一先ず騎士団に対して通常の食料調達任務を強化するという名目で周辺魔物の掃討の命令を出しているらしい。
また、神樹の代替わりや安全域の消失の可能性については国民に対して箝口令が敷かれることになった。無用な混乱を避けるためと、国民の多くは神樹神話を信仰しているため、その情報によって帝国のように反乱が起こるのではないかと危惧した結果だ。
その為、学院に対しても騎士団に出した指示同様に、冬に向けた食料調達任務の強化の協力要請となっている。
「アル!右側から更に2匹来ている!どうする!?」
「そっちは俺が足止めしておく!皆は目の前の魔物討伐に集中してくれ!」
既に把握はしていたが、マーガレット嬢はしっかりと周囲に意識を配ることができているようだ。ただ、他の班員達は残念ながら迫り来ている魔物に気づいてなかったようで、マーガレット嬢の警戒を促す声に驚き、動きが固くなってしまった。
そのため、安全を考慮して俺が対処すると言ったのだが・・・
「必要ない!僕がやってやる!魔方陣展開・・・魔力供給・・」
「よし!僕が討伐してやる!!」
「待て!レンドール!セルシュ!まだ目の前の魔物の討伐が終わってないだろ!!」
レンドール少年とセルシュ少年は俺の指示を無視するように、まだ距離があるのだが、魔物が迫り来ている方向へ向かって攻撃の準備を始めた。その様子に、マーガレット嬢が憤慨するように行動を咎めた。
指揮官の指示を無視したことも厳罰ものだが、目の前にはまだ討伐途中の3匹の魔物と戦闘中だ。連携もなく今の対処を放り出して勝手に次の標的に移るのは悪手でしかない。下手をすれば隊列が瓦解して全滅する可能性もある。
(マリアが言っていたな・・より力に固執するようになったって・・・)
先程から2人の戦闘を見ていると、どうにも攻撃に気が逸って防御の事を考えていない節がある。今は有利に戦闘を進めているから問題ないが、魔物の増援や自分達の勝手な行動でバランスが崩れると、攻撃に偏重している2人は痛い目に遭いかねない。
(攻撃こそが力と誤認しているようだな。実際に痛い目を見ないと学ばないか・・・)
内心でため息を吐きながら、右側から迫っている魔物の追撃に対応し始めた2人に視線を向ける。最悪、死ななければ何とでもなると考え、2人は放っておくことにした。
「ライト!身体強化全開で右のグレートボアに突っ込め!俺が必ず隙を作るから見逃さずに首を落とせ!」
「っ!は、はいっ!」
「マーガレットは左を!真ん中は俺がやる!」
「了解した!」
俺の指示にライトとマーガレットは即座に反応し、標的に対して攻撃しやすい場所へと移動する。2人の準備が整うまでに、俺は魔術の準備を整える。
「魔方陣三重展開・魔力供給・照準・・発動!!」
俺は火魔術を3つ同時に展開する。2つは牽制用の拳大の大きさの火球、一つは形状を短槍の様にしたものだ。標準から発動まで少し時間を空けたのは、ライトとマーガレットとのタイミングを合わせた為だ。
「やぁぁぁぁ!!」
「はぁぁぁあ!!」
2人が踏み込む寸前、俺の魔術が2匹のグレートボアに直撃し、その衝撃で動きが止まって首が跳ね上がり、弱点への狙いがつけやすくなる。
『『プギィィィ!!』』
叫び声を上げる魔物の首元に、2人がほぼ同時に逆袈裟斬りで剣を振り抜く。
「やぁ!」
「せいっ!」
『ドン!』
2人が魔物の首を刎ねたのと、俺の魔術が真ん中の一体を屠ったのは同時だった。マーガレットは学生でありながら卓越した剣技を身に付けているが、ライトは保有する膨大な魔力量からのゴリ押しなので、首の切断面を見ても力量差は明らかだ。
それでも入学当初から考えれば、難度は4とはいえ魔物を討伐できるだけの力が身に付いているので、このまま3年間きちんと学んでいけば、騎士団に入団出来る実力になるだろう。
それにひきかえ・・・
「ぐっ!!」
「バカ!僕の魔術の邪魔をするな!」
チラリとレンドール少年達の方を見やると、レンドール少年の放った火魔術の衝撃でセルシュ少年が魔物を前に倒れ込んでしまった。この2人だけだとまるで連携がとれておらず、好き勝手に攻撃しようとした結果、互いに足を引っ張りあっている。
『プギィィィ!!』
レンドール少年の火魔術は、一応2匹の内の1匹の動きを止めたが、残りの1匹が倒れ込んでいるセルシュ少年に襲いかかる。
「ぐぼっ!!」
鈍い音と共にセルシュ少年が宙を舞う。グレートボアの突進をまともに受けた結果だ。
「チッ!魔方陣展開・・・魔力供給・・・照じゅ、う、うわぁぁぁ!!」
セルシュ少年の様子にレンドール少年は舌打ちをしていた。その様子は、役に立たない奴だと見下しているようだったが、セルシュ少年を吹き飛ばしたグレートボアは当然それで動きを止めるわけがなく、そのままレンドール少年に向かっていく。
それに対して彼は魔術を発動しようとしたが、発動までの時間を稼ぐはずの前衛のセルシュ少年は吹き飛ばされて居ないので当然間に合わず、情けない悲鳴をあげて魔物に背を向けながら逃げだした。
「背を向けるな!魔物は本能的に逃げようとするものを襲うぞ!!」
レンドール少年の行動に、マーガレット嬢は彼らの救助に向かいながら大声で指摘していた。が、既に魔物は彼を標的にして動き出しているばかりか、動きを止められていたもう一匹も彼に向かっている。
「う、うわぁぁぁ!!し、死ぬ!死んじゃう!!あぐっ!」
後ろから迫りくる2匹の魔物に恐慌状態に陥ったレンドール少年は、足をもつらせて勢いよく顔面から地面に倒れ込んだ。
『『プギィィィィ!!』
「ひぃぃぃぃ!!」
「はぁぁあ!!アル!!」
倒れるレンドール少年を魔物が襲う寸前、マーガレットがギリギリ間に合い、前足の片方を斬り飛ばして転倒させた。
そして彼女はすぐ後方から迫りくる魔物の対処を俺に願うように名前を叫んだ。多少距離はあるが彼女の動きを見ていたので、既に魔術の発動準備は出来ていた。
「発動!」
『ドゴンッ!』
『ブギ・・・』
拳大の火魔術が迫っていた魔物の顔面に直撃すると、当たりどころが良かったようで、気絶したのか短い呻き声を残してその場に倒れ込んだ。
その時には既にマーガレットが片足を斬り飛ばした魔物の方に止めを刺しており、俺が魔物を気絶させたのを見て、すぐに駆け出して最後の一匹にも止めを刺したのだった。
その動きは、俺が確実にもう一匹の魔物を行動不能にすると信頼していたようだった。
「なっ!ま、魔術師が僕の剣技に指図するな!!」
「レンドール!もっと剣士達の動きを意識しろ!味方に魔術を当てる気か!?威力は必要最小限だ!」
「う、うるさい!!お前に言われなくても分かってる!!」
神樹の安全域の外、魔物蔓延る森の中で俺達は実地演習を行っている。
標的は表層に多く生息しているグレートボアという猪型の魔物だ。体長は2メートルほどで突進による攻撃を主体としてくるが、火を恐れる性質もあり、魔術師が火魔術で怯ませ、その隙に前衛の剣士が止めを刺せば比較的安全に討伐可能な難度4程度の魔物だ。
今回の演習では、俺が指揮官となって指示を出す役回りをしており、班員の動きについて目に付く事は適宜指摘している。俺自身は積極的に攻防に参加せず、指揮に専念している。というのも、レンドール少年が魔術は自分一人で十分だと主張した結果だ。
ただ戦闘中であるにも関わらず、俺の事を毛嫌いしている2人の少年はかなり反抗的だ。
「セルシュ!マーガレットとの連携にもっと意識を割け!ライトは怯えずに周辺の警戒にもっと意識を巡らせろ!ロベリアに魔物を近づけるなよ!」
「だから命令すんな!わかっているよ!」
「分かりましたアルさん!」
俺の指示にセルシュ少年はずっと反抗的で、ライトは真逆の素直な反応を見せた。そもそも今回の指揮に関しては、マーガレット嬢の発案だ。まぁ俺は魔術コースの首席なのだから普通の事ではあるが、約2名からの猛反発といったらなかった。
また、こうして実地演習に来ているのは、神樹の代替わりの準備のためでもある。安全域消失の危機に際して周辺の魔物を可能な限り討伐するため、学院にも協力の指示が来ているのだ。
ただ実のところ、神樹神話を信仰する貴族や為政者達は神樹の代替わりにかなり懐疑的らしい。寿命など存在しないと考えている彼らにとって、神樹を他の植物と同様に捉えるのは不敬だとのことだ。
とはいえ、国王としては帝国滅亡の現実も確認しており、何も行動をせずに万が一にも国を滅ぼすことは出来ないとして、一先ず騎士団に対して通常の食料調達任務を強化するという名目で周辺魔物の掃討の命令を出しているらしい。
また、神樹の代替わりや安全域の消失の可能性については国民に対して箝口令が敷かれることになった。無用な混乱を避けるためと、国民の多くは神樹神話を信仰しているため、その情報によって帝国のように反乱が起こるのではないかと危惧した結果だ。
その為、学院に対しても騎士団に出した指示同様に、冬に向けた食料調達任務の強化の協力要請となっている。
「アル!右側から更に2匹来ている!どうする!?」
「そっちは俺が足止めしておく!皆は目の前の魔物討伐に集中してくれ!」
既に把握はしていたが、マーガレット嬢はしっかりと周囲に意識を配ることができているようだ。ただ、他の班員達は残念ながら迫り来ている魔物に気づいてなかったようで、マーガレット嬢の警戒を促す声に驚き、動きが固くなってしまった。
そのため、安全を考慮して俺が対処すると言ったのだが・・・
「必要ない!僕がやってやる!魔方陣展開・・・魔力供給・・」
「よし!僕が討伐してやる!!」
「待て!レンドール!セルシュ!まだ目の前の魔物の討伐が終わってないだろ!!」
レンドール少年とセルシュ少年は俺の指示を無視するように、まだ距離があるのだが、魔物が迫り来ている方向へ向かって攻撃の準備を始めた。その様子に、マーガレット嬢が憤慨するように行動を咎めた。
指揮官の指示を無視したことも厳罰ものだが、目の前にはまだ討伐途中の3匹の魔物と戦闘中だ。連携もなく今の対処を放り出して勝手に次の標的に移るのは悪手でしかない。下手をすれば隊列が瓦解して全滅する可能性もある。
(マリアが言っていたな・・より力に固執するようになったって・・・)
先程から2人の戦闘を見ていると、どうにも攻撃に気が逸って防御の事を考えていない節がある。今は有利に戦闘を進めているから問題ないが、魔物の増援や自分達の勝手な行動でバランスが崩れると、攻撃に偏重している2人は痛い目に遭いかねない。
(攻撃こそが力と誤認しているようだな。実際に痛い目を見ないと学ばないか・・・)
内心でため息を吐きながら、右側から迫っている魔物の追撃に対応し始めた2人に視線を向ける。最悪、死ななければ何とでもなると考え、2人は放っておくことにした。
「ライト!身体強化全開で右のグレートボアに突っ込め!俺が必ず隙を作るから見逃さずに首を落とせ!」
「っ!は、はいっ!」
「マーガレットは左を!真ん中は俺がやる!」
「了解した!」
俺の指示にライトとマーガレットは即座に反応し、標的に対して攻撃しやすい場所へと移動する。2人の準備が整うまでに、俺は魔術の準備を整える。
「魔方陣三重展開・魔力供給・照準・・発動!!」
俺は火魔術を3つ同時に展開する。2つは牽制用の拳大の大きさの火球、一つは形状を短槍の様にしたものだ。標準から発動まで少し時間を空けたのは、ライトとマーガレットとのタイミングを合わせた為だ。
「やぁぁぁぁ!!」
「はぁぁぁあ!!」
2人が踏み込む寸前、俺の魔術が2匹のグレートボアに直撃し、その衝撃で動きが止まって首が跳ね上がり、弱点への狙いがつけやすくなる。
『『プギィィィ!!』』
叫び声を上げる魔物の首元に、2人がほぼ同時に逆袈裟斬りで剣を振り抜く。
「やぁ!」
「せいっ!」
『ドン!』
2人が魔物の首を刎ねたのと、俺の魔術が真ん中の一体を屠ったのは同時だった。マーガレットは学生でありながら卓越した剣技を身に付けているが、ライトは保有する膨大な魔力量からのゴリ押しなので、首の切断面を見ても力量差は明らかだ。
それでも入学当初から考えれば、難度は4とはいえ魔物を討伐できるだけの力が身に付いているので、このまま3年間きちんと学んでいけば、騎士団に入団出来る実力になるだろう。
それにひきかえ・・・
「ぐっ!!」
「バカ!僕の魔術の邪魔をするな!」
チラリとレンドール少年達の方を見やると、レンドール少年の放った火魔術の衝撃でセルシュ少年が魔物を前に倒れ込んでしまった。この2人だけだとまるで連携がとれておらず、好き勝手に攻撃しようとした結果、互いに足を引っ張りあっている。
『プギィィィ!!』
レンドール少年の火魔術は、一応2匹の内の1匹の動きを止めたが、残りの1匹が倒れ込んでいるセルシュ少年に襲いかかる。
「ぐぼっ!!」
鈍い音と共にセルシュ少年が宙を舞う。グレートボアの突進をまともに受けた結果だ。
「チッ!魔方陣展開・・・魔力供給・・・照じゅ、う、うわぁぁぁ!!」
セルシュ少年の様子にレンドール少年は舌打ちをしていた。その様子は、役に立たない奴だと見下しているようだったが、セルシュ少年を吹き飛ばしたグレートボアは当然それで動きを止めるわけがなく、そのままレンドール少年に向かっていく。
それに対して彼は魔術を発動しようとしたが、発動までの時間を稼ぐはずの前衛のセルシュ少年は吹き飛ばされて居ないので当然間に合わず、情けない悲鳴をあげて魔物に背を向けながら逃げだした。
「背を向けるな!魔物は本能的に逃げようとするものを襲うぞ!!」
レンドール少年の行動に、マーガレット嬢は彼らの救助に向かいながら大声で指摘していた。が、既に魔物は彼を標的にして動き出しているばかりか、動きを止められていたもう一匹も彼に向かっている。
「う、うわぁぁぁ!!し、死ぬ!死んじゃう!!あぐっ!」
後ろから迫りくる2匹の魔物に恐慌状態に陥ったレンドール少年は、足をもつらせて勢いよく顔面から地面に倒れ込んだ。
『『プギィィィィ!!』
「ひぃぃぃぃ!!」
「はぁぁあ!!アル!!」
倒れるレンドール少年を魔物が襲う寸前、マーガレットがギリギリ間に合い、前足の片方を斬り飛ばして転倒させた。
そして彼女はすぐ後方から迫りくる魔物の対処を俺に願うように名前を叫んだ。多少距離はあるが彼女の動きを見ていたので、既に魔術の発動準備は出来ていた。
「発動!」
『ドゴンッ!』
『ブギ・・・』
拳大の火魔術が迫っていた魔物の顔面に直撃すると、当たりどころが良かったようで、気絶したのか短い呻き声を残してその場に倒れ込んだ。
その時には既にマーガレットが片足を斬り飛ばした魔物の方に止めを刺しており、俺が魔物を気絶させたのを見て、すぐに駆け出して最後の一匹にも止めを刺したのだった。
その動きは、俺が確実にもう一匹の魔物を行動不能にすると信頼していたようだった。
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