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第三章 神樹の真実
神樹 24
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「・・・な、何だ。どうしたのだ?」
クリスティーナの発言で雰囲気が変わった謁見の間。その状況に困惑した軍務大臣のおっさんが、訳が分からないといった様子で狼狽している。
「アンドリュー大臣・・・今一度問います。何故ロズウェル第二王子が毒物によって殺されたと思ったのですか?」
「???そんなもの、この謁見の間へ来るまでに嫌でも耳に入ってくるだろう?城内はロズウェル殿下が王位簒奪を企てたことや、オースティン殿下がアルバートと共に制圧に当たっていると大騒ぎなのだぞ?」
おっさんの返答に、確かに俺も王城に到着してすぐにメイド達から国王が第二王子によって殺されてしまったことを聞かされていた。騒然としている城内だが、おっさんの言う通り嫌でも今回起こった出来事の話は耳に入ってくる。
「そうですね、これほどの騒ぎです。王位簒奪についてはあっという間に話が広まったでしょう。では、ロズウェル第二王子が毒殺されたと聞いたのも、ここに来るまでの道中ですか?」
「当然だろう。国家を揺るがす大騒動だ。城内のメイドや執事達が、本来なら機密となる情報を口にするなど処罰対象となるべきものだが、状況が状況だけに致し方あるまい」
おっさんは難しい表情を浮かべながらそう口にした。その様子にクリスティーナだけでなく、オースティンも目を見張り、敵意の籠った眼差しをおっさんへ向けていた。同時に、オースティンの命令で動きを止めていた騎士達から、動揺しているような雰囲気が感じられる。
「大臣が言うように、残念ながらロズウェル第二王子は毒殺されたのでしょう。それまでの様子が急変し、口から泡を吹きながら苦しんでいましたから・・・」
「???だからそう言ってーーー」
「第二王子が亡くなったのは、つい今しがた!それも、この場に居る我々もまだ死因の特定にまで至っておりません!裏切者の可能性を考慮し、騎士達には一歩も動くなとお兄様が命じられ、謁見の間のすぐ外には帝国の騎士の方達が周囲へ目を光らせておりました。そんな状況でどうやってメイドや執事達が毒殺の情報を耳にし、城内で噂すると言うのです?死因が毒なのかどうかも分からぬ状況で・・・」
「・・・・・・」
発言を遮るクリスティーナの言葉に、おっさんは一瞬目を丸くすると、沈黙したまま視線を目まぐるしく動かしている。そして、王国の騎士達の方へ視線を向けると、何事か納得したような表情を浮かべて目を閉じた。
「アンドリュー大臣。我が妹の言葉の通り、貴殿の説明は矛盾を生じている。現場にいた我らでさえ何が起きたのか理解していないのだ。にもかかわらず、状況を正確に知っているかのような貴殿の話・・・それは、事の顛末を用意した者の発言のようだ」
「ご説明願えますか?アンドリュー大臣?」
オースティンとクリスティーナからの詰問に、おっさんは静かに俯いたままだった。
◆
~~~ リッカー・アンドリュー 視点 ~~~
私は自分のことを天才だと思っていた。
貴族の中でも裕福な伯爵家の嫡男として生まれ、父親に幼い頃から家庭教師を付けられ、騎士学院入学を前にして身体強化や剣の技術において、現役の騎士からお墨付きをもらうほどだった。
学院でも常に首席を維持し、当時もあった剣武術コースと魔術コースの学生とのいざこざも、私が出張れば収まるほどに私という存在は学院中に轟いていた。
卒業後、当然のように騎士団へ所属し、そこでも頭角を現した私は、あれよあれよという間に出世コースをひた走り、第二騎士団の団長の椅子に座ったのは、当時最年少となる30歳を前にした辺りだった。そしてそれまでの功績もあり、我が家は伯爵から侯爵へと昇爵を果たし、私が当主を継いだのだった。
順風満帆な人生だった。成功が約束された人生だと信じて疑わなかった。
あの男に会うまでは・・・
当時第一騎士団団長であり、パラディン序列1位だった騎士は50歳を超えており、数年後に軍務大臣へと就任して団長を勇退する予定だった。その後任として当然私の名前が上がっていた。そんな折り、新人として入団してきたのがあの男、ライオネスという男との出会いが私の人生を狂わせた。
彼は子爵家の次男で、学院を首席で卒業した逸材という触れ込みの魔術師だった。高等技術である魔術の三重展開を得意とし、剣武術にも精通しているという、現代において異例の存在だ。私は彼が基本的には魔術師であるということから、剣術においては大したことはないだろうと考えていた。
しかし彼の剣の腕前は、私でも目を見張るほどだった。身体強化こそ出来ないものの、魔術による撹乱を併用することで、身体強化などに頼らなくとも魔物を剣術でもって大量に討伐しており、魔法剣士という新たなスタイルを確立していた。その討伐数は、団長である私を優に越えるものだった。
今まで私に向けられていた団員の称賛の眼差しは、あっという間に彼へと移った。そこまでなら私は何も思わなかっただろう。世の中上には上がいるということは理解していた。それが自分より一回り以上年下だったとしても、妬み嫉みは心の内に秘められた。
問題が起こったのは彼が入団してから数ヵ月後、女性関係が目も当てられないほどだらしない性格だと分かった頃だ。
学院生の頃から浮き名を流し、女性とのトラブルは数知れず。それでもその整った顔立ちから女性が途切れることはなく、時には5人の女性と同時に付き合うという極度の女好きだった。
更に奴は休暇などの時間、まったく鍛練をすることはなかった。他の団員が時間を見つけては鍛練で汗を流し、自らを鍛えている最中も女と遊び歩く始末だ。一度その事について注意した際、奴はあろうことかこう言ったのだ。「別に鍛練なんてしなくても、魔物を討伐するなんて簡単でしょ?」と。
その時の奴の表情は、今でも忘れられない。鍛練が苦痛で、嫌だからそう発言したのではない。ただ単に必要ないからの発言だったのだ。だからこそ奴は本当に不思議そうな顔をして首を傾げていた。
その言葉を実感したのはすぐだった。奴は真面目に鍛練していないはずなのに、実力はどんどん上達していき、入団から一年経つ頃には副団長となり、更に2年後には信じられない人事が告げられた。
「奴が第一騎士団団長へ就任?パラディン序列1位!?」
当時の軍務大臣からの言葉に、私は目眩を覚えた。約束されていたはずの第一騎士団団長の席とパラディン序列1位の称号、そのどちらも奴に奪われた。怒りや憎しみを覚えるも、既に奴の実力は私を大きく上回っていた。いくらこれまでの実績を背景に異議を唱えたところで、負け犬の遠吠えにしかならないことは明白だった。
しばらくは陰鬱な気分で日々の任務に当たっていたが、転機が訪れたのはそれから10年ほど経過した時だった。何とライオネスが死んだというのだ。娼婦と遊んだ上での腹上死ということだが、いかにも奴らしい最後だった。
これで私もようやく第一騎士団団長とパラディン序列1位の称号をもって、将来の軍務大臣へと出世コースに返り咲いたと歓喜した。
しかし、ここで予想だにしない事態が再び私を襲う。
「ライオネスの弟子がパラディン序列1位!?第一騎士団団長!?」
生前、ライオネスがどこからか拾ってきた子供。未成年であるにもかかわらず、異例にも第一騎士団へ入団させたと聞くが、出自も定かでない人物を栄えある役職に迎えようとする意味が理解できなかった。当然ながら騎士団内部から不満の声が噴出し、第一騎士団に所属していた騎士達からは大量に移動願いが出され受理された。
最終的にたった4人という人員になり、序列1位だ団長だの話は早々に取り下げられると思っていた。しかし、あろうことかライオネスの弟子はたった4人の騎士団でありながら、1000人を擁する騎士団以上の成果を挙げたのだ。
後で聞いた話だが、あの弟子の後ろには第一王子殿下が後見人になっていた。才を見い出したのは、妹君である第二王女殿下との事だ。
それからはあっという間だった。平民だったライオネスの弟子は団長就任と同時に子爵となり、その後の功績ですぐに伯爵へと昇爵し、圧倒的な実力からその地位を磐石なものとした。
対して私は前任の軍務大臣がその年齢から引退し、パラディン序列2位という立場から軍務大臣へと至った。通例では序列1位の騎士が就くはずの役職だ。
一応は自身が描いていた出世を果たして安堵したのも束の間、王城内での私の立場は微妙なものだった。「序列2位が大臣?」「万年二番手」「若者に追い抜かれた老害」等々。影から私の現状を揶揄するような言葉は数えきれないほど投げ掛けられた。特に文官どもは書類上の数字しか見ていないため、序列2位の私が大臣になったことを嘲笑っていた。
そんな日々が続き、いつしか私の心の中にはある想いが芽生えた。
『私がこの国を変える!もっと繁栄させて、私という存在を全ての人間に認めさせる!』
そうして、その願いはまもなく実現するはずだった。秘密裏に第一王子派閥、第二王子派閥のどちらの勢力にも与し、どちらにおいても確固たる立場を築き上げた。安全域の消失という不慮の事態をも利用し、第二王子を焚き付けて王位を簒奪させ、私の操り人形とするはずだった。
失敗したとて、その時は第二王子を切り捨て、第一王子の背後から国を操る準備もしていた。両殿下から信頼も厚い私には、それが可能だった。
帝国の皇帝がでしゃばりさえしなければ。
(まったく・・・私の人生は障害ばかりだ)
内心でため息を吐きながら、脳裏に謁見の間の情景を思い浮かべる。こちらの手勢の騎士は室内にいる10人ほど。アルバートが膝を着いて立ち上がれない状況を鑑みるに、魔力欠乏の可能性が高い。となれば数で押しきれるだろうが、不確定要素は帝国の騎士達と皇帝の言う能力。
(もはや後には引けん。ここを乗り越え、悲痛な声をあげて踞っていた第二王女を担ぎ上げれば、まだ軌道修正はできる!)
そう考え、私は決意を秘めて顔を上げた。
クリスティーナの発言で雰囲気が変わった謁見の間。その状況に困惑した軍務大臣のおっさんが、訳が分からないといった様子で狼狽している。
「アンドリュー大臣・・・今一度問います。何故ロズウェル第二王子が毒物によって殺されたと思ったのですか?」
「???そんなもの、この謁見の間へ来るまでに嫌でも耳に入ってくるだろう?城内はロズウェル殿下が王位簒奪を企てたことや、オースティン殿下がアルバートと共に制圧に当たっていると大騒ぎなのだぞ?」
おっさんの返答に、確かに俺も王城に到着してすぐにメイド達から国王が第二王子によって殺されてしまったことを聞かされていた。騒然としている城内だが、おっさんの言う通り嫌でも今回起こった出来事の話は耳に入ってくる。
「そうですね、これほどの騒ぎです。王位簒奪についてはあっという間に話が広まったでしょう。では、ロズウェル第二王子が毒殺されたと聞いたのも、ここに来るまでの道中ですか?」
「当然だろう。国家を揺るがす大騒動だ。城内のメイドや執事達が、本来なら機密となる情報を口にするなど処罰対象となるべきものだが、状況が状況だけに致し方あるまい」
おっさんは難しい表情を浮かべながらそう口にした。その様子にクリスティーナだけでなく、オースティンも目を見張り、敵意の籠った眼差しをおっさんへ向けていた。同時に、オースティンの命令で動きを止めていた騎士達から、動揺しているような雰囲気が感じられる。
「大臣が言うように、残念ながらロズウェル第二王子は毒殺されたのでしょう。それまでの様子が急変し、口から泡を吹きながら苦しんでいましたから・・・」
「???だからそう言ってーーー」
「第二王子が亡くなったのは、つい今しがた!それも、この場に居る我々もまだ死因の特定にまで至っておりません!裏切者の可能性を考慮し、騎士達には一歩も動くなとお兄様が命じられ、謁見の間のすぐ外には帝国の騎士の方達が周囲へ目を光らせておりました。そんな状況でどうやってメイドや執事達が毒殺の情報を耳にし、城内で噂すると言うのです?死因が毒なのかどうかも分からぬ状況で・・・」
「・・・・・・」
発言を遮るクリスティーナの言葉に、おっさんは一瞬目を丸くすると、沈黙したまま視線を目まぐるしく動かしている。そして、王国の騎士達の方へ視線を向けると、何事か納得したような表情を浮かべて目を閉じた。
「アンドリュー大臣。我が妹の言葉の通り、貴殿の説明は矛盾を生じている。現場にいた我らでさえ何が起きたのか理解していないのだ。にもかかわらず、状況を正確に知っているかのような貴殿の話・・・それは、事の顛末を用意した者の発言のようだ」
「ご説明願えますか?アンドリュー大臣?」
オースティンとクリスティーナからの詰問に、おっさんは静かに俯いたままだった。
◆
~~~ リッカー・アンドリュー 視点 ~~~
私は自分のことを天才だと思っていた。
貴族の中でも裕福な伯爵家の嫡男として生まれ、父親に幼い頃から家庭教師を付けられ、騎士学院入学を前にして身体強化や剣の技術において、現役の騎士からお墨付きをもらうほどだった。
学院でも常に首席を維持し、当時もあった剣武術コースと魔術コースの学生とのいざこざも、私が出張れば収まるほどに私という存在は学院中に轟いていた。
卒業後、当然のように騎士団へ所属し、そこでも頭角を現した私は、あれよあれよという間に出世コースをひた走り、第二騎士団の団長の椅子に座ったのは、当時最年少となる30歳を前にした辺りだった。そしてそれまでの功績もあり、我が家は伯爵から侯爵へと昇爵を果たし、私が当主を継いだのだった。
順風満帆な人生だった。成功が約束された人生だと信じて疑わなかった。
あの男に会うまでは・・・
当時第一騎士団団長であり、パラディン序列1位だった騎士は50歳を超えており、数年後に軍務大臣へと就任して団長を勇退する予定だった。その後任として当然私の名前が上がっていた。そんな折り、新人として入団してきたのがあの男、ライオネスという男との出会いが私の人生を狂わせた。
彼は子爵家の次男で、学院を首席で卒業した逸材という触れ込みの魔術師だった。高等技術である魔術の三重展開を得意とし、剣武術にも精通しているという、現代において異例の存在だ。私は彼が基本的には魔術師であるということから、剣術においては大したことはないだろうと考えていた。
しかし彼の剣の腕前は、私でも目を見張るほどだった。身体強化こそ出来ないものの、魔術による撹乱を併用することで、身体強化などに頼らなくとも魔物を剣術でもって大量に討伐しており、魔法剣士という新たなスタイルを確立していた。その討伐数は、団長である私を優に越えるものだった。
今まで私に向けられていた団員の称賛の眼差しは、あっという間に彼へと移った。そこまでなら私は何も思わなかっただろう。世の中上には上がいるということは理解していた。それが自分より一回り以上年下だったとしても、妬み嫉みは心の内に秘められた。
問題が起こったのは彼が入団してから数ヵ月後、女性関係が目も当てられないほどだらしない性格だと分かった頃だ。
学院生の頃から浮き名を流し、女性とのトラブルは数知れず。それでもその整った顔立ちから女性が途切れることはなく、時には5人の女性と同時に付き合うという極度の女好きだった。
更に奴は休暇などの時間、まったく鍛練をすることはなかった。他の団員が時間を見つけては鍛練で汗を流し、自らを鍛えている最中も女と遊び歩く始末だ。一度その事について注意した際、奴はあろうことかこう言ったのだ。「別に鍛練なんてしなくても、魔物を討伐するなんて簡単でしょ?」と。
その時の奴の表情は、今でも忘れられない。鍛練が苦痛で、嫌だからそう発言したのではない。ただ単に必要ないからの発言だったのだ。だからこそ奴は本当に不思議そうな顔をして首を傾げていた。
その言葉を実感したのはすぐだった。奴は真面目に鍛練していないはずなのに、実力はどんどん上達していき、入団から一年経つ頃には副団長となり、更に2年後には信じられない人事が告げられた。
「奴が第一騎士団団長へ就任?パラディン序列1位!?」
当時の軍務大臣からの言葉に、私は目眩を覚えた。約束されていたはずの第一騎士団団長の席とパラディン序列1位の称号、そのどちらも奴に奪われた。怒りや憎しみを覚えるも、既に奴の実力は私を大きく上回っていた。いくらこれまでの実績を背景に異議を唱えたところで、負け犬の遠吠えにしかならないことは明白だった。
しばらくは陰鬱な気分で日々の任務に当たっていたが、転機が訪れたのはそれから10年ほど経過した時だった。何とライオネスが死んだというのだ。娼婦と遊んだ上での腹上死ということだが、いかにも奴らしい最後だった。
これで私もようやく第一騎士団団長とパラディン序列1位の称号をもって、将来の軍務大臣へと出世コースに返り咲いたと歓喜した。
しかし、ここで予想だにしない事態が再び私を襲う。
「ライオネスの弟子がパラディン序列1位!?第一騎士団団長!?」
生前、ライオネスがどこからか拾ってきた子供。未成年であるにもかかわらず、異例にも第一騎士団へ入団させたと聞くが、出自も定かでない人物を栄えある役職に迎えようとする意味が理解できなかった。当然ながら騎士団内部から不満の声が噴出し、第一騎士団に所属していた騎士達からは大量に移動願いが出され受理された。
最終的にたった4人という人員になり、序列1位だ団長だの話は早々に取り下げられると思っていた。しかし、あろうことかライオネスの弟子はたった4人の騎士団でありながら、1000人を擁する騎士団以上の成果を挙げたのだ。
後で聞いた話だが、あの弟子の後ろには第一王子殿下が後見人になっていた。才を見い出したのは、妹君である第二王女殿下との事だ。
それからはあっという間だった。平民だったライオネスの弟子は団長就任と同時に子爵となり、その後の功績ですぐに伯爵へと昇爵し、圧倒的な実力からその地位を磐石なものとした。
対して私は前任の軍務大臣がその年齢から引退し、パラディン序列2位という立場から軍務大臣へと至った。通例では序列1位の騎士が就くはずの役職だ。
一応は自身が描いていた出世を果たして安堵したのも束の間、王城内での私の立場は微妙なものだった。「序列2位が大臣?」「万年二番手」「若者に追い抜かれた老害」等々。影から私の現状を揶揄するような言葉は数えきれないほど投げ掛けられた。特に文官どもは書類上の数字しか見ていないため、序列2位の私が大臣になったことを嘲笑っていた。
そんな日々が続き、いつしか私の心の中にはある想いが芽生えた。
『私がこの国を変える!もっと繁栄させて、私という存在を全ての人間に認めさせる!』
そうして、その願いはまもなく実現するはずだった。秘密裏に第一王子派閥、第二王子派閥のどちらの勢力にも与し、どちらにおいても確固たる立場を築き上げた。安全域の消失という不慮の事態をも利用し、第二王子を焚き付けて王位を簒奪させ、私の操り人形とするはずだった。
失敗したとて、その時は第二王子を切り捨て、第一王子の背後から国を操る準備もしていた。両殿下から信頼も厚い私には、それが可能だった。
帝国の皇帝がでしゃばりさえしなければ。
(まったく・・・私の人生は障害ばかりだ)
内心でため息を吐きながら、脳裏に謁見の間の情景を思い浮かべる。こちらの手勢の騎士は室内にいる10人ほど。アルバートが膝を着いて立ち上がれない状況を鑑みるに、魔力欠乏の可能性が高い。となれば数で押しきれるだろうが、不確定要素は帝国の騎士達と皇帝の言う能力。
(もはや後には引けん。ここを乗り越え、悲痛な声をあげて踞っていた第二王女を担ぎ上げれば、まだ軌道修正はできる!)
そう考え、私は決意を秘めて顔を上げた。
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