変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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出会い編

ルピス・エレメント 4

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「た、助けてくれて、ありがとうございます」
「お礼には及ばないです!ボクは自分のものを守っただけです!」

 本当は僕が彼女を守ろうとしたのだけれど、結果的に彼女に守られることになってしまった事に感謝の言葉を伝えた。すると彼女は、何て事ないというような様子で気さくに答えてくれたのだが、その後に続く言葉に不安を感じてしまう。それでも先ずは自己紹介をしようと考えて、恐怖心に耐えながらも相手の目を見て自分の名前を名乗る。

「えっと、僕はジール・シュライザーと言います。あの、あなたのお名前は?」
「なるほど、ジールさんと言うのですね?ボクの名前はルピス・エレメント。人狼の国、エレメント王国の第五王女です」
「っ!!お、王女殿下でしたか!し、失礼しました!」

驚くことに目の前の少女は、人狼の国の王女なのだという。さっきまでの自分の言動が不敬だったと気付き、とにかく頭を下げた。

「そんな仰々しい態度をとらなくても良いのです!ジールさんはボクのもの!畏まった言葉遣いも不要なのです!」

僕の対応に気を悪くされていないと言われて安堵するが、やはり殿下の口から発せられる「ボクのもの」という言葉に、言い様のない不安感が募る。

「あ、あの?先程から僕の事を、“殿下のもの”と表現していますが、それはどういった意味なのでしょうか?」
「ん?そう言えばまだ伝えてなかったですね。ボクの中では既に確定事項ですから、すっかり失念していたです」
「は、はぁ?」

殿下の言葉に間の抜けたような声が出てしまったが、それを気にする余裕はなかった。何故なら、続く殿下の言葉に僕はしばらく固まってしまったからだ。

「ジールさんが男の子なのにこんな危険な森に一人で居るのは、きっと親に捨てられて途方に暮れて迷い込んでしまったのでしょう。そんな状況にも関わらず、常識的に考えて自分よりも強い女の子であるボクを助けようとする姿・・・とても心を打たれたです!他種族とはいえ、そんな健気な男の子をこの場に放置して去るのは、王族として教育を受けてきたボクには出来ないです。だから、ボクと一緒にエレメント王国へ来るのです!ジールさんを幸せにすると約束するのです!」
「・・・・・・」

殿下の言葉に、僕がこの森に居る事情について、何をどう説明しようかと頭をフル回転させた。それでもすぐには言葉が出ず、真面目な表情で僕に向かって手を差し伸ばしてくる殿下をまじまじと見つめるだけになってしまった。

「ん?返事はもちろん、『はい』なのですよね?」
「・・・・・・」
「人族だからという心配があるのですか?大丈夫なのですよ!ボクはさっき言ったように、王族である王女の一人。まだ14歳といっても、人族の男の子一人くらい養う甲斐性はあるのですよ?」
「・・・・・・」
「ん?」

僕が何も言えずに固まっていると、殿下は僕を安心させようと色々と話をしてくれるのだが、そうするのが当然でしょ、というような殿下の言動に恐怖を感じてしまう。そんな動きを見せない僕に対して、殿下も困惑したように小首を傾げていた。


 それからしばらく殿下との間には微妙な空気が流れていたが、ようやく言うべき事の整理がついた僕は、不敬にならないよう細心の注意を払いながら口を開いた。

「あの、殿下?」
「あっ、ようやく決心してくれましたですか?」
「いっ、いえ、そうではなくて・・・僕がこの夕闇の森に来ているのは、自分を鍛えるため、鍛練の一環としてなんです・・・」
「???鍛練なのですか?」

男性である僕が鍛練をしに来た、という常識では考えられない状況に、殿下は困惑した表情を浮かべていた。

「はい。僕にはアルマエナジーが大量にあるようでして、その能力を自分の夢に活かしたいと考え、母さんに懇願してこの森まで来ました。それに、そもそも母さんと一緒に来ていまして、拠点を築いた後に3日間一人で生き延びるようにと指示されているんです。ですので、拠点には母さんが待っているんです」
「・・・っ!!」

僕の説明を聞いた殿下はしばらく考え込むような仕草を見せると、急に顔を真っ赤にして恥ずかしがるように顔を手で覆った。

「ボ、ボクはとんだ勘違いをしていたのです!もうジールさんを国に連れ帰り、お母様に許可を取って一緒に暮らし、将来は3人の子供に囲まれた仲睦まじい様子までしっかり想像できていたのに・・・穴があったら入りたいです!」
「あ、あははは・・・」

言わなくてもいいことまで赤裸々に語る殿下に対して、乾いた笑い声しか出てこなかった。


 これまでの話を思い起こすと、殿下の年齢は僕と同じ14歳のようだ。感情に連動してピコピコと動いているケモ耳と尻尾が愛くるしさを醸し出しているが、同年代のクラスメイトの女の子と比較すると、女性の象徴でもある胸が大きく主張しており、女性恐怖症である僕にとっては結構威圧されてしまう体型をしていた。

「と、ところで殿下は、どうしてこんな森の中に?」

殿下が落ち着いたところで、僕も疑問に思っていたことを質問した。こんな森の中、人狼の国の王族である殿下が、一人で害獣に取り囲まれていたことは元より、僕の勘違いでなければここはまだドーラル王国の領土内のはずだ。

「ボクの方は、まぁ人狼族の王族ならではのしきたりで、15歳になる前に一人前であることを証明する通過儀式として、この森で3日間過ごさないといけないのです」
「そ、そうなんですね。あの、この森はドーラル王国とエレメント王国を分け隔てていると聞いていますが、殿下の居るこの場所は、まだドーラル王国の中ではないかと思うんですが・・・」

恐る恐るそう切り出すと、殿下は頭に手を当てて天を仰ぎ見ていた。

「あ~、やっぱりそうですか?途中で道に迷って、結構さ迷ってしまったです」

失敗したとでもいうような感じで、何故殿下がドーラル王国の領土内に来てしまったかの理由を説明してくれた。道に迷ったということであれば、エレメント王国方面まで案内した方がいいのかとも考え、殿下はどうしたいのかを確認することにした。

「よろしければ、エレメント王国の国境付近までお送りしましょうか?」
「それはありがたいです!でも、まだ丸2日間はこの森に居なければいけないので、良かったらジールさんの鍛練の手伝いをするですよ?送ってももらうのは、その後でも構わないです」

思いがけない殿下の申し出に、どうしたものかと考え込む。出来ればこのまま何事もなく殿下をエレメント王国へと送り返したいのだが、それを正直に伝えてしまうと、当然のごとく僕が殿下の申し出を承諾すると確信しているような、あのキラキラとした期待の表情を裏切ってしまう可能性が非常に高い。

(相手は隣国の王女殿下・・・機嫌を損ねるようなことがあっては最悪、国際問題に発展しかねない・・・)

僕は盛大なため息を吐き出したい気持ちをぐっと堪え、努めて笑顔を浮かべて殿下にお願いした。

「・・・殿下のお心遣い、とてもありがたいです。ご迷惑でなければ、僕にアルマエナジーの扱いについてご教授願えませんでしょうか?」
「ふふふ、もちろんなのです!若干10歳で具現化を成し遂げたこのルピスが、ジールさんの力になってあげるのです!!」

殿下はそう言うと自分の胸を力強く叩いて見せたのだが、柔らかな胸のせいなのだろう、服越しにその指は吸い込まれて見えなくなってしまった。
その光景に、より殿下が女性であるということを強調されたようで、僕は無意識に殿下から離れるように距離をとっていたのだった。 
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