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出会い編
ルピス・エレメント 7
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『ブルォォォ!!』
「っ!!!」
ピッグディザスターの老成体が咆哮をあげると同時に、その前足を上げた。相手のあまりの巨大さに距離感がおかしく感じるが、自分達を完全に覆い尽くすほどの影が落ちている現実が、その危険性を僕に訴えてくる。
「で、殿下!!」
「・・・・・・」
さっきまで成体の攻撃を問題なく防いでいたが、迫りくる老成体の足を見た瞬間、言いようもない悪寒が身体を駆け巡った。その本能からの警告に従い、僕は殿下を抱き締めたまま横っ飛びに飛び退き、老成体の攻撃範囲から逃れようと必死に身体を動かした。
直前、殿下に声をかけたのだが、目の焦点が合っておらず、大量に冷や汗を流している姿を見て、今の殿下は自分で判断する思考が欠如しているようだった。しかも、先ほどの咆哮の影響か、殿下が纏っていた具現化させていたアルマエナジーも消滅しており、本当に危険な状態だ。
『ズズ~~~ン!!』
「ぐあぁぁ!!」
「・・・・・・」
僕が何とか老成体の攻撃範囲から逃れた次の瞬間には、それまで横たわっていた場所に、その巨大な足が振り下ろされていた。老成体の足が地面に激突した影響で、間近に居た僕達に衝撃波が直撃してきた。ただ、地面に転がっている状態だったこともあり、何とか吹き飛ばされずに済んだ。そんな状況でも、殿下は声を発することなく、青い表情のまま虚空を見つめているようだった。
『ブルォ~!!』
僕らを仕留め損ねたからか、老成体は再度咆哮あげると、あり得ないことに自らの身体の回りに、具現化させたであろうアルマエナジーを出現させた。
「っ!!あれは牙っ!?」
驚きの連続に途方に暮れてくるが、今はとにかく眼前の事に集中しなければならない。具現化させたと思われる老成体のアルマエナジーは、自身の口に生えている立派な牙のような形状をしており、それが何十個とこちらに切っ先を向けて浮かんでいる。
『ブロォォォ!!』
「・・・嘘っ!?」
最悪の想像が頭を過ったが、それが実現しないで欲しいと願う僕を嘲笑うかのように、僕達の方へ向けて一斉に襲い掛かってきた。
(し、死ぬっ!!)
迫りくる具現化された牙を見て、僕の心には諦めの感情が浮かんでしまった。
「い、嫌だ・・・」
目を閉じて運命を受け入れようとした僕の耳元に、か細い声で殿下の恐怖に染まる言葉が聞こえた。その声に僕は目を見開き、殿下の姿を見る。身体を硬直させ、涙を流しながら震えているその様子は、いつかの自分の姿を思い起こされる。
(そうだ・・・僕が力を求めたのは、何も出来なかった自分を変えたかったからだ!)
過去の自分の決意を思い出すと、自分の身体に力が戻った気がした。いや、今まで以上の力が溢れ出してきている感じさえした。
「自分を、殿下を、皆を、守る力を・・・『顕現せよ!!』」
その言葉を発した瞬間、自分の身体の感覚が切り替わったような気がした。周りの動きがより鮮明に見え、しかも自分の感覚的にはゆっくりとした動作に映る。それでいて、自分の身体の頭の天辺から爪先まで完全に把握しているというような、少しの全能感まで感じる。そして、僕の右手には純白に輝く一振りの刀が現れていた。
具現化した刀を構えると、まるで今までずっとその刀で鍛練してきたかのように不思議と手に馴染む。更に、まるで僕の魂がその刀の扱い方を導いてくれるかのように、ほとんど無意識の内に身体が動いていた。
「シッ!」
『ブモッ!?』
抱き締めていた殿下を片手で抱えたまま立ち上がり、それと同時、頭上に横薙ぎに刃を振るう。すると、僅かな手応えと共に老成体が放った数十の牙は弾き飛んでいった。まさか自分の具現化した牙が弾かれるとは思っていなかったのだろう、驚いた様な顔を浮かべながら一歩後退した老成体は、困惑したような声を漏らしていた。
「ジ、ジールさん?」
片手で殿下を守るように抱き締めているその中から、信じられないといった表情の殿下が、僕の名前を呼ぶ声が届く。
「大丈夫です。殿下は僕が守ります。すみませんが、もう少しだけ辛抱していてください」
「・・・・・・」
安心させようと笑顔を浮かべて伝えたのだが、殿下は何も言わず、熱にうなされたような表情で僕の事を見つめ続けていた。先程までの混乱や焦燥等は見られないので、とりあえず大丈夫だろうと判断した僕は、未だこちらを睥睨してくる老成体に切っ先を向けて宣言する。
「掛かってくるなら容赦しない!それでも、これ以上争いを望まないのなら、大人しく帰ってくれ!」
常識的に考えて人間の言葉が害獣に伝わるわけはないと思いつつ、そう言い放った。何故かは分からないが、この老成体になら理解できると思ってしまったのだ。正直に言えば、これ以上の戦いはしたくない。具現化したことで、老成体相手にもある程度戦える気がするのだが、殿下を庇った今のままでは対応が難しい上、万が一にも殿下の命を危険に晒すわけにもいかないからだ。
『・・・・・・』
「・・・・・・」
しばらく睨い合いが続いたかと思うと、不意に老成体は後ろに方向転換し、そのままゆっくりとした動作で森の奥の方へと去っていった。僕らを囲んでいたピッグディザスターも、その後に続くようにして追従して消えてしまった。
「た、助かった・・・」
害獣の姿が完全に見えなくなると、僕は全身から力が抜けてしまったようで、具現化を解除して地面に片膝を着いた。極度の精神的な緊張感から解放されたことで、僕は今までで一番大きなため息を吐き出し、自分の心を落ち着けた。今になって気づいたのだが、全身をびっしょりとした汗が流れていたようだった。
「あ、あの、ジールさん?」
「っ!す、すみません殿下!無礼にもずっと抱き締めてしまって・・・」
「い、いえ、その・・・ありがとうです」
殿下に声を掛けられて、自分の今の状態にハッとした。僕は慌てて抱き締めていた手を離し、殿下から少し距離をとって無礼をお詫びした。そんな僕に殿下は、顔を赤く染め、目を合わせようとはしてくれなかったが、それが怒りの感情からでないことは何となく分かった。もしかしたら、老成体相手に自分が動けなかった事を恥じているのかもしれない。
「とにかく無事で何よりです。どこかお怪我はありませんか?」
「そ、その・・・ジールさんに守ってもらっていたから、大丈夫なのです」
未だ老成体と遭遇した衝撃が消えないようで、殿下の声には今までのような元気が無いような気がした、それでも、とりあえず何事もなく事態が過ぎ去ったことに安堵した。
それから僕達は泉の方へと戻り、タオルで汗を拭った。そのまま昼食にしようと、討伐したピッグディザスターを一口大に切り、塩コショウを振って木の串に差し、焚き火で炙った。そうして出来上がった肉串を、殿下は小動物のように一生懸命食べているのを見て、少し微笑ましく感じた。
「これからどうしましょうか?」
食事も一段落して落ち着いたところで、殿下に対してこれからのことを確認した。
「そうですね。本来はボクもあと2日間森に居ないといけないですが、ピッグディザスターの老成体を発見してしまった以上、その情報を早急に国に持ち帰る必要があるです」
いつもの調子を取り戻したように見える殿下は、真剣な表情をしながらそう答えた。確かに老成体は天災と言われるほどの存在なので、国家としても把握しておきたい情報なのは間違いない。その動向を監視し、もしも国に厄災が振り掛かる兆候が見られれば、クルセイダー総出で対処しなければならない事案だからだ。
「それはそうですね。僕も母さんに合流して今回の件を伝えます」
「それがいいです。ただ・・・少し身体を休める必要があるのも事実なのです。今日はしっかり休息をとって、明日動くことにするです。ジールさんもそれでいいです?」
殿下の問い掛けに少し考えるが、確かに殿下はかなりのアルマエナジーを消耗していそうだし、僕も精神的な疲れが溜まっていると感じている。ここで無理に動くよりも、体調を万全にしてから動く方が得策だと感じた。
「分かりました。僕もそうします」
「決まりなのです!では、早速野営の準備をするのです!」
殿下は僕の返事に、満面の笑みを浮かべていた。
◆
side ルピス・エレメント
(何なのです?この胸の高鳴りは・・・)
火を起こし、昼食の準備をしているジールさんの横顔をこっそり盗み見ながら、今まで感じたことのない激しい感情にボクは困惑していたのです。
初めて彼を見た時は、ボクが守ってあげなければならないという保護欲が刺激されていたですが、あのピッグディザスターの老成体と遭遇してから、その感情は一転したのです。ジールさんの意外と逞しい腕の中に居ると、この人に守られていたい、ボクのことを見ていて欲しいという気になってしまったのです。
(もしかして、これが初恋というものなのです?でも、ジールさんは人族で、ボクは人狼族・・・国として、他種族との婚姻は認められてないです・・・)
許されない恋に落ちてしまった自分の感情を、どう落ち着けようか悩んでいると、一つの名案を思い付いたのです。
(そうなのです!序列1位になって国家間の決闘で勝利すれば、大抵の願いは叶えてくれるはずです!それにボクは王族といっても第五王女。そこまで五月蝿く言われないはずです!)
そうと決まれば、後はそれに向けた必要な準備を整えなければと考えたのです。その中でも最重要なのは、ジールさんにもボクの事を好きになってもらう事なのです。そして、彼の老成体を退けるほどのアルマエナジーの濃密な具現化の実力を考えれば、人族の中で序列1位になることも可能なはずなのです。
(あとは、人族ともある程度の友好関係の強化をお母様に打診し、その国の実力者であるジールさんをボクのお婿さんにする・・・これは完璧な作戦なのです!)
ジールさんをボクのものにする算段を考えていると、彼から今後の予定を聞かれたので、一先ずは身体を癒すことを提案したのです。ボクの言葉にジールさんは疑問を抱くことなく了承すると、野営の準備を始めたのです。
(ふふふ。これでもボクは、エレメント王国のアイドルとして国民から人気を博しているのです!最近大きくなってきた胸が気になっていたところですが、これは武器として使えそうです!)
王宮で下働きをしている男性から、最近成長著しいボクの胸をイヤらしく盗み見てくる者達が居たことで、お母様に相談したことがあったです。曰く、男性とは自分にない異性の特徴に惹かれるもので、それは本能的なものだということらしいです。その時は、男性が自分に邪な視線を向けることに渋い顔をしたですが、今の状況を考えればこれはチャンスなのです。
(2人っきりの夜営・・・うっかり着替えを見られたり、寝ぼけて彼に抱きつくなど、イベントには事欠かないのです!覚悟するですジールさん!ボクの魅力で一晩掛けて、あなたをメロメロにするです!)
その決意で彼と共に一晩を過ごしたのです。
うっかり着替えている時に彼にテントに入ってきてもらい、ボクの下着姿を見せたり、手触りには自信のあるモフモフな尻尾を触らせてみたり、更には就寝する際に寝ぼけて彼に胸を押し当ててみたりと、様々な攻撃を仕掛けたのです。
結果は・・・
「おはようございます、ルピス殿下」
「・・・お、おはようなのです」
ジールさんは爽やかな笑顔をボクに向けて、朝の挨拶をしてきたのです。その表情は、とてもボクに恋しているという顔には見えないです。昨夜は様々な魅了攻撃を仕掛けたものの、彼は身体を強張らせるばかりで、恥ずかしがっているとか嬉しがっているという様子がまるで見られなかったのです。
(お、おかしいのです!聞いてた話しと違うのです!)
如何にジールさんを落とすかに悩んで寝不足気味なボクが、唯一彼との関係性を進展させたと思える成果は、彼に名前を呼んでもらうことと、将来また会いましょうという約束をする事くらいだったのです。
そうしてジールさんが用意してくれた朝食を食べたあと、彼の案内でエレメント王国の国境付近まで誘導してもらったです。別れ際、ボク達は力強い握手を交わして再会を確認し合うと、彼は笑顔で手を振りながら去っていったです。
(ジールさん。きっとボクに恋させて見せるです!次に会う時は、本当に覚悟するです!!)
女性としての魅力に磨きを掛けようと決意したボクは、ピッグディザスター老成体発見の報告をするべく、王都に向けて走り出したです。
「っ!!!」
ピッグディザスターの老成体が咆哮をあげると同時に、その前足を上げた。相手のあまりの巨大さに距離感がおかしく感じるが、自分達を完全に覆い尽くすほどの影が落ちている現実が、その危険性を僕に訴えてくる。
「で、殿下!!」
「・・・・・・」
さっきまで成体の攻撃を問題なく防いでいたが、迫りくる老成体の足を見た瞬間、言いようもない悪寒が身体を駆け巡った。その本能からの警告に従い、僕は殿下を抱き締めたまま横っ飛びに飛び退き、老成体の攻撃範囲から逃れようと必死に身体を動かした。
直前、殿下に声をかけたのだが、目の焦点が合っておらず、大量に冷や汗を流している姿を見て、今の殿下は自分で判断する思考が欠如しているようだった。しかも、先ほどの咆哮の影響か、殿下が纏っていた具現化させていたアルマエナジーも消滅しており、本当に危険な状態だ。
『ズズ~~~ン!!』
「ぐあぁぁ!!」
「・・・・・・」
僕が何とか老成体の攻撃範囲から逃れた次の瞬間には、それまで横たわっていた場所に、その巨大な足が振り下ろされていた。老成体の足が地面に激突した影響で、間近に居た僕達に衝撃波が直撃してきた。ただ、地面に転がっている状態だったこともあり、何とか吹き飛ばされずに済んだ。そんな状況でも、殿下は声を発することなく、青い表情のまま虚空を見つめているようだった。
『ブルォ~!!』
僕らを仕留め損ねたからか、老成体は再度咆哮あげると、あり得ないことに自らの身体の回りに、具現化させたであろうアルマエナジーを出現させた。
「っ!!あれは牙っ!?」
驚きの連続に途方に暮れてくるが、今はとにかく眼前の事に集中しなければならない。具現化させたと思われる老成体のアルマエナジーは、自身の口に生えている立派な牙のような形状をしており、それが何十個とこちらに切っ先を向けて浮かんでいる。
『ブロォォォ!!』
「・・・嘘っ!?」
最悪の想像が頭を過ったが、それが実現しないで欲しいと願う僕を嘲笑うかのように、僕達の方へ向けて一斉に襲い掛かってきた。
(し、死ぬっ!!)
迫りくる具現化された牙を見て、僕の心には諦めの感情が浮かんでしまった。
「い、嫌だ・・・」
目を閉じて運命を受け入れようとした僕の耳元に、か細い声で殿下の恐怖に染まる言葉が聞こえた。その声に僕は目を見開き、殿下の姿を見る。身体を硬直させ、涙を流しながら震えているその様子は、いつかの自分の姿を思い起こされる。
(そうだ・・・僕が力を求めたのは、何も出来なかった自分を変えたかったからだ!)
過去の自分の決意を思い出すと、自分の身体に力が戻った気がした。いや、今まで以上の力が溢れ出してきている感じさえした。
「自分を、殿下を、皆を、守る力を・・・『顕現せよ!!』」
その言葉を発した瞬間、自分の身体の感覚が切り替わったような気がした。周りの動きがより鮮明に見え、しかも自分の感覚的にはゆっくりとした動作に映る。それでいて、自分の身体の頭の天辺から爪先まで完全に把握しているというような、少しの全能感まで感じる。そして、僕の右手には純白に輝く一振りの刀が現れていた。
具現化した刀を構えると、まるで今までずっとその刀で鍛練してきたかのように不思議と手に馴染む。更に、まるで僕の魂がその刀の扱い方を導いてくれるかのように、ほとんど無意識の内に身体が動いていた。
「シッ!」
『ブモッ!?』
抱き締めていた殿下を片手で抱えたまま立ち上がり、それと同時、頭上に横薙ぎに刃を振るう。すると、僅かな手応えと共に老成体が放った数十の牙は弾き飛んでいった。まさか自分の具現化した牙が弾かれるとは思っていなかったのだろう、驚いた様な顔を浮かべながら一歩後退した老成体は、困惑したような声を漏らしていた。
「ジ、ジールさん?」
片手で殿下を守るように抱き締めているその中から、信じられないといった表情の殿下が、僕の名前を呼ぶ声が届く。
「大丈夫です。殿下は僕が守ります。すみませんが、もう少しだけ辛抱していてください」
「・・・・・・」
安心させようと笑顔を浮かべて伝えたのだが、殿下は何も言わず、熱にうなされたような表情で僕の事を見つめ続けていた。先程までの混乱や焦燥等は見られないので、とりあえず大丈夫だろうと判断した僕は、未だこちらを睥睨してくる老成体に切っ先を向けて宣言する。
「掛かってくるなら容赦しない!それでも、これ以上争いを望まないのなら、大人しく帰ってくれ!」
常識的に考えて人間の言葉が害獣に伝わるわけはないと思いつつ、そう言い放った。何故かは分からないが、この老成体になら理解できると思ってしまったのだ。正直に言えば、これ以上の戦いはしたくない。具現化したことで、老成体相手にもある程度戦える気がするのだが、殿下を庇った今のままでは対応が難しい上、万が一にも殿下の命を危険に晒すわけにもいかないからだ。
『・・・・・・』
「・・・・・・」
しばらく睨い合いが続いたかと思うと、不意に老成体は後ろに方向転換し、そのままゆっくりとした動作で森の奥の方へと去っていった。僕らを囲んでいたピッグディザスターも、その後に続くようにして追従して消えてしまった。
「た、助かった・・・」
害獣の姿が完全に見えなくなると、僕は全身から力が抜けてしまったようで、具現化を解除して地面に片膝を着いた。極度の精神的な緊張感から解放されたことで、僕は今までで一番大きなため息を吐き出し、自分の心を落ち着けた。今になって気づいたのだが、全身をびっしょりとした汗が流れていたようだった。
「あ、あの、ジールさん?」
「っ!す、すみません殿下!無礼にもずっと抱き締めてしまって・・・」
「い、いえ、その・・・ありがとうです」
殿下に声を掛けられて、自分の今の状態にハッとした。僕は慌てて抱き締めていた手を離し、殿下から少し距離をとって無礼をお詫びした。そんな僕に殿下は、顔を赤く染め、目を合わせようとはしてくれなかったが、それが怒りの感情からでないことは何となく分かった。もしかしたら、老成体相手に自分が動けなかった事を恥じているのかもしれない。
「とにかく無事で何よりです。どこかお怪我はありませんか?」
「そ、その・・・ジールさんに守ってもらっていたから、大丈夫なのです」
未だ老成体と遭遇した衝撃が消えないようで、殿下の声には今までのような元気が無いような気がした、それでも、とりあえず何事もなく事態が過ぎ去ったことに安堵した。
それから僕達は泉の方へと戻り、タオルで汗を拭った。そのまま昼食にしようと、討伐したピッグディザスターを一口大に切り、塩コショウを振って木の串に差し、焚き火で炙った。そうして出来上がった肉串を、殿下は小動物のように一生懸命食べているのを見て、少し微笑ましく感じた。
「これからどうしましょうか?」
食事も一段落して落ち着いたところで、殿下に対してこれからのことを確認した。
「そうですね。本来はボクもあと2日間森に居ないといけないですが、ピッグディザスターの老成体を発見してしまった以上、その情報を早急に国に持ち帰る必要があるです」
いつもの調子を取り戻したように見える殿下は、真剣な表情をしながらそう答えた。確かに老成体は天災と言われるほどの存在なので、国家としても把握しておきたい情報なのは間違いない。その動向を監視し、もしも国に厄災が振り掛かる兆候が見られれば、クルセイダー総出で対処しなければならない事案だからだ。
「それはそうですね。僕も母さんに合流して今回の件を伝えます」
「それがいいです。ただ・・・少し身体を休める必要があるのも事実なのです。今日はしっかり休息をとって、明日動くことにするです。ジールさんもそれでいいです?」
殿下の問い掛けに少し考えるが、確かに殿下はかなりのアルマエナジーを消耗していそうだし、僕も精神的な疲れが溜まっていると感じている。ここで無理に動くよりも、体調を万全にしてから動く方が得策だと感じた。
「分かりました。僕もそうします」
「決まりなのです!では、早速野営の準備をするのです!」
殿下は僕の返事に、満面の笑みを浮かべていた。
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side ルピス・エレメント
(何なのです?この胸の高鳴りは・・・)
火を起こし、昼食の準備をしているジールさんの横顔をこっそり盗み見ながら、今まで感じたことのない激しい感情にボクは困惑していたのです。
初めて彼を見た時は、ボクが守ってあげなければならないという保護欲が刺激されていたですが、あのピッグディザスターの老成体と遭遇してから、その感情は一転したのです。ジールさんの意外と逞しい腕の中に居ると、この人に守られていたい、ボクのことを見ていて欲しいという気になってしまったのです。
(もしかして、これが初恋というものなのです?でも、ジールさんは人族で、ボクは人狼族・・・国として、他種族との婚姻は認められてないです・・・)
許されない恋に落ちてしまった自分の感情を、どう落ち着けようか悩んでいると、一つの名案を思い付いたのです。
(そうなのです!序列1位になって国家間の決闘で勝利すれば、大抵の願いは叶えてくれるはずです!それにボクは王族といっても第五王女。そこまで五月蝿く言われないはずです!)
そうと決まれば、後はそれに向けた必要な準備を整えなければと考えたのです。その中でも最重要なのは、ジールさんにもボクの事を好きになってもらう事なのです。そして、彼の老成体を退けるほどのアルマエナジーの濃密な具現化の実力を考えれば、人族の中で序列1位になることも可能なはずなのです。
(あとは、人族ともある程度の友好関係の強化をお母様に打診し、その国の実力者であるジールさんをボクのお婿さんにする・・・これは完璧な作戦なのです!)
ジールさんをボクのものにする算段を考えていると、彼から今後の予定を聞かれたので、一先ずは身体を癒すことを提案したのです。ボクの言葉にジールさんは疑問を抱くことなく了承すると、野営の準備を始めたのです。
(ふふふ。これでもボクは、エレメント王国のアイドルとして国民から人気を博しているのです!最近大きくなってきた胸が気になっていたところですが、これは武器として使えそうです!)
王宮で下働きをしている男性から、最近成長著しいボクの胸をイヤらしく盗み見てくる者達が居たことで、お母様に相談したことがあったです。曰く、男性とは自分にない異性の特徴に惹かれるもので、それは本能的なものだということらしいです。その時は、男性が自分に邪な視線を向けることに渋い顔をしたですが、今の状況を考えればこれはチャンスなのです。
(2人っきりの夜営・・・うっかり着替えを見られたり、寝ぼけて彼に抱きつくなど、イベントには事欠かないのです!覚悟するですジールさん!ボクの魅力で一晩掛けて、あなたをメロメロにするです!)
その決意で彼と共に一晩を過ごしたのです。
うっかり着替えている時に彼にテントに入ってきてもらい、ボクの下着姿を見せたり、手触りには自信のあるモフモフな尻尾を触らせてみたり、更には就寝する際に寝ぼけて彼に胸を押し当ててみたりと、様々な攻撃を仕掛けたのです。
結果は・・・
「おはようございます、ルピス殿下」
「・・・お、おはようなのです」
ジールさんは爽やかな笑顔をボクに向けて、朝の挨拶をしてきたのです。その表情は、とてもボクに恋しているという顔には見えないです。昨夜は様々な魅了攻撃を仕掛けたものの、彼は身体を強張らせるばかりで、恥ずかしがっているとか嬉しがっているという様子がまるで見られなかったのです。
(お、おかしいのです!聞いてた話しと違うのです!)
如何にジールさんを落とすかに悩んで寝不足気味なボクが、唯一彼との関係性を進展させたと思える成果は、彼に名前を呼んでもらうことと、将来また会いましょうという約束をする事くらいだったのです。
そうしてジールさんが用意してくれた朝食を食べたあと、彼の案内でエレメント王国の国境付近まで誘導してもらったです。別れ際、ボク達は力強い握手を交わして再会を確認し合うと、彼は笑顔で手を振りながら去っていったです。
(ジールさん。きっとボクに恋させて見せるです!次に会う時は、本当に覚悟するです!!)
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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