変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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出会い編

パピル・リーグラント 1

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 ルピス殿下と別れてから、僕はすぐに母さんの元に戻るのではなく、具現化した自分の力を確認する為、泉で鍛練をすることにした。
昨日の喧騒が夢かと思うほどに泉の周辺は静寂に満ちていて、改めて地面などを見てみると、ピッグディザスターの老生体の足跡などが付いていないことに気づいた。あれだけの巨体なので、重量も相当なもののはずなのに、その痕跡が地面に残っていないことに首を傾げるが、老生体は具現化したアルマエナジーを操っていたことを考えると、もしかしたらこれもアルマエナジーの効果なのかもしれない。
少し休憩して、泉を眺めながら軽く深呼吸をし、集中力を高めて具現化を行う。

「顕現せよ!」

その言葉を切っ掛けに、ちゃんと僕の右手に純白の刀が現れる。昨日は極限状態だったので具現化が出来ただけかもしれないという不安もあったが、こうして落ち着いた状況で具現化出来た刀を見ると、心の底から達成感が込み上がってくる。

「それにしても、僕のアルマエナジーは水色なのに、何で具現化したこの刀は純白なんだろう?」

手に持っている刀をマジマジと観察しながら、僕は首を捻った。自分の身体をよく確認してみると、纏っているアルマエナジーの色はやはり水色なのだが、具現化した刀だけは純白なのだ。その理由は不明だが、昨日は結局この刀をほとんど使う事がなかったので、威力を確認する必要があると考えた。

「あくまで魂の力だから、自分の明確な意思を乗せないと斬れないって言ってたっけ・・・」

母さんの教えを思い出し、僕は手近な木を前にして刀を水平に構えた。そして、この木を切断するという明確な意思を込めて、横薙ぎに刀を振り抜いた。

「シッ!・・・・・・あれ?」

振り抜いた刀は間違いなく目の前の木の幹を通過したのだが、その木は微動だにせず依然として僕の目の前で聳え立っている。正直手応えも全くなかったので、斬れなかったのかと確認するように木の幹に触れて確認する。

すると・・・

『ズズズ・・・ズズ~ン!!』
「うわっ!」

軽く幹に触れると、切断面から上が横滑りし、そのままバランスが崩れて倒れてしまった。予想外の状況に驚きの声をあげつつ、倒れた木をしばらく見つめていた。そして、斬り倒した木の切断面を触ってみると、思った以上にツルツルとして綺麗な切り口だった。

「・・・凄いな、こんなに滑らかに斬れるんだ。それに手応えもほとんど無いし。扱いには注意しないと、ちょっと怖いな・・・」

あまりの切れ味に、若干引いている僕がそこには居た。


「威力の確認はこれで良しとして、どうしようかな・・・」

 具現化した自分の状態を確認できた僕は、これからの行動について考えた。母さんから言われた期限にはまだ時間があるが、既に具現化するという目的を達成したことを考えれば、もう母さんの居る拠点に戻っても良いだろうとも考えていた。
どうしたものかと頭を悩ませていると、急に僕の背後に人の気配を感じた。

「まったく、結構危ない状況だったけど、よく生き延びたわね」
「か、母さん!?どうしてここに?」

突如現れたのは、拠点に居るはずの母さんだった。

「さすがに自分の息子を、こんな危険な森の中にほったらかしにするわけ無いでしょ?ずっとジールを監視していたのよ?」
「か、監視?もしかして、ピッグディザスターの老成体が出た時も?」
「あの時はもう駄目だと思ったけど、よく生き延びたわね。正直、あと一歩でも老成体が近付けば、飛び出そうと思ったけど、まさかあなたが具現化に覚醒するとはね。ギリギリまで手を出さないで良かったわ」
「いやいや、助けてよ!危うく死ぬところだったし、僕だけじゃなく、人狼族の王女まで居たんだよ!?」

あっけらかんとした母さんの告白に、僕は愕然として抗議した。そんな僕の抗議もどこ吹く風で、母さんは半笑いになりながら口を開いた。

「他国の王女が居るから姿を見せれなかったのよ?一応ここはドーラル王国の領土内。あの子は迷い込んでしまったといっても、領土侵犯を犯していることになるの。私の立場上、他国の王女といえど拘束しないわけにはいかなくなるのよ・・・」

母さんはため息を吐きながら、僕に姿を現せなかった理由を説明してくれた。言われてみればその通りで、領土の事や立場の事などについてまるで考慮せずに怒ってしまったことを恥じた。

「ご、ごめんなさい母さん。勝手なこと言って・・・」
「それは良いわ。でも、今後クルセイダーとして、自分の立場や国際的な考え方は絶対に必要になってくる。今はまだ学生だから子供の対応が許されても、クルセイダーの制服に袖を通すつもりなら、そういったことは覚悟しておきなさい」

母さんの真剣な眼差しに、僕は息を飲んだ。夢の為だからクルセイダーになるというだけでは、痛い目を見るぞと忠告してくれているのだ。その立場の者が本来すべき行動をしなかった場合、自分が罰せられるだけならまだ良いが、その結果、他人にも不利益を与えたり、あまつさえ国自体にも損害を与える可能性すらある。僕がこれから目指そうとしているのは、そういった責任ある立場の存在なのだ。自分の感情だけで動くことは許されない。

「分かった。もっと考え方を変えて、クルセイダーとして相応しい行動を取れるようになるよ!」

僕の言葉に母さんは笑みを溢し、優しく頭に手を乗せてきた。

「大事な事を一つ教えておくわ。もし将来理不尽な選択に迫られた時、クルセイダーとしての立場ではなく、自分の感情に正直になりなさい」
「えっ?でもそれじゃあ・・・」

母さんの言葉に、僕は困惑した表情を浮かべる。そんな僕に向かって母さんは、優しく微笑んだ。

「自分の人生なんだから、後悔しないように生きなさい。そうすれば、きっとジールは幸せになれるわ」

母さんに何があったのかは分からないが、その瞳はどこか遠くを見つめていて、まるで過去に大きな後悔を残しているようだった。

「分かった、覚えておくよ。ありがとう、母さん!」

立ち入ってはいけないような気がした僕は、母さんの教えに笑顔で頷き、感謝の言葉を口にした。そんな僕に母さんは、笑みを浮かべたまま優しく頭を撫でてくれた。
そして、具現化するという目的を果たした僕は、そのまま母さんに連れられて夕闇の森をあとにした。



 気が付くと僕は、自室のベッドの上で目が覚めた。

森を抜けてからは車での移動だった事もあり、心地良い揺れにいつの間にか眠ってしまったのだろう。更にそれまでの疲れがどっと出てしまったのか、どうやら家に到着しても目を覚ますことはなく、そのまま母さんに部屋まで運ばれたようだ。

「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」
「おはよう、母さん。ごめん、遅くなって。今ご飯作るね」

寝ぼけ眼を擦りながらもリビングに行くと、母さんがテーブルに着いてコーヒーを飲んでいた。時計を確認すると、時刻は既に朝の8時を回っており、いつもの朝食の時間から考えると、かなり寝過ごしてしまったようだ。

「今日は母さんも一緒に作るわ」
「えっ?うん。わかった」

普段母さんは台所に立つことはないのだが、何故か今日は僕と一緒に料理をしてくれるという言葉に驚いた。ただ、僕としては母さんが一緒に作ってくれることが嬉しかった。
僕が材料の下拵えをし、隣に立つ母さんが野菜等を洗ってくれていると、不意に母さんが話し始めた。

「これでジールは、名実共にクルセイダーになる資格を得たわ。学園に報告して審査の後、クルセイダー見習いとして駐屯地に配属になるでしょう」
「うん。そうだね」
「今のクルセイダーは完全な女性社会よ。調理師や清掃員に男性は居ても、それはあくまで施設の職員であって、クルセイダーとは立場が違う。だから、これからクルセイダーとして生きていく上で、あなたは女性社会でたった一人、男性として過ごさなければならないわ」
「・・・・・・」

何となく、母さんが何を心配してこの話しをしているのか察し、僕は押し黙って話の先を伺った。

「今ならまだ間に合うわ。今一度ジールに問います、女性恐怖症のあなたが、その中でやっていける?」
「・・・・・・」

母さんは洗い物をしていた手を止め、真剣な表情で僕に問い掛けてきた。その言葉に、僕も手を止めて母さんに向き合う。そして、これからの事を想像して、もう一度自分の決意を確かめた。

(母さんの心配も最もだ。でも、それでも、僕には叶えたい夢がある!男の僕でも自由に生きられるかもしれないという希望を知ってしまったんだ・・・きっと僕が想像できないような困難が待ち構えているかもしれないけど、やっぱり僕は、諦められない!!)

自分の想いを確かめ、僕は決意を新たに母さんを見つめた。すると母さんは、何かを察したように寂しげな表情でため息を吐いた。

「・・・やっぱり父さんの子ね。男のくせに頑固で強情なんだから・・・」
「父さんが?」

母さんは何かを懐かしむように、ここではない何処かに視線を彷徨わせていた。そんな母さんの言葉に僕は首を傾げたが、母さんはそれ以上何も言うでもなく、再び洗いものを再開した。
そんな様子に、きっとあまり触れてはいけない父さんとの思い出があるのかもしれないと、僕も料理を再開したのだった。


 冬休みが明けると、僕は早速学園に具現化に至った報告を行い、その数日後には実際に具現化の審査が行われた。結果として僕は多くの審査員に驚かれながらも合格を言い渡され、晴れてクルセイダー見習いとして駐屯地に配属されることになった。
その際の送別会では、キャンベル殿下ほど盛大なものではなかったが、それまで親しくしていたクラスメイトの人達からお祝いされたり、少なくない人達から祝福の言葉を貰ったりした。中には面白くなさそうな視線を僕に向ける生徒や先生も居たが、そういった存在が一定数居るというのも覚悟の上なので、表面上は気にせずにやり過ごした。

そうして、学園でお世話になった担任のエンデリン先生や保健のマリア先生にお別れの挨拶を告げて、4月の中旬から、僕はクルセイダー王都駐屯地に配属されることになった。
そこには先に学園を卒業していたキャンベル殿下も居るはずで、久しぶりの再会になるだろうと考え、僕が具現化出来た事にどんな反応を示すのだろうと、少しの楽しみと不安を抱きながら、新たに始まろうとしている生活に胸を踊らせた。
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