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出会い編
パピル・リーグラント 5
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翌日早朝ーーー
今日からリーグラント王国のクルセイダーの人達との共同討伐遠征が始まる。日が昇り始めてきた頃には演習場に整列し、小隊の隊長達が呼び集められ、最終確認のような打ち合わせを行っていた。
その後戻ってきた隊長から、部隊の配置について教えられた。今回は各国共に5人小隊を4組作り、前後左右に一定間隔を開けながら軍行していくということだ。上から見ればひし形のような隊列を組むことになるのだが、その中央にリーグラント王国のサポーターを数名同行させ、飲み物等の荷物持ちを伴う布陣になるという説明がなされた。また、リーグラント王国側とは、約5㎞の距離を保って、平行に進んでいくということだ。
隊長からの連絡事項を終えたところで、そのサポーターの皆さんが挨拶にやって来た。
「「「本日より5日間、皆様と同行させていただきます。よろしくお願いします!」」」
「「「よろしくお願いします!!」」」
元々種族的に身長が低い妖精族の人達だが、自分を覆い隠すほどの大きさのリュックを軽々と背負っている。服装は、サポーターの制服である灰色のジャケットを羽織り、腰には細身の剣とナイフを提げていた。サポーターは具現化出来なかった人がなる職業なので、剣は護身用、ナイフは討伐した害獣の剥ぎ取りに使うようだ。
顔合わせの挨拶も済ませると、さっそく出発となった。僕達は用意された車に順々に乗り込んでいき、これから約3時間かけて目的地へと向かった。
「・・・ここが”黒の森”か・・・」
3時間後。ようやく目的地に到着すると、車を降りた僕は固まってしまった身体をほぐすように大きな伸びをしながら目の前の深い森の入り口を見ていた。その森の木々は幹が黒く、普段よく見る木とは大分様子が違うようだ。曰く、この幹が黒い木はとても堅いらしく、建材として最高級品なのだという。そのような木々がこの森には大量に生い茂っていることから、この森は”黒の森”と呼ばれていると説明を受けた。
「各部隊は最終点検を!9時ちょうどに軍行を開始する!!」
「「「はっ!!」」」
シュラムさんの命令で、周りが慌ただしく動き始めた。既にリーグラント王国の部隊とは入り口と経路が違っているので、この場には居ない。僕達は数分で準備を整えると、入り口の前で隊列を整えて時間が来るのを待った。僕の小隊は前方の配置で、一番危険性の高い場所だが、その分序列上位の実力者揃いなので、不安は少ない。
そしてーーー
「時間だ!これよりリーグラント王国との害獣共同討伐遠征を開始する!全小隊行動開始!!」
「「「はっ!!!」」」
シュラムさんの号令と共に、僕達は黒の森へと突入した。
しばらくは順調な軍行が続いた。シュラムさんは適宜時間と地図を確認しているようで、おそらく事前にリーグラント王国側との進軍速度についての詳細が詰められているのだろう。その様子を見るていと時間配分に問題は無いようで、昼食休憩や野営設備の準備等滞りなく進んでいった。
害獣についても、初日は8匹のカウディザスターを討伐することができ、サポーターの皆さんが手早く解体していった。カウディザスターは体長15mはあろうかと言うほどの巨体で、最初に見た時にはその巨大さから、攻撃を受け止めるにも二の足を踏んでしまいそうになったが、シュラムさん達の助けもあって何とか役に立つことが出来た。
具現化して纏った僕のアルマエナジーの強度は規格外のようで、あれだけ体重差のある害獣の突進を受けても吹き飛ばされることはなくなり、僕としても物理法則を無視しているなと、内心苦笑いだった。
また、僕の実力を心配していたシュラムさん以外の小隊の人達も、僕が巨大なカウディザスターの突進を押し止める姿を見て、安堵の表情を浮かべつつ、口々に称賛の言葉を伝えてくれた。ただ、具現化した刀を振るう出番はなく、1日目、2日目と基本的に防御に徹するだけだった。
共同討伐遠征3日目ーーー
この日、ようやく深層へと辿り着いた僕達は、開けた場所にて休憩を取っていた。そんな時だった。
「シュ、シュラム隊長!!緊急事態です!!」
「っ!どうした!?」
水分補給しながら休息していると、左翼のクルセイダーの方が焦りの表情を浮かべ、息を切らしながら走り込んできた。尋常でないその様子に、みんなが固唾を呑んで彼女に注目した。
「カ、カウディザスターの老成体とおぼしき害獣とリーグラント王国部隊が接触!現在交戦中で、我らに救援を求めております!」
「っ!何だと!この森に老成体が居たと言うのか!?」
その報告に驚愕の表情を浮かべるシュラムさんは、その真偽を確かめるように報告に来た彼女に問いかけた。僕も以前遭遇したことがあるが、老成体は1体いるだけで天災級の災厄を振り撒くと言われている存在だ。人里に出てくれば、まず間違いなく都市は壊滅させられてしまうので、発見した場合は国家として討伐するか、動向を監視しつつ静観するかの判断が求められる。
当然、都市の方に来るのであれば迎撃せざるを得ないが、森の深層に居続ける分には被害もないので、余程動きがなければ静観という選択を取るのが一般的らしい。ちなみに、今まで老成体の話をあまり聞いた事がなかったが、実は結構な頻度で老成体は発見されているらしい。その情報を公開しないのは、国民にパニックを引き起こさない目的の元、情報統制を行っているという事を、クルセイダーになってから初めて知らされた。
「姿を確認した訳ではありませんが、救援要請に来たリーグラント王国のクルセイダーの様子を考えると、間違いないかと・・・」
深刻な表情でシュラムさんの質問に答える彼女に、周りからは悲鳴にも似た声が聞こえてきた。それは僕も同様で、本来老成体相手にはクルセイダーの序列最上位、7位以上の者達が全員で対処するほどの相手だ。しかし、今この部隊には序列7位のシュラムさん以外は、30位以下の序列の者しかいないのだ。
この部隊では戦力として不安が残るものであり、救援に向かったとしても下手をすれば全滅する可能性がある。
「しかし、いったい何故既に交戦しているのだ?本来であれば老成体を発見した場合、対応を決めるために戻るのが定石のはず・・・カウディザスターの巨大さや移動音から考えても、そう簡単にこちら側が見つかるようことは考え難いが・・・」
おかしいだろうというシュラムさんの疑問に、報告に来た彼女は顔を顰めるばかりだった。
「申し訳ありません。何故交戦に至ったかまでは報告がなく、とにかく至急全部隊で救援に駆けつけて欲しいとしか・・・」
原因は分からないが、それほど切羽詰まっているということだったのだろう。そんな彼女の報告に、シュラムさんは眉間にシワを寄せながら難しい表情で考え込む。しかし、すぐに小さく息を吐き出して指示を出した。
「仕方ない。救援要請をされた以上、見殺しにも出来ん!全部隊に情報を周知し、救援に向かう!」
そう言うと、手早く部隊の人達に指示を出し、行動を開始するように促した。その言葉に、みんな最初は悲壮な表情を浮かべながらも、クルセイダーとしての責務からか、決意を固めるように拳を握りしめていた。
◆
side パピル・リーグラント
(やっば~!やっちゃった!やっちゃった!!)
全速力で走りながら、内心で頭を抱えて盛大に後悔の呪詛を吐くと、真後ろからこちらを睨みつけるように睥睨して追いかけてくるカウディザスターの老成体の巨体を見上げる。
事の発端は少し前、たまたま部隊から離れてしまったので、例の彼の様子を見に行こうと考え単独行動をしていると、地震かと間違うほどの振動と、轟音の足音が聞こえてきたのが始まりだった。
好奇心に駆られたパピルは、最大限注意を払いながらその正体を探るべく近づいて行ってしまった。そして目にしたのは、信じられないくらい巨大なカウディザスターだった。目測で体高は20mほどで、動いてなければ生き物だとも思えないよう大きさに、感覚がおかしくなりそうだった。
全身を真っ黒い剛毛のような毛で覆われ、その蹄は岩をも粉々に砕きながら歩くほどの力強さだった。そして特筆すべきは頭の角で、禍々しく捻れたような巨大な角が8本も生えている。その姿は壮大で、まさに黒の森の王者のような風格だ。今まで討伐してきたカウディザスターの成体とは格が違うと、一目で理解させられた。
それと同時に、悪魔的閃きがパピルに舞い降りてしまったーーー
(ふふふ、こいつをパピルが討伐すれば、序列1位間違いなしね!もうオバさん達から、口煩いお説教も聞かなくてよくなるってものなんですけど!)
獲物を前に舌舐めずりしながら、パピルの栄光の姿を思い浮かべる。今のパピルの序列は9位。これでも史上最速の天才と評されているが、それでも上に8人の面倒なオバさん達が居るのだ。
事あるごとに、規律だマナーだと口煩くお小言を言われるのはもう限界。やることはやってるんだから、それ以外のどうでも良いことでパピルの貴重な時間を削られるのは、マジでムカつく。どうせパピルの才能に嫉妬してるんだろうけど、それも序列を1位にしてしまえば、もう誰もパピルにお説教してくる奴も居なくなるはず。
(全く、ちょっと男の子をからかったり、時間を守らなかったり、パピルの判断を優先するだけでみんな煩いんだから!結果は出してるのに、何でみんな怒ってくるのか意味分かんない!)
だからこそ、早々に序列を上げたかった。それには実績が必要なのだが、老成体の単独討伐はうってつけのはずだった。
はずだったのだーーー
「ってか、パピルの具現化したレイピアが全く効かないなんて、ありえないんですけど!!」
「殿下、今は口を動かすよりも足を動かして下さい!」
「分かってます~!こんな時にまでお小言言わないでよ~!」
「(ビキッ!)お小言ではなく忠告です!殿下に死なれては、私の責任問題にもなるのでね!」
アルマエナジーを纏いながら追いかけてくるカウディザスターから全速力で逃げる。隣には、異変を察知して駆け付けてきた序列5位のルシルシが、パピルの言葉を聞いて、額に青筋を立てていた。
威勢よくレイピアを突き出しながら飛び出したはいいものの、相手のアルマエナジーに完全に弾かれているようで、全くダメージを与えている手応えを感じられなかった。そのくせ、あの巨体から振り下ろされる前足の一撃は、端から見ればただ歩いているだけのようなのに、地面に衝突した瞬間の衝撃波で吹き飛ばされるほどだった。
数分の攻防で歯が立たないどころか、このままではアルマエナジーが尽きて死ぬ未来を感じた瞬間、逃走を選んだのだが、残念ながらパピルを敵と認定したようで、簡単には逃げられなかった。
今までは害獣の成体だろうと単独で討伐してきたのに、その実力が全然通用しない相手がいるという事実に愕然としてしまった。駆け付けたルシルシも老成体を目にした瞬間、驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに救援を手配し、逃走ルートを選定していた。こういうところは優秀だと思うのだが、そこからのお小言が余計なんですけど。
他の部隊を危険にさらさないように注意しながら逃走しつつ、迎撃体制を整えさせているが、はっきり言って早くして欲しい。いい加減逃げるのも限界になってきて、パピルは早く休みたい。
(もう無理!限界!走れないんですけど!!)
パピルとルシルシで老成体を引き付けるように逃げていたのだが、その役はルシルシに任せて、パピルは脇道に逸れてやり過ごそうというナイスなアイディアを思い付き、サッと方向転換をしたのだが・・・
「で、殿下!!」
「ちょっ!何でパピルの方に来るのよ~!!!」
あろうことか、カウディザスターはルシルシではなく、パピルの方に向きを変えて追ってきたのだ。涙交じりに愚痴を吐きながら逃走するが、体力の限界も近づき、走る速度も落ちてきた。
(ヤバイって!もう死んじゃうって!!)
助けを求めようにも、予定の逃走ルートを逸れてしまった為に救援は望めない。ルシルシも追いかけて来てくれてはいるが、間に合いそうにない。絶望的な状況に、無意識に叫んだ。
「だ、誰か助けて!!」
その直後だったーーー
「伏せてください!」
『ガキィィィィン!!!』
「きゃあ!!」
轟音と共に、強烈な衝撃波に飛ばされて地面に転がってしまう。何が起きたのか分からずに顔を上げると、そこにはパピルを心配そうに見つめる彼の姿があった。
「すみません、救援が遅くなりました!僕が抑えるので、今のうちに逃げてください!!」
「・・・・うそ」
信じられないような光景だった。ひ弱な男の子に自分が助けられた、という事実がすぐに理解できないほどに混乱した。彼はパピルでさえ吹き飛ばされた突進を余裕の表情で耐え、更にパピルを逃がそうとここに残るのだという。
(相手は老成体なのに怖くないの?死ぬかもしれないのに、パピルの為に戦うっていうの?)
彼の言動に衝撃を受けたパピルは、今まで感じたこともない胸の高鳴りを感じた。
(やば・・・パピル、恋に落ちちゃったかも・・・)
パピルを庇ってくれている彼の背中はとても大きく見え、不思議な安心感を感じさせた。そんな彼のことを、心底欲しいと渇望した瞬間だった。
今日からリーグラント王国のクルセイダーの人達との共同討伐遠征が始まる。日が昇り始めてきた頃には演習場に整列し、小隊の隊長達が呼び集められ、最終確認のような打ち合わせを行っていた。
その後戻ってきた隊長から、部隊の配置について教えられた。今回は各国共に5人小隊を4組作り、前後左右に一定間隔を開けながら軍行していくということだ。上から見ればひし形のような隊列を組むことになるのだが、その中央にリーグラント王国のサポーターを数名同行させ、飲み物等の荷物持ちを伴う布陣になるという説明がなされた。また、リーグラント王国側とは、約5㎞の距離を保って、平行に進んでいくということだ。
隊長からの連絡事項を終えたところで、そのサポーターの皆さんが挨拶にやって来た。
「「「本日より5日間、皆様と同行させていただきます。よろしくお願いします!」」」
「「「よろしくお願いします!!」」」
元々種族的に身長が低い妖精族の人達だが、自分を覆い隠すほどの大きさのリュックを軽々と背負っている。服装は、サポーターの制服である灰色のジャケットを羽織り、腰には細身の剣とナイフを提げていた。サポーターは具現化出来なかった人がなる職業なので、剣は護身用、ナイフは討伐した害獣の剥ぎ取りに使うようだ。
顔合わせの挨拶も済ませると、さっそく出発となった。僕達は用意された車に順々に乗り込んでいき、これから約3時間かけて目的地へと向かった。
「・・・ここが”黒の森”か・・・」
3時間後。ようやく目的地に到着すると、車を降りた僕は固まってしまった身体をほぐすように大きな伸びをしながら目の前の深い森の入り口を見ていた。その森の木々は幹が黒く、普段よく見る木とは大分様子が違うようだ。曰く、この幹が黒い木はとても堅いらしく、建材として最高級品なのだという。そのような木々がこの森には大量に生い茂っていることから、この森は”黒の森”と呼ばれていると説明を受けた。
「各部隊は最終点検を!9時ちょうどに軍行を開始する!!」
「「「はっ!!」」」
シュラムさんの命令で、周りが慌ただしく動き始めた。既にリーグラント王国の部隊とは入り口と経路が違っているので、この場には居ない。僕達は数分で準備を整えると、入り口の前で隊列を整えて時間が来るのを待った。僕の小隊は前方の配置で、一番危険性の高い場所だが、その分序列上位の実力者揃いなので、不安は少ない。
そしてーーー
「時間だ!これよりリーグラント王国との害獣共同討伐遠征を開始する!全小隊行動開始!!」
「「「はっ!!!」」」
シュラムさんの号令と共に、僕達は黒の森へと突入した。
しばらくは順調な軍行が続いた。シュラムさんは適宜時間と地図を確認しているようで、おそらく事前にリーグラント王国側との進軍速度についての詳細が詰められているのだろう。その様子を見るていと時間配分に問題は無いようで、昼食休憩や野営設備の準備等滞りなく進んでいった。
害獣についても、初日は8匹のカウディザスターを討伐することができ、サポーターの皆さんが手早く解体していった。カウディザスターは体長15mはあろうかと言うほどの巨体で、最初に見た時にはその巨大さから、攻撃を受け止めるにも二の足を踏んでしまいそうになったが、シュラムさん達の助けもあって何とか役に立つことが出来た。
具現化して纏った僕のアルマエナジーの強度は規格外のようで、あれだけ体重差のある害獣の突進を受けても吹き飛ばされることはなくなり、僕としても物理法則を無視しているなと、内心苦笑いだった。
また、僕の実力を心配していたシュラムさん以外の小隊の人達も、僕が巨大なカウディザスターの突進を押し止める姿を見て、安堵の表情を浮かべつつ、口々に称賛の言葉を伝えてくれた。ただ、具現化した刀を振るう出番はなく、1日目、2日目と基本的に防御に徹するだけだった。
共同討伐遠征3日目ーーー
この日、ようやく深層へと辿り着いた僕達は、開けた場所にて休憩を取っていた。そんな時だった。
「シュ、シュラム隊長!!緊急事態です!!」
「っ!どうした!?」
水分補給しながら休息していると、左翼のクルセイダーの方が焦りの表情を浮かべ、息を切らしながら走り込んできた。尋常でないその様子に、みんなが固唾を呑んで彼女に注目した。
「カ、カウディザスターの老成体とおぼしき害獣とリーグラント王国部隊が接触!現在交戦中で、我らに救援を求めております!」
「っ!何だと!この森に老成体が居たと言うのか!?」
その報告に驚愕の表情を浮かべるシュラムさんは、その真偽を確かめるように報告に来た彼女に問いかけた。僕も以前遭遇したことがあるが、老成体は1体いるだけで天災級の災厄を振り撒くと言われている存在だ。人里に出てくれば、まず間違いなく都市は壊滅させられてしまうので、発見した場合は国家として討伐するか、動向を監視しつつ静観するかの判断が求められる。
当然、都市の方に来るのであれば迎撃せざるを得ないが、森の深層に居続ける分には被害もないので、余程動きがなければ静観という選択を取るのが一般的らしい。ちなみに、今まで老成体の話をあまり聞いた事がなかったが、実は結構な頻度で老成体は発見されているらしい。その情報を公開しないのは、国民にパニックを引き起こさない目的の元、情報統制を行っているという事を、クルセイダーになってから初めて知らされた。
「姿を確認した訳ではありませんが、救援要請に来たリーグラント王国のクルセイダーの様子を考えると、間違いないかと・・・」
深刻な表情でシュラムさんの質問に答える彼女に、周りからは悲鳴にも似た声が聞こえてきた。それは僕も同様で、本来老成体相手にはクルセイダーの序列最上位、7位以上の者達が全員で対処するほどの相手だ。しかし、今この部隊には序列7位のシュラムさん以外は、30位以下の序列の者しかいないのだ。
この部隊では戦力として不安が残るものであり、救援に向かったとしても下手をすれば全滅する可能性がある。
「しかし、いったい何故既に交戦しているのだ?本来であれば老成体を発見した場合、対応を決めるために戻るのが定石のはず・・・カウディザスターの巨大さや移動音から考えても、そう簡単にこちら側が見つかるようことは考え難いが・・・」
おかしいだろうというシュラムさんの疑問に、報告に来た彼女は顔を顰めるばかりだった。
「申し訳ありません。何故交戦に至ったかまでは報告がなく、とにかく至急全部隊で救援に駆けつけて欲しいとしか・・・」
原因は分からないが、それほど切羽詰まっているということだったのだろう。そんな彼女の報告に、シュラムさんは眉間にシワを寄せながら難しい表情で考え込む。しかし、すぐに小さく息を吐き出して指示を出した。
「仕方ない。救援要請をされた以上、見殺しにも出来ん!全部隊に情報を周知し、救援に向かう!」
そう言うと、手早く部隊の人達に指示を出し、行動を開始するように促した。その言葉に、みんな最初は悲壮な表情を浮かべながらも、クルセイダーとしての責務からか、決意を固めるように拳を握りしめていた。
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side パピル・リーグラント
(やっば~!やっちゃった!やっちゃった!!)
全速力で走りながら、内心で頭を抱えて盛大に後悔の呪詛を吐くと、真後ろからこちらを睨みつけるように睥睨して追いかけてくるカウディザスターの老成体の巨体を見上げる。
事の発端は少し前、たまたま部隊から離れてしまったので、例の彼の様子を見に行こうと考え単独行動をしていると、地震かと間違うほどの振動と、轟音の足音が聞こえてきたのが始まりだった。
好奇心に駆られたパピルは、最大限注意を払いながらその正体を探るべく近づいて行ってしまった。そして目にしたのは、信じられないくらい巨大なカウディザスターだった。目測で体高は20mほどで、動いてなければ生き物だとも思えないよう大きさに、感覚がおかしくなりそうだった。
全身を真っ黒い剛毛のような毛で覆われ、その蹄は岩をも粉々に砕きながら歩くほどの力強さだった。そして特筆すべきは頭の角で、禍々しく捻れたような巨大な角が8本も生えている。その姿は壮大で、まさに黒の森の王者のような風格だ。今まで討伐してきたカウディザスターの成体とは格が違うと、一目で理解させられた。
それと同時に、悪魔的閃きがパピルに舞い降りてしまったーーー
(ふふふ、こいつをパピルが討伐すれば、序列1位間違いなしね!もうオバさん達から、口煩いお説教も聞かなくてよくなるってものなんですけど!)
獲物を前に舌舐めずりしながら、パピルの栄光の姿を思い浮かべる。今のパピルの序列は9位。これでも史上最速の天才と評されているが、それでも上に8人の面倒なオバさん達が居るのだ。
事あるごとに、規律だマナーだと口煩くお小言を言われるのはもう限界。やることはやってるんだから、それ以外のどうでも良いことでパピルの貴重な時間を削られるのは、マジでムカつく。どうせパピルの才能に嫉妬してるんだろうけど、それも序列を1位にしてしまえば、もう誰もパピルにお説教してくる奴も居なくなるはず。
(全く、ちょっと男の子をからかったり、時間を守らなかったり、パピルの判断を優先するだけでみんな煩いんだから!結果は出してるのに、何でみんな怒ってくるのか意味分かんない!)
だからこそ、早々に序列を上げたかった。それには実績が必要なのだが、老成体の単独討伐はうってつけのはずだった。
はずだったのだーーー
「ってか、パピルの具現化したレイピアが全く効かないなんて、ありえないんですけど!!」
「殿下、今は口を動かすよりも足を動かして下さい!」
「分かってます~!こんな時にまでお小言言わないでよ~!」
「(ビキッ!)お小言ではなく忠告です!殿下に死なれては、私の責任問題にもなるのでね!」
アルマエナジーを纏いながら追いかけてくるカウディザスターから全速力で逃げる。隣には、異変を察知して駆け付けてきた序列5位のルシルシが、パピルの言葉を聞いて、額に青筋を立てていた。
威勢よくレイピアを突き出しながら飛び出したはいいものの、相手のアルマエナジーに完全に弾かれているようで、全くダメージを与えている手応えを感じられなかった。そのくせ、あの巨体から振り下ろされる前足の一撃は、端から見ればただ歩いているだけのようなのに、地面に衝突した瞬間の衝撃波で吹き飛ばされるほどだった。
数分の攻防で歯が立たないどころか、このままではアルマエナジーが尽きて死ぬ未来を感じた瞬間、逃走を選んだのだが、残念ながらパピルを敵と認定したようで、簡単には逃げられなかった。
今までは害獣の成体だろうと単独で討伐してきたのに、その実力が全然通用しない相手がいるという事実に愕然としてしまった。駆け付けたルシルシも老成体を目にした瞬間、驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに救援を手配し、逃走ルートを選定していた。こういうところは優秀だと思うのだが、そこからのお小言が余計なんですけど。
他の部隊を危険にさらさないように注意しながら逃走しつつ、迎撃体制を整えさせているが、はっきり言って早くして欲しい。いい加減逃げるのも限界になってきて、パピルは早く休みたい。
(もう無理!限界!走れないんですけど!!)
パピルとルシルシで老成体を引き付けるように逃げていたのだが、その役はルシルシに任せて、パピルは脇道に逸れてやり過ごそうというナイスなアイディアを思い付き、サッと方向転換をしたのだが・・・
「で、殿下!!」
「ちょっ!何でパピルの方に来るのよ~!!!」
あろうことか、カウディザスターはルシルシではなく、パピルの方に向きを変えて追ってきたのだ。涙交じりに愚痴を吐きながら逃走するが、体力の限界も近づき、走る速度も落ちてきた。
(ヤバイって!もう死んじゃうって!!)
助けを求めようにも、予定の逃走ルートを逸れてしまった為に救援は望めない。ルシルシも追いかけて来てくれてはいるが、間に合いそうにない。絶望的な状況に、無意識に叫んだ。
「だ、誰か助けて!!」
その直後だったーーー
「伏せてください!」
『ガキィィィィン!!!』
「きゃあ!!」
轟音と共に、強烈な衝撃波に飛ばされて地面に転がってしまう。何が起きたのか分からずに顔を上げると、そこにはパピルを心配そうに見つめる彼の姿があった。
「すみません、救援が遅くなりました!僕が抑えるので、今のうちに逃げてください!!」
「・・・・うそ」
信じられないような光景だった。ひ弱な男の子に自分が助けられた、という事実がすぐに理解できないほどに混乱した。彼はパピルでさえ吹き飛ばされた突進を余裕の表情で耐え、更にパピルを逃がそうとここに残るのだという。
(相手は老成体なのに怖くないの?死ぬかもしれないのに、パピルの為に戦うっていうの?)
彼の言動に衝撃を受けたパピルは、今まで感じたこともない胸の高鳴りを感じた。
(やば・・・パピル、恋に落ちちゃったかも・・・)
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天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
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