変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

威力偵察 2

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「ここで先行している偵察班と合流する。しばらく休息を取れ」

 目的地である湖まであと数キロという場所に到着すると、ジェシカ様は部隊に休憩を命じた。その命令の声に、ここまで休みなく進行し、馴れない他国のクルセイダーとの連携確認も行い続けていた精神的な疲労を露わにする方もいた。
菱形の陣形がそのまま小さくなったような形で休息をとっている中、ジェシカ様は斥候のクルセイダー達と何事か話したりしており、休む暇もなく忙しそうにしていた。
そんなジェシカ様に、何か言葉を掛けようとしたのだが、褐色の肌をした大柄な一人の人物がこちらに駆け寄って来る姿が目に入り、そんな時間もないようだと諦めた。


「ジェシカ殿下はいらっしゃいませんか!?」

 その人物はダイス王国のクルセイダーで、今までディザスター・1の動向を監視していた方の一人だった。声量に気を使った声を上げてジェシカ様の存在を呼びかけると、今まで斥候と話していたジェシカ様が足早にその人に駆け寄って行った。

「マルタ!よく来てくれた!無事なようで何よりだが、状況はどうなっている?」

報告に来たクルセイダーの方をマルタと呼んだジェシカ様は、一瞬安堵した表情を見せたが、すぐに厳しい顔となり、状況を報告するように促していた。

「はっ!現在目標は、ここから離れた湖の畔で休息しているようです。同時に、奴が操っているであろう害獣達も多数存在しており、そちらの方は目標から離れすぎない距離を保って、資源を貪っております」
「そうか・・・操られている害獣の詳細は分かるか?」

ジェシカ様は報告の内容に眉を顰めると、連れ立っている害獣について質問していた。その問いかけに、マルタさんは一瞬悲壮な表情を浮かべるも、意を決して口を開いたようだった。

「・・・総数は約100体。ピッグディザスターが約20体、カウディザスター約30体、バードディザスター約40体。そして、それぞれの老成体が3体づつ確認できております」
「「「っ!!!!!」」」

その報告に、偵察部隊の面々は驚きの表情を浮かべた。それもそのはずで、1体でさえ災厄と称され、最上位序列のクルセイダー7人がかりでようやく討伐できるような存在が9体もいるのだ、驚かないわけがないだろう。

「老成体が9体とは・・・笑えない冗談だな。しかし、このまま黙ってこの夢幻大地の資源を食い尽くされるのを見ているわけにもいかん。今回はあくまで威力偵察だが、覚悟を持って望む必要があるだろう」
「「「・・・・・・」」」

ジェシカ様の言葉に、この場の皆さんが息を呑んだ。元々皆さんはクルセイダーとして、害獣の討伐に当たってきた方達だ。覚悟はとうの昔に済ましているだろうが、それでも強大な相手の情報を聞いて、雰囲気に呑まれてしまったのかもしれない。

「臆するな!オレ達の成果如何によっては、この窮地を脱せられるのだ!祖国の為、英雄になる覚悟を決めろ!!」
「「「・・・英雄・・・」」」

部隊を鼓舞しようと、声を張り上げるジェシカ様の声に耳を傾けている皆さんは、厳しい表情を浮かべながら、英雄という言葉を噛み締めているようだった。そんな皆さんに対して、ジェシカ様は更に言葉を続けた。

「だが、勘違いはするな!ここで言う覚悟とは、必ず生きて戻るという事だ!オレ達の任務はあくまで威力偵察。討伐ではない!重要なことは、ミュータント・1の脅威度を確認し、その情報を確実に持ち帰ることだ!一人の死者も許さん!!いいな!!!」
「「「はっ!!!」」」

その言葉に、部隊の全員が敬礼と共に返答した。その目には、先程までの諦念が混じったものではなく、希望と決意が籠もった光が宿っているようだった。


 そして、マルタさんからの情報をもとにジェシカ様は部隊の再編成を行い、今回の威力偵察における3つの目標について改めて確認した。

1つ目は、操られているという害獣が、どの程度複雑な指示のもとに行動しているかというものだ。
情報では、別種類の害獣が同じ場所にいても互いに争うことはないということなので、目につくものを全て攻撃しろといった指示ではない事は明らかだ。であれば、どんな指示でどうやって判断しているかが問題だ。害獣自身にかなりの自由意志があるのか、それとも全てミュータント・1が操っている結果なのかの真偽を見極める必要があるとのことだ。

2つ目は、害獣達の連携度合いの確認だ。
既に現状では、クルセイダーの数よりも操られている害獣の数の方が圧倒的に多い。その際、どれだけの戦力をこちらに向けてくるのかの確認だ。敵に対しては全戦力をもって向かってくるのか、それとも、必要十分と思えるだけの戦力を向かわせるかで、相手の指揮能力を図るのだという。

3つ目は、当然ながらミュータント・1自身の実力の確認だ。
どうやら報告では、まともにミュータント・1と交戦できたわけではなく、その取り巻きである害獣によってダイス王国のクルセイダー達は大損害を被ったらしい。もっとも、全く攻撃出来なかったわけではないらしいのだが、報告によれば、いかなる具現化武器の攻撃も寄せ付けなかったということだ。今回の威力偵察ではその確認と、どの程度まで攻撃が防がれるかを図るらしい。

この3つの目標を達成できれば即座に撤退し、情報を精査した後に具体的な討伐作戦の策定に入るということになっている。


「よし・・・では、作戦を開始する」
「「「・・・」」」

 ジェシカ様の号令に、各国のクルセイダー5人で構成された班が無言で頷ずいた。休息をとっていた先程の場所からは既に移動し、ここから目視できる範囲に害獣が居るため、ジェシカ様も極力小声で号令を出していた。
先ずは操られている害獣の状態を確認するため、比較的群れから離れ、単独で行動している害獣に狙いを定めて攻撃を仕掛ける。
今僕らが目視しているのは、カウディザスターの成体だ。その巨体は、先程から周辺に生えている樹をなぎ倒し、その幹ごと実っていた果実を貪っていた。既に周辺は見る影もないほどの荒れ地となっており、その害獣が通った跡がはっきりと分かるような有様だった。

(害獣が1体でこの状態なんだ・・・これじゃあ、あっという間に資源は無くなって、この大地は丸裸になってしまいそうだ)

実際にその有様を目にしたことで、如何に現状が異様で危機的な状況であるのかということを認識させられる。
そんな事を考えている内に、指示を受けた5人のクルセイダーは、気配を消しながらゆっくりとカウディザスターへと近づいて行った。本来なら害獣の成体1体なんて、5人のクルセイダーにかかれば反撃を受けることもなく討伐可能な相手なのだが、状況が状況だけに、少し離れたここからでも5人の緊張が伝わってくるようだった。


『・・・っ!ブルゥゥ!!』

 その距離があと十数mというところまで迫った時、異変を察知したのか、カウディザスターが樹木を貪るのをやめて頭を上げ、周囲を警戒するように見渡した。

「「「ーーー!!!」」」

次の瞬間、5人のクルセイダーは音もなくカウディザスターに駆け寄ると、具現化した武器で一斉に攻撃を加え、相手にアルマエナジーを纏わせる隙も与えず、あっという間に勝敗を決してしまった。さすが実力者だけあって、これが実戦において初の連携であるにもかかわらず、その動きに全くぎこちなさを感じなかった。

「さぁ、ここからだな・・・」

はぐれた位置にいたカウディザスターを討伐しても、皆さんは警戒心を解くことなく、むしろより意識を集中して周囲の警戒に神経を尖らせた。僕の隣にいるジェシカ様も真剣な眼差しを周囲に向けながら、ポツリと呟きを漏らしていた。
そして少し時間が経った後、異変が起こった。
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