変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

決戦 1

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 作戦が公表されてから10日後、僕は再び夢幻大地に降り立っていた。
以前来た時にはまだ建設途中だった拠点も、今ではすっかり立派な建物の建つ拠点となっていた。拠点周辺は10mはあろうかという外壁で覆われており、ちょっとした砦のような様相を呈している。
各国からのクルセイダーもほぼ集結し終え、現在はサポーターの皆さんが中心となって、罠の埋設作業を大規模に行っている状況だ。

作戦の決行まではあと7日と迫ってきており、誰も彼も忙しなく拠点の中や周辺を行き来している。また、5カ国のクルセイダーやサポーターがひしめき合っているこの拠点の中で、今のところ目立ったトラブルは起きていないが、周りから僕に向けられる好奇の視線には若干辟易してしまう。
というのも、パピル様が放った爆弾発言が原因なのだが、その際に婚約相手を明言しなかったことで、5人の王女殿下の内の誰と婚約したのかという話題が皆さんの間で持ちきりだったのだ。中には婚約相手を当てる賭けまで始まってしまう始末で、一番人気は5人全員となっているらしい。
そのため、大穴狙いをしている幾人かのクルセイダーやサポーターの人達は、情報を収集するためなのか、やたらと僕の後をつけてきたりして、監視に余念がないようだった。


「はぁ~・・・」

 拠点の一室、作業部屋の様な場所で僕は、罠に使用するアルマ結晶にアルマエナジーを注いでいると、無意識の内に深いため息が口をついていた。

(何だか大変な状況になったな~)

心の中でそう独りごちる。その理由はこれから始まる討伐作戦についてではなく、今の自分を取り巻く状況と、自分自身の想いのせいだ。

(周りからは、5人の王女殿下全員と婚姻を結ぶことを望まれてるようなんだけど、それは殿下達5人全員に対して、全く同じ位の好意を抱かないと失礼だよな・・・)

好意という想いに対して優劣や順位は無いとは思うが、それでも僕が今後異性を好きになる、愛するという感情を理解した時、特定の誰かを他の誰かよりも、より大切に想ってしまうだろうと何となく感じていた。
それは幼い頃に見た光景が影響しているのだろう。父さんが母さんをとても大切にしていた様子が思い浮かんでくるのだ。父さんと一緒に買い物に出掛けた時、何事か話しかけてくる女性にそっけないというか冷たい態度を取っていたのに、母さんの前でだけはデレデレだった記憶がある。

それと言うのも、父さんはとにかく母さんを甘やかしていた。服の着替えからお風呂まで、甲斐甲斐しく世話をしては、幸せそうな顔をしていた。お世話されている母さんも幸せそうだったので、これが結婚している普通の家庭なのだろうと思っていたし、何よりも父さんからもそう教わっていた。女性は外で仕事をして、男性は家庭の事をきっちりこなし、奥さんにとって居心地の良い家にするものだと。
だから僕も10歳の頃までは、父さんに言われた通りの男になろうと努力していた。女性に襲われるという経験が無ければ、それは変わっていなかったはずだ。そう考えると、僕は男性にしては随分と特殊な存在であるということを改めて感じる。本来であれば、男性が害獣と戦うなんてもっての他だし、それ以前に力を欲する事さえ野蛮なことだと忌避されていたからだ。
にもかかわらず、男性の僕が今や大陸の命運を背負うような状況で、5ヵ国の王女殿下の誰かと婚姻しようとしているだなんて、人生何があるか分からないものだ。

(僕の女性恐怖症・・・大丈夫なのかな?)

ふと、最近の自分の状態について考えを巡らせた。というのも、最近はミュータント・1討伐作戦の必要上、クルセイダーの方々の前に立つ事が多いのだ。といっても、ある程度距離がある状況なので、拒絶反応も出ることは無いのだが、それでも拠点内を移動中、前方から数人のクルセイダーの方々が来ると、気づけば肩が壁にぶつかりそうな程の端を歩いていた。
ただ、5人の殿下達に対してはそういった無意識に避けるという行動はしないので、きっと僕は王女殿下の皆さんを、母さんと同じように信頼しているのだろう。となると、将来誰かと家庭を築こうとするなら、女性恐怖症の発症しない5人の王女殿下のいずれかでないと無理な気がする。

(というか、婚姻相手を5人の王女殿下達から選ぼうとするなんて・・・おこがましいにも程があるよな・・・女王陛下は僕の気持ちを優先すると言ってくれたけど・・・)

一人で単純作業をずっと続けていたせいか、様々な考えが浮かんできて、出口の無い迷路に迷い込んでしまったかのように悩み始めてしまった。最初の頃は自由を求めて力を付けようと努力した結果、何だか自由どころか雁字搦めの未来になっているような気もする。


 そんなどこまでも深みに嵌まっていきそうな思考をしていると、『コンコン』と、扉をノックする音が聞こえた。

「はい?どちら様でしょうか?」
『ジール?わたくし達ですが、今よろしいですか?』
「っ!?あっ、はい!」

誰が来たのかと確認すれば、聞こえてきたのはレイラ様の声だった。しかも「わたくし達」ということは、もしかして5人で来ているのだろうかと、慌てて扉を開けに駆け寄った。

「忙しい時にゴメンなさいね。わたくし達も明日以降、作戦当日まで時間が取れなそうになかったので・・・」
「悪いな!少し時間を貰うぜ」
「ジルジルも忙しいのにゴメンね~」
 
扉を開けると、思っていた通りそこにはレイラ様とジェシカ様、パピル様、キャンベル様、ルピス様がいた。レイラ様は開口一番謝罪の言葉を口にし、ジェシカ様とパピル様も同様に申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
殿下達を部屋に通そうと思ったのだが、作業場のようなこの部屋には大きなテーブルなどは無く、小さな作業台と大量のアルマ結晶が入った木箱に埋もれているような状態だ。

「僕の方は問題ないのですが・・・すみません、少し片付けますね」

部屋の有り様を確認すると、とても王女殿下達をお招き出来るような状態では無いと考え、木箱などを片付けようとしたのだが、そんな僕に対してルピス様が声をかけてきた。

「ジールさん、気を使わなくても大丈夫なのです。ボク達も色々と忙しくて長居は出来ないので・・・少しジールさんとお話が出来ればそれで良いのです」

柔らかな笑みを浮かべてルピス様がそう言うと、他の殿下達もルピス様に同意するように頷いていたので、そのままの状態の部屋へ招き入れた。

「・・・しかし凄いわね。これだけの量のアルマ結晶に、一人でアルマエナジーを注いでいるの?」

部屋に入ると、キャンベル様はうず高く積まれている木箱を見ながら感嘆の声をあげた。

「そうですね。といってもまだ3分の1程しか終わってませんので、頑張らないといけませんが・・・」
「えっ?まだ半日も経っていないのに、もうそんなにっ!?本当にジール君は異次元のアルマエナジー量よね・・・」

僕の言葉にキャンベル様は目を丸くすると、驚愕したような声をあげた。すると、その言葉に同調するようにしてレイラ様が口を開いた。

「ふふふ、さすがジール。頼もしい限りですわね。さて、時間も限られていることですし、本題に入りましょうか。といっても、そう難しい話ではありません」

そう前置きすると、殿下達は僕を前に、横一列に並んでみせた。

「・・・あの?」

これから殿下達が何をするのか良く分からない状況に、僕は困惑の声をあげると、殿下達は小さく息を吐き出して、真剣な眼差しを僕に向けてきた。

「ジール・・・わたくし、レイラ・ガーラントは、あなたの事をお慕いしております」
「えっ?」

レイラ様は右手を胸に当て、微笑みを浮かべながら軽くお辞儀するようにしてとんでもないことを言ってきた。その言葉に僕は動揺してしまい、頭が真っ白になってしまった。

「ジール君・・・私、キャンベル・ドーラルは、あなたの事を愛しています」
「っ!?」

動揺している僕をよそに、キャンベル様までも少し緊張した面持ちでそんなことを言ってきた。

「ジールさん・・・ボク、ルピス・エレメントは、あなたの事が大好きです」
「ーーーっ!」

ルピス様までもそんな事を言ってくる。その可愛らしく微笑んでいる表情に、僕の頭の中は混乱するばかりだ。

「ジルジル・・・パピル・リーグラントは、ジルジルの事をとっても愛してるよ」
「っ!!」

パピル様はいつものおどけたような表情ではなく、真剣な顔をしながら僕の目を真っ直ぐに見つめていた。

「ジール殿・・・オ、オレ、ジェシカ・ダイスは、き、君が好きだっ!」
「っ!!」

ジェシカ様は顔を真っ赤に染め、少し言葉を噛みながら、僕の様子を伺うような視線を向けてきていた。
 

 5人の王女殿下が、僕に向かって自分の気持ちを伝えてくれた。皆さんからの好意は以前から感じてはいたが、それが異性に対する愛情から来るものとは思っていなかった。その為、皆さんの想いの言葉を聞いた僕は、突然の事態を処理しきれずに、ただただ立ち尽くしてしまい、返事もままならなくなってしまっていた。
そんな僕の様子に、殿下達はクスリと笑みを浮かべていた。

「安心してくださいジール。今すぐ答えを求めてのものではありませんわ」
「ええ、言ってみればこれは私達の決意表明です」
「決意表明・・・ですか?」

レイラ様とキャンベル様の言葉に、僕はオウム返しのように質問するしか出来なかった。
 
「今度の作戦は、大陸の命運を賭けたものなのです。何が起きてもおかしくないですから、ボク達の気持ちをジールさんに知っておいて欲しかったのです」
「これがパピル達の正直な想いだよ。この戦いが終わったらで良いから、パピル達との将来を少し考えて欲しいな~」
「誰を選んでも文句はない!オレ達も覚悟は決めているからな!ただ、選んでくれるなら、これ以上幸せなことはないが・・・」

ルピス様が皆さんの気持ちを伝えてくれた背景を教えてくれ、パピル様はこの戦いが終わった後の事を語ってくれた。ジェシカ様は、僕が選ぶとしたら誰か一人だと分かっているような口振りだった。おそらくは、女王陛下から話があったのかもしれない。


 真摯な殿下達の想いにどう答えて良いか悩んでいると、話は終わりとばかりに殿下達はそそくさと部屋をあとにした。皆さん、その顔には朱が差していたようだった。
そうして部屋に一人残されると、今起こった事を改めて整理して、僕は5人の王女殿下から告白されたのだという事に、ようやく頭の理解が追い付いた。

(え~~~~~~~~っ!!!!!!)
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