変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

決戦 3

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「本日、この夢幻大地にて、我々人類の貴重な資源を貪っているミュータント・1を我々が討伐する!!皆、かの敵が強大な能力と実力を有しているという事は、既に周知の事実だろう・・・」

 ミュータント・1討伐作戦決行当日、拠点前広場にて、今回の作戦に参加する全クルセイダー並びに、全サポーター達が一同に整列し、その壇上にて演説を行っているジェシカ様を注視していた。その総数は、約2000人。クルセイダーが約1300人、サポーターが約700人という内訳だ。これほどの人数が一つの目的のために、同じ方向を向いて協調するという状況は、圧倒されるものがある。
僕はジェシカ様が演説している壇上の下で、他の王女殿下達と一緒に並び、出陣前の士気高揚の言葉に耳を傾けていた。

「しかし、オレには全く恐れはない!!皆、自分の周りを見てくれ!君達の周りには、頼れる存在が居る!自分の背中を預けられる仲間が居る!今回、この大陸の全ての国から、実力と経験のあるクルセイダーとサポーターが協力して作戦を遂行するという前例のない状況だが、オレは成功を確信している!こうして種族を超えて我々が手を取り合って協力すれば、世界の危機など容易く乗り越えられるだけの力となるからだ!!国の為、友人の為、家族の為、己の為、諸君らの奮闘に期待するっ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

ジェシカ様は拳を高々と突き上げ、あらん限りの声を張り上げると、それに呼応するように整列している全ての者達が、同様に拳を掲げて声を上げた。空気が振動し、まるで大地が揺れているような錯覚さえ感じる目の前の様子に、僕の心も高揚していた。

「行くぞ!出陣だっ!!!」


 士気高揚の演説が終わると、整列していた皆さんは一斉に動き出し、事前に決められていた部隊ごとに点呼が行われ、次々と拠点から離れていった。出陣する皆さんの顔は、ジェシカ様の演説の効果もあってか、使命感に満ちた凛々しい表情をしていた。

今回の作戦の第一段階は誘い込みだ。機動力に優れたクルセイダーを選抜し、操られている害獣に先制攻撃を加え、反撃を仕掛けてくるだろう害獣達を、罠が仕掛けられているポイントにおびき寄せるのだ。
第二段階は分断だ。誘い込んだ害獣達に設置した罠で大損害を与えつつ、更に奥まで誘い込み、付近に待機しているクルセイダーによる波状攻撃を敢行する。それによってミュータント・1が更に援軍を派遣するだろうと想定し、操られている害獣を罠設置場所に釘付けにするのだ。
そうして第三段階では、防衛が手薄になったミュータント・1に対する直接攻撃だ。この段階でいよいよ僕達の出番が来るということだが、老成体も混在している敵戦力も考えると、可能な限り素早く討伐することが望ましいとなるが、正直に言えば相手の実力はほとんど未知数。とにかく最善を尽くすしかない。

以上の3つの段階に分けた作戦が、大まかな概要となっている。
そうして、僕と女王殿下達は予定の待機場所に移動し、その瞬間が来るのを待つのだった。


「「「・・・・・・」」」

 予定の待機場所に到着し、既に30分が過ぎようとしていた。ここは既に夢幻大地の森林の奥、遠くから害獣の気配が色濃く漂うような場所だ。会話の声量や身体を動かすことで生じる音でも相手に発見される可能性を考慮し、必要最低限の会話や、身振り手振りでの意思疎通をしていたが、基本的には後方から合図が来るのを静かに待っていた。

(・・・緊張するな・・・)

ただじっと待っているというのが、これほど緊張感を感じるものだとは思わなかった。下手に動けない、喋れないという状況が続けば続くほど、身体が段々と鉛のように固くなっていった。

『トントン』
「っ!?」

集中して周辺の様子を監視しているたのに、いつの間に背後に来たのか、ルピス様が僕の肩を優しく叩いていた。驚いた僕は、目を見開きながら、何を喋るでも無く、口をパクパクと開閉してしまった。

「落ち着くのです、ジールさん。作戦が実行段階に入るまでは、まだ時間はあるのですし、ボク達の出番は更にその後なのです。今からそんなに緊張していては、いざという時に冷静な行動が出来ないのですよ?」

僕の様子を察したのだろう、ルピス様は心配した表情を浮かべながら耳元で囁くように話し掛けてきた。

「す、すみません。頭では分かっているのですが、今回のような大規模な作戦行動は初めてで・・・それに、僕が今回の作戦の中心的役割を担っていると思うと・・・」

僕は苦笑いを浮かべながら、現状における不安を口にした。

「無責任に大丈夫という言葉も言えないのですが、ボク達がいるのです!例え何が起こっても、ジールさんを助けて、必ずこの作戦を成功させてみせるのです!」
「ルピス殿下・・・そうですよね、皆さんも一緒なんですよね」

気負いがないようなルピス様の言葉に、落ち着きを少しづつ取り戻した僕は、深呼吸しながら一度頭の中から今回の作戦の事考えないよう空っぽにした。すると、段々と身体の感覚が元に戻ったようだ。

そして―――

「・・・始まりましたね」

遠くから、害獣であろう多数の移動音と咆哮が聞こえる。その状況に、キャンベル様がポツリと呟きを漏らした。恐らくは作戦の第一段階である、操られている害獣の誘い込みが始まったのだろう。

「皆さん、わたくし達の出番も、もうそろそろですわ。準備はよろしいですわね?」

作戦が実行段階に移ったことを確信したのだろう、レイラ様はここに居る皆を見渡しながら問いかけてきた。ここでレイラ様が言う準備というのは物理的なものではなく、あくまでも精神的なものの方だ。

「ああ、いつでも良いぜ!」
「もちろんです」
「いつでも来いなのです!」
「ようやく出番が来るわね~」

レイラ様の言葉にジェシカ様、キャンベル様、ルピス様、パピル様が順に応え、最後に皆さんは僕の方へと視線を向けてきた。

「僕も大丈夫です。いつでも行けます」

僕の返答に、レイラ様は笑みを浮かべていた。見れば、それは他の皆さんも同様だった。

「多少の緊張は必要だが、緊張し過ぎて筋肉が強張るのは、経験の浅いクルセイダーによくあることだ。ジール殿にとっては自分が今回の作戦の肝ということで、更に重圧を感じてしまっているかもしれないが、どうやら良い精神状態に落ち着いたようだな。さすがジール殿だ!」

ジェシカ様は、僕の腕の筋肉の状態を確認するように揉みながらそんな事を言ってきた。

「いえ、さっきまでジェシカ殿下が言うように、自分の身体が鉛のように重かったんです。でも、ルピス殿下が励ましてくれたおかげで、身体が楽になりました」
「えっへん、なのです!」

僕の言葉を聞いたルピス様が、腕組をしながら鼻息荒くドヤ顔をしていた。尻尾はピコピコと左右に忙しなく揺れており、心から嬉しそうにしているということが分かる。

「な~に自分は『一歩リードしてます』みたいな顔してるのよ~。パピルだってジルジルの緊張を解すくらい、ワケないんだから!」

ルピス様の態度に頬を膨らませて不満を口にしたパピル様が、ジェシカ様を押しのけ、僕を正面から抱きしめ、身体をまさぐり始めた。

「ひあっ!?あの?パピル殿下?」
「ふふふ!これぞリーグラント王家に伝わるマッサージ術!その名も、骨抜き堕落術!」

パピル様は僕の背中に回した手を器用に動かしながら、筋肉を揉みしだき始めた。すると、パピル様の小さな指が背中の関節と筋肉の間を優しく解きほぐし、得も言われぬ快感が僕を襲ってくる。

「う、あぁぁぁ・・・」
「ジ、ジール君!?大丈夫?」

変な声を漏らしてしまった僕に驚いたのだろう、キャンベル様が心配したように声を掛けてきた。

「だ、大丈夫です。その、身体の力が抜けてしまうくらい気持ちよくて・・・」

僕の返答に、パピル様以外の皆さんが生唾を飲み込んだような気がした。更に理由は分からないが、何故か皆さん頬を赤く染めていた。

「もぅ~ジルジルったら、だらしない顔しちゃって~。そんなにこれが気持ちいいの~?」
「は、はい・・・マッサージって凄いんですね・・・」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、僕の顔を下から覗き込んでくるパピル様に、何とか返答した。気を抜いたら膝から崩れ落ちてしまいそうだったのを、必死に堪えているのだ。

「う゛、う゛ん!パピル殿下?そろそろ作戦の第二段階が始まるので、そのへんで・・・」

そんな状況に、咳払いをしたレイラ様が苦言を呈した。

「え~?これからが良いところなんだけどな~。じゃあ続きは、この作戦が終わってからね~」

そう言ってパピル様はウィンクすると、僕からゆっくりと離れていった。これ以上更に凄いマッサージがあるなど想像できないが、パピル様のおかげか、心も身体もとても軽くなったような気がした。
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