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大本営
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指令室のドアが開いた瞬間に、心地の良い冷気が吹いてくる。
リリア王女とシェリー・ミッシェルがいる。
——直後、羽月、伊吹と旭の顔に怒りが湧き上がった。
「三〇一隊は、王女の教育係とボディーガードを務める事になった。これは、勿体無い程、名誉な事だ」
そんな羽月達を振り向きもせず、有川は誇らし気に言う。
「お久しぶりです。三〇一隊の皆様——。留学して来ました。御指導、宜しくお願いします」
ソファーから立ち、リリア王女は丁寧に挨拶した後、深々と頭を下げた。
「こちらは大変光栄です」
そう返し、有川は会釈する。
魔界との外交力強化に繋がる——。これが大本営の思惑だった。
「歓迎しますよ。こんな所で良ければ……あれっ?」
稲垣が横を見ると、司令官の三人がいない。
「あれ?」
同時に気付いた有川も目が点になった。
「あれっ? れれっ?」
顔を上げたリリア王女も異変に気付く。
三〇一隊も那智しかいない。
「てめぇ、どういう事だっ! 何で、ここだけエアコン点いてんだよっ⁉︎」
司令官の一人に旭が怒鳴っている。
リリア王女が頭を下げた瞬間に、三人が一斉に司令官達に食って掛かった。首根っこや頭を掴み、指令室の直ぐ外の廊下に連れ出していた。
「待てっ、落ち着けっ! カードみたいなの貰ったんだっ」
胸ぐらを掴み、問い質す旭に司令官の一人が訳を言う。
「何、面倒引き受けてんだっ! 馬鹿にも限度があんだろっ!」
怒鳴る羽月は総司令官の頭を壁に打ち付ける。
「三人共、落ち着けっ! 一遍に言うな!」
伊吹に胸ぐらを掴まれて揺すられる司令官が、交互に三人を見ながら慌てふためき制止を促す。
「ふざけんなっ‼︎ エアコン使わせろよっ! さもなきゃ、ケツ出して王女に迫んぞっ!」
「お前に至っては、何言ってんだ⁉︎」
慌てふためてはいるが、伊吹の意味不明な脅しには冷静に指摘する。
「……っ直ぐにカード配るから。……暑いし、中入ろうっ。取り敢えず、ねっ!」
総司令官は両手を前にし、三人を宥めた。
「本当っっだな⁉︎ エアコン点くんだなっ⁉︎」
「点けるっ! 点けるからっ」
旭を相手に総司令官は約束した。
「まぁいい。……取り敢えず見逃してやるよ」
吐き捨てた羽月は、総司令官を乱暴に払い、壁に叩き付けて解放した。
最後に一睨みを向け、羽月は司令室に踵を返す。他も続けて司令室に戻った。
司令官達に渡されたカードは、戦時下や災害時に、貼るだけで機械や車を動かせる魔界製の非常用電源だ。電力供給状況のニュースを見て、リリア王女が持ってきた。
「皆様から学びたく、留学して来ました。宜しくお願いします」
気を取り直して、リリア王女はもう一度挨拶した。
「あぁ、分かった。こちらこそ宜しく——」
投げやりに羽月は挨拶を返す。
那智と伊吹、旭も続けて挨拶し出した。
突然、司令室内の電話が鳴り、司令官の一人が受話器を取った。
「……はい。そうですか……。分かりました」
電話を切って、リリア王女を振り返る。
「すいません。やっぱり寮に空きが有りません」
「……そうですか。こちらこそ、すみません」
残念がるリリア王女は謝罪した。
サキュバス王国が支援している対イーブル軍の寮は、2LDKの二人部屋か1DKの一人部屋でどちらも広い。衛生にも配慮され、清掃員がいる上に、家電は最新の物が揃っている。
部屋に浴室、トイレと洗面室は有るが、二十四時間使い放題のスパがある。二十四時間使い放題のジムも完備している。
食堂は、メニューが豊富で無料の為、十分な栄養が摂れる。二十四時間営業のコンビニもあり、無料自販機も備えている。
寮は文句無しの設備で寮費は全て無料だ。そのおかげで、入寮希望者がとても多い。元々少ない女子寮は、学生だけで満員に近くなっていた。
その他に学生を喜ばせるのは、タブレットとウェアラブル端末の無料配布だ。無料で使い放題の上、時間制限はあるがゲームも出来る。
「通学にして頂けますか?」
司令官の問い掛けに、リリア王女は了承しようとした。
「——なら、俺のマンションに住むか?」
羽月が別案を出した。
「いいんですか?」
志保さんに、また会えるっ!
喜んでリリア王女は聞き返す。
「いいよ。志保も喜ぶし」
笑顔で伊吹が答え、羽月も「あぁ」と容認した。
「えっ、でも……男と二人っきりは、不味くないですか? はしたないと思われそうですし、間違いが起きてしまうんじゃ……」
総司令官が戸惑いを口にする。
「……間違い? はしたない? 恋愛しないと結婚出来ない。悪しき風習を言うなっ」
シェリーに叱られた。
サキュバス王国では、恋愛は幸せな結婚生活を送る為に、必要な過程と位置付けられている。性行為は、自然な欲求として扱われる。加えて、シェリーは近年、日本では人口減少が問題になっている事を知っている。それなのに、恋愛感情を蔑ろにしていると思い、シェリーは不愉快になった。
「なめんなよっ! 同意なしに手ぇ出す程、飢えていません」
羽月の顔と口調も不愉快が露骨だ。
「ですが……。でも、表向きは通学にして下さい……」
恐縮し、両手を擦り合わせながら、総司令官はシェリーとリリア王女に頼み入れた。
リリア王女とシェリー・ミッシェルがいる。
——直後、羽月、伊吹と旭の顔に怒りが湧き上がった。
「三〇一隊は、王女の教育係とボディーガードを務める事になった。これは、勿体無い程、名誉な事だ」
そんな羽月達を振り向きもせず、有川は誇らし気に言う。
「お久しぶりです。三〇一隊の皆様——。留学して来ました。御指導、宜しくお願いします」
ソファーから立ち、リリア王女は丁寧に挨拶した後、深々と頭を下げた。
「こちらは大変光栄です」
そう返し、有川は会釈する。
魔界との外交力強化に繋がる——。これが大本営の思惑だった。
「歓迎しますよ。こんな所で良ければ……あれっ?」
稲垣が横を見ると、司令官の三人がいない。
「あれ?」
同時に気付いた有川も目が点になった。
「あれっ? れれっ?」
顔を上げたリリア王女も異変に気付く。
三〇一隊も那智しかいない。
「てめぇ、どういう事だっ! 何で、ここだけエアコン点いてんだよっ⁉︎」
司令官の一人に旭が怒鳴っている。
リリア王女が頭を下げた瞬間に、三人が一斉に司令官達に食って掛かった。首根っこや頭を掴み、指令室の直ぐ外の廊下に連れ出していた。
「待てっ、落ち着けっ! カードみたいなの貰ったんだっ」
胸ぐらを掴み、問い質す旭に司令官の一人が訳を言う。
「何、面倒引き受けてんだっ! 馬鹿にも限度があんだろっ!」
怒鳴る羽月は総司令官の頭を壁に打ち付ける。
「三人共、落ち着けっ! 一遍に言うな!」
伊吹に胸ぐらを掴まれて揺すられる司令官が、交互に三人を見ながら慌てふためき制止を促す。
「ふざけんなっ‼︎ エアコン使わせろよっ! さもなきゃ、ケツ出して王女に迫んぞっ!」
「お前に至っては、何言ってんだ⁉︎」
慌てふためてはいるが、伊吹の意味不明な脅しには冷静に指摘する。
「……っ直ぐにカード配るから。……暑いし、中入ろうっ。取り敢えず、ねっ!」
総司令官は両手を前にし、三人を宥めた。
「本当っっだな⁉︎ エアコン点くんだなっ⁉︎」
「点けるっ! 点けるからっ」
旭を相手に総司令官は約束した。
「まぁいい。……取り敢えず見逃してやるよ」
吐き捨てた羽月は、総司令官を乱暴に払い、壁に叩き付けて解放した。
最後に一睨みを向け、羽月は司令室に踵を返す。他も続けて司令室に戻った。
司令官達に渡されたカードは、戦時下や災害時に、貼るだけで機械や車を動かせる魔界製の非常用電源だ。電力供給状況のニュースを見て、リリア王女が持ってきた。
「皆様から学びたく、留学して来ました。宜しくお願いします」
気を取り直して、リリア王女はもう一度挨拶した。
「あぁ、分かった。こちらこそ宜しく——」
投げやりに羽月は挨拶を返す。
那智と伊吹、旭も続けて挨拶し出した。
突然、司令室内の電話が鳴り、司令官の一人が受話器を取った。
「……はい。そうですか……。分かりました」
電話を切って、リリア王女を振り返る。
「すいません。やっぱり寮に空きが有りません」
「……そうですか。こちらこそ、すみません」
残念がるリリア王女は謝罪した。
サキュバス王国が支援している対イーブル軍の寮は、2LDKの二人部屋か1DKの一人部屋でどちらも広い。衛生にも配慮され、清掃員がいる上に、家電は最新の物が揃っている。
部屋に浴室、トイレと洗面室は有るが、二十四時間使い放題のスパがある。二十四時間使い放題のジムも完備している。
食堂は、メニューが豊富で無料の為、十分な栄養が摂れる。二十四時間営業のコンビニもあり、無料自販機も備えている。
寮は文句無しの設備で寮費は全て無料だ。そのおかげで、入寮希望者がとても多い。元々少ない女子寮は、学生だけで満員に近くなっていた。
その他に学生を喜ばせるのは、タブレットとウェアラブル端末の無料配布だ。無料で使い放題の上、時間制限はあるがゲームも出来る。
「通学にして頂けますか?」
司令官の問い掛けに、リリア王女は了承しようとした。
「——なら、俺のマンションに住むか?」
羽月が別案を出した。
「いいんですか?」
志保さんに、また会えるっ!
喜んでリリア王女は聞き返す。
「いいよ。志保も喜ぶし」
笑顔で伊吹が答え、羽月も「あぁ」と容認した。
「えっ、でも……男と二人っきりは、不味くないですか? はしたないと思われそうですし、間違いが起きてしまうんじゃ……」
総司令官が戸惑いを口にする。
「……間違い? はしたない? 恋愛しないと結婚出来ない。悪しき風習を言うなっ」
シェリーに叱られた。
サキュバス王国では、恋愛は幸せな結婚生活を送る為に、必要な過程と位置付けられている。性行為は、自然な欲求として扱われる。加えて、シェリーは近年、日本では人口減少が問題になっている事を知っている。それなのに、恋愛感情を蔑ろにしていると思い、シェリーは不愉快になった。
「なめんなよっ! 同意なしに手ぇ出す程、飢えていません」
羽月の顔と口調も不愉快が露骨だ。
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