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一章
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男の脚が、光に包まれる。
ユリウスが目を開けると、もう馬車は教会に着いていた。もう着いてしまったのかと落胆すると同時に、覚悟を決める。
ユリウスが馬車を降りようとすると、男がそれを引き止めた。
「待ってくれ!君は、君は神の子なのか!?」
ユリウスは答えない。頷くこともせずに、再び教会へと足を進める。すると、なんと男はユリウスを追いかけてきた。
どうして着いて来るのだと問いただしたくても、ユリウスは声が出ない。
「私も着いていくよ。もとより私は、この脚のために教会に来たわけじゃない。それに、恩人に自己紹介もできていないままでは、私も紳士としての示しがつかないんだ。許してくれ。」
怪我を治すためじゃなかったのか…?だとしたら、一体何のために…
「私は、ウォルター・レオンハルト。レオンハルト公爵家の当主だ。君の、君の名前を聞かせてくれないか。」
…ウォルター?
ユリウスは、その名前に聞き覚えがあった。確か、孤児院にいた時、一番仲の良かった一つ下の男の子だったはずだ。今は顔も思い出せないが、ウォルターは公爵家の人間ではなかったはずだ。
懐かしい名前を思い出したと、ユリウスは心が暖かくなるのを感じた。
「君が私に心を許していないことはわかっている。現に今まで、一言も口を聞いてくれていないからな…。君を詮索するつもりはない。でも、恩人の名前も知らないで別れる事はしたくないんだ。この脚のお礼は、後日きちんとさせて欲しい。」
ユリウスは答えない。答える事ができない。ユリウスは、ウィルの顔を見つめ、微笑んだ。ウィルはユリウスの微笑みを見て少し固まっていたが、悲しそうに笑みを返してくれた。
「…行こうか。」
ユリウスは頷き、教会の扉へ足を傾ける。扉が開いた先で、血相を変えた神官長が2人を待ち構えていた。
ーーーーーー
「まさか、まだ脱走を諦めていなかったとはな。ユリウス。貴様は何度私を怒らせれば気が済むのだ?」
ユリウスは俯いて動かない。だが、その瞳はしっかりと神官長を捉えていた。神官長は、横にいるウィルにも気付かずユリウスを叱りとばしている。
「ああそうだ、お前は口が聞けないんだったな。私の愚問だったよ。まあ、自分から戻って来たことは褒めてやる。」
白々しい。どうせ、これから俺を鞭打ちする気満々のくせに。
「ま、待ってください神官長。この子がユリウスなのですか!?それに、口が聞けないというのは!?」
「…っ!?あ、あなたは公爵家の…」
「申し遅れました。私はレオンハルト公爵家当主、ウォルター・レオンハルトです。本日は、神官のユリウス・ロンドベリーに会う機会をいただきたく伺いました。それで、先程の発言はどういうことなのですか?」
レオンハルトは、酷く動揺しているようにも、怒っているようにも見えた。
まあ、こうなるよな。という感想だったが、疑問に思うこともあった。
-俺はお前のこと、全然分からないんだ。それに、なんであんたみたいな人が俺を探してたんだよ?なんで、そんな感情全部ごちゃ混ぜたみたいな、苦しそうな顔してるんだよ……それを治しに来たのか?なら教えてくれないと、治せないじゃないか。
神官長は動揺を見せず、淡々とレオンハルトを宥めた。
「…ユリウスは罪を犯しました。その罰を自分に課しているだけの事です。そしてこの子はこの教会から何度も脱走しようとする不届者なのですよ。公爵様が気になされる事ではございません。
それに私はこれから、ユリウスが脱走した事の懺悔を聞かなければなりません。今日のところは、お引き取り願いたい。」
「ですが…!」
パァンッ!!
急に、破裂音のような音が響いた。ユリウスが、ウォルターの頬を平手打ちしたのだ。ウォルターは困惑の色を隠せずにいる。
ー悪いな、公爵様。脚は治したんだ。だからこれ以上は、よしてくれ。
そして、ユリウスは微笑んだ。その表情を見たウォルターは、ひどく悲しそうに目尻を下げた。ウォルターは、
「……必ず、また伺います。」
そう言って、ウィルはユリウスの顔を見つめた後、静かに馬車に戻っていった。
もう来なくていいと、ユリウスは心の中で呟いた。
ーーーーー
「自分が何をしたか、これからどうなるのか、分かっているのだろうな?公爵まで連れて来おって…」
バチンッ!!!
「あの時からそうだ!!いつもいつも私に迷惑ばかりかけおって…神聖力が人より優れているからと言って許されると思っているのか!!!」
バチンッッ!!!!
「私はこの6年間…お前を許した事など一度たりとも無い…追い出されてやろうという魂胆は丸見えだぞ。このまま…逃げる気力が無くなるまで…いや無くなっても、私はお前を断罪し続けよう!!」
バチンッッッ!!!!!
何時間が経ったのだろうか。ユリウスの手足はキツく縛られ、体は冷え切っていた。服に血がつかないよう、上半身は裸にされていた。朝が近づき、鳥の声が聞こえ始めたところでようやく怒りが収まったようで、神官長は部屋から出て行った。今回は一晩だけで済んだが、もしユリウスがあの時レオンハルトを止めていなければ、鞭打ちの時間がもう一晩増えていただろう。だが、ユリウスは異変を感じた。
ーおかしい
神官長はいつも、断罪が終わった後は縄を解く。だが、今回は縄を解かずに部屋から出て行ってしまった。
ーまさか、俺をこのまま放置するつもりか
今日だって俺を訪ねてくる客が居るだろうに。なぜ…?
ー「公爵まで連れて来おって…」ー
公爵を連れて来たのがまずかったのか。まあ確かにバレたら困る事だらけだろうな…
…そういえばあの公爵、俺に用があるって言ってなかったか?
ー『本日は、神官のユリウス・ロンドベリーに会う機会をいただきたく伺いました。』ー
ー『もとより私は、この脚のために教会に来たわけじゃない。』ー
公爵様が、何の用があって俺を訪ねに来る事があるんだ?脚はもう治したし…
ユリウスは、ウィルに心配そうに見つめられた事を思い出した。レオンハルトの笑った顔は、まさに天使のようだった。
もしかしたら…と、ユリウスは思う。
あの心優しい公爵ならば、ユリウスをここから救い出してくれるかもしれない。ユリウスを自由にしてくれる可能性がある人物は、もうレオンハルトしかいないとユリウスは思った。
公爵を利用するなんて…とも思ったユリウスだったが、最早なりふり構って居られるほど状況は芳しくない。
-絶対にここから抜け出して、俺は自由に生きるんだ!
ユリウスが目を開けると、もう馬車は教会に着いていた。もう着いてしまったのかと落胆すると同時に、覚悟を決める。
ユリウスが馬車を降りようとすると、男がそれを引き止めた。
「待ってくれ!君は、君は神の子なのか!?」
ユリウスは答えない。頷くこともせずに、再び教会へと足を進める。すると、なんと男はユリウスを追いかけてきた。
どうして着いて来るのだと問いただしたくても、ユリウスは声が出ない。
「私も着いていくよ。もとより私は、この脚のために教会に来たわけじゃない。それに、恩人に自己紹介もできていないままでは、私も紳士としての示しがつかないんだ。許してくれ。」
怪我を治すためじゃなかったのか…?だとしたら、一体何のために…
「私は、ウォルター・レオンハルト。レオンハルト公爵家の当主だ。君の、君の名前を聞かせてくれないか。」
…ウォルター?
ユリウスは、その名前に聞き覚えがあった。確か、孤児院にいた時、一番仲の良かった一つ下の男の子だったはずだ。今は顔も思い出せないが、ウォルターは公爵家の人間ではなかったはずだ。
懐かしい名前を思い出したと、ユリウスは心が暖かくなるのを感じた。
「君が私に心を許していないことはわかっている。現に今まで、一言も口を聞いてくれていないからな…。君を詮索するつもりはない。でも、恩人の名前も知らないで別れる事はしたくないんだ。この脚のお礼は、後日きちんとさせて欲しい。」
ユリウスは答えない。答える事ができない。ユリウスは、ウィルの顔を見つめ、微笑んだ。ウィルはユリウスの微笑みを見て少し固まっていたが、悲しそうに笑みを返してくれた。
「…行こうか。」
ユリウスは頷き、教会の扉へ足を傾ける。扉が開いた先で、血相を変えた神官長が2人を待ち構えていた。
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「まさか、まだ脱走を諦めていなかったとはな。ユリウス。貴様は何度私を怒らせれば気が済むのだ?」
ユリウスは俯いて動かない。だが、その瞳はしっかりと神官長を捉えていた。神官長は、横にいるウィルにも気付かずユリウスを叱りとばしている。
「ああそうだ、お前は口が聞けないんだったな。私の愚問だったよ。まあ、自分から戻って来たことは褒めてやる。」
白々しい。どうせ、これから俺を鞭打ちする気満々のくせに。
「ま、待ってください神官長。この子がユリウスなのですか!?それに、口が聞けないというのは!?」
「…っ!?あ、あなたは公爵家の…」
「申し遅れました。私はレオンハルト公爵家当主、ウォルター・レオンハルトです。本日は、神官のユリウス・ロンドベリーに会う機会をいただきたく伺いました。それで、先程の発言はどういうことなのですか?」
レオンハルトは、酷く動揺しているようにも、怒っているようにも見えた。
まあ、こうなるよな。という感想だったが、疑問に思うこともあった。
-俺はお前のこと、全然分からないんだ。それに、なんであんたみたいな人が俺を探してたんだよ?なんで、そんな感情全部ごちゃ混ぜたみたいな、苦しそうな顔してるんだよ……それを治しに来たのか?なら教えてくれないと、治せないじゃないか。
神官長は動揺を見せず、淡々とレオンハルトを宥めた。
「…ユリウスは罪を犯しました。その罰を自分に課しているだけの事です。そしてこの子はこの教会から何度も脱走しようとする不届者なのですよ。公爵様が気になされる事ではございません。
それに私はこれから、ユリウスが脱走した事の懺悔を聞かなければなりません。今日のところは、お引き取り願いたい。」
「ですが…!」
パァンッ!!
急に、破裂音のような音が響いた。ユリウスが、ウォルターの頬を平手打ちしたのだ。ウォルターは困惑の色を隠せずにいる。
ー悪いな、公爵様。脚は治したんだ。だからこれ以上は、よしてくれ。
そして、ユリウスは微笑んだ。その表情を見たウォルターは、ひどく悲しそうに目尻を下げた。ウォルターは、
「……必ず、また伺います。」
そう言って、ウィルはユリウスの顔を見つめた後、静かに馬車に戻っていった。
もう来なくていいと、ユリウスは心の中で呟いた。
ーーーーー
「自分が何をしたか、これからどうなるのか、分かっているのだろうな?公爵まで連れて来おって…」
バチンッ!!!
「あの時からそうだ!!いつもいつも私に迷惑ばかりかけおって…神聖力が人より優れているからと言って許されると思っているのか!!!」
バチンッッ!!!!
「私はこの6年間…お前を許した事など一度たりとも無い…追い出されてやろうという魂胆は丸見えだぞ。このまま…逃げる気力が無くなるまで…いや無くなっても、私はお前を断罪し続けよう!!」
バチンッッッ!!!!!
何時間が経ったのだろうか。ユリウスの手足はキツく縛られ、体は冷え切っていた。服に血がつかないよう、上半身は裸にされていた。朝が近づき、鳥の声が聞こえ始めたところでようやく怒りが収まったようで、神官長は部屋から出て行った。今回は一晩だけで済んだが、もしユリウスがあの時レオンハルトを止めていなければ、鞭打ちの時間がもう一晩増えていただろう。だが、ユリウスは異変を感じた。
ーおかしい
神官長はいつも、断罪が終わった後は縄を解く。だが、今回は縄を解かずに部屋から出て行ってしまった。
ーまさか、俺をこのまま放置するつもりか
今日だって俺を訪ねてくる客が居るだろうに。なぜ…?
ー「公爵まで連れて来おって…」ー
公爵を連れて来たのがまずかったのか。まあ確かにバレたら困る事だらけだろうな…
…そういえばあの公爵、俺に用があるって言ってなかったか?
ー『本日は、神官のユリウス・ロンドベリーに会う機会をいただきたく伺いました。』ー
ー『もとより私は、この脚のために教会に来たわけじゃない。』ー
公爵様が、何の用があって俺を訪ねに来る事があるんだ?脚はもう治したし…
ユリウスは、ウィルに心配そうに見つめられた事を思い出した。レオンハルトの笑った顔は、まさに天使のようだった。
もしかしたら…と、ユリウスは思う。
あの心優しい公爵ならば、ユリウスをここから救い出してくれるかもしれない。ユリウスを自由にしてくれる可能性がある人物は、もうレオンハルトしかいないとユリウスは思った。
公爵を利用するなんて…とも思ったユリウスだったが、最早なりふり構って居られるほど状況は芳しくない。
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