神官にはなりたくないので幼馴染の公爵様と下剋上します

だるま

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一章

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 部屋に入るなり、ユリウスはウォルターと目が合った。

 彼の宝石のような瞳が、静かにユリウスを捉える。

 大丈夫、予想はついていた。神官長が"お客様"なんて呼ばなきゃならない人は、王族か公爵家くらいだろうから。だから、大丈夫だ。たとえ向こうが何かしてきてもきっと、うまくやれる。俺は…生き延びてみせるんだ。

 今日、ユリウスは"神官"としてウォルターに接しなければならない。あの馬車での出来事は捨てて、初対面として会うのだ。ユリウスはこの時初めてすこしだけ、声が出せなくて良かったと思った。


「久しぶりだね、ユリウス。会いたかったよ。」

「………」

「うむ、そうか…君は話せないんだったな。理由はわからないが…」


 神官長がギロリとウォルターを睨みつけた。「詮索はするな」という合図なのだろう。ウォルターもそれに応じて口をつぐみ、にこりと微笑んでみせた。

 -しかし、神官長ももう白髪が酷くなってくる年頃だというのに、この幼稚さは一体何なのだろう?もう少しメンツというものを守るために、嫌でも笑顔を作るところではないのか。ウォルターのように。
 
 …今日の事だって、まるで暴走した子供の様だった。


「それで?レオンハルト様。今日はまた如何様でうちのユリウスをお訪ねになられたのかな。」

「まあまあ、そんなに急いで話を進めなくてもいいじゃないですか、神官長様。まだユリウスを立たせてしまっているというのに。」

 そう言って、ウォルターはユリウスを座るように催促した。…何故か、ウォルターが座っているのと同じソファに。

 -何言ってんだこいつ!?客の隣に俺が座れるわけがないだろ…!


「レオンハルト様、こいつは立たせておくだけで十分でございます。何を血迷われてそのような事を?」


 …今日の神官長はやはりおかしい。神官長は、俺を虐待してる事を必死に隠してきた。自分のメンツが何より大事だったはずだ。…なのに、今日の発言の節々には、明らかに苛立ちと不満が混じっている。
 そして、俺への虐待を疑いかけられない発言の節々…以前の神官長なら、ありえない醜態だ。

 やっぱり、何かあったのかもしれない。…俺があんな事になった原因も知りたいし。


「神官長様、お願いいたします。本当に、久しぶりに再会できたのです。私は、ユリウスと出会わせてくれたあなたに感謝しています。ユリウス!さあ、こっちに座って。」

「…」


 どうして、たかだか数日前に出会って別れた男同士の再会を、ここまで喜ぶ紳士というものがいるのだろうか。しかも彼のユリウスに向けられた笑みは、顔を綻ばせ、目は潤み、頬は薄紅に染まっていた。それはまるで…

 まるで、ただならぬ感情をユリウスに向けているような…

 ウォルターがあんな笑顔を社交場で披露した暁には、間違いなくその場にいた令嬢は惚れ込み、たとえ令息であっても魅了して見せることだろう。

 ユリウスは結局、あれよあれよと流されて、ウォルターの隣に座ってしまった。ユリウスは神官長の目が見れなかった。が、絶対に、恐しいほど凝縮された憎悪の眼差しを今ユリウスに向けているはずだ。


「神官長も、どうぞお座りになられてください。」


 ウォルターがにっこりと笑って言った。ユリウスは、心臓を鷲掴みにされた気分になった。

 なんて恐ろしいことを…!!

 一端の神官が、神官長より先に座るのを促すなどただの侮辱行為でしかない。それを自然に促して見せるなんて…。こいつ、やはり神官長より一回りも二回りも上だ。

 神官長も渋々、向かいのソファに座った。


「レオンハルト様、そろそろ本題に入っていただきたい。ユリウスは多忙な身なのでね、あなたも分かるでしょう?彼の神聖力の強さを。」

「ええ、それはもちろん。しかし、ここ何日かはユリウスは治療をしていないと聞いていたのですが…。何かあったのですか?」

「…別に。大したことは何も…。」


 神官長が肩を震わせた。まあ、自分が監禁して放置してたからです~なんて、口が裂けても言えることではないだろう。ユリウスは、思わず顔がにやけてしまいそうになるのを必死に堪えた。神官長のこんなだらしない姿、二度もお目にかかれるかわからない!


「神官長様、現在、王宮騎士団の人員が不足しているのはご存知ですか?」

「ええまあ、それは聞いていますが、何か?」


 王宮騎士団…?

 王宮騎士団とは、国中からかき集めた精鋭が所属する騎士団だ。合格規準は天より高いと言われ、騎士団に入れただけでも素晴らしい栄誉だとされるほどなのである。なので王宮騎士団は万年人手不足の筈なのだが、それが一体どうしたというのだろう。


「率直に言えば、ユリウスを王宮騎士団に引き込みたいのです。」


 -な、なんだって!?

 その瞬間、部屋に電撃が走った。神官長の顔がみるみる赤くなり、目は血走っている。神官長は

 ドンッッ!!!!

 と机を思いっきり叩いて立ち上がり、ウォルターに敵意を剥き出しにした。


「断固!!!拒否します。ユリウスを王宮騎士団に所属させるなど、騎士団は何を血迷われたのですか!?こんな力も何もない役立たずなどに」

「…役立たず?」


 ウォルターの鋭い眼差しが神官長を突き刺した。神官長は狼狽え、威勢を無くしていく。ユリウスも狼狽えていた。

 なんで俺が、王宮騎士団に?


「あっ…いや…。騎士団に所属させるからには、体力や戦術も覚えなければならないでしょう。その点、ユリウスには向いていません。」

「…なるほど。その点に関しては心配要りません、ユリウスは、直接戦場に行くわけではありませんから。」

「なに?」

「近頃、魔物の出現が増えてきており、その種類も増えつつあるのです。治療法がわからない怪我をすることもある故、もう王宮医師だけでは手が回らない状況を、ユリウスに助けていただきたくお願いにきた次第なのです。」

「そ…それなら、わざわざユリウスを王宮に連れて行かずとも、患者を教会へ連れてこれば良い話だ!!」

「神官長、あなたも分かるでしょう?王宮から教会までは40里もあるのです。馬車にも出せるスピードに限界があります。教会に着いた時には死んでいた、なんてことがあり得るのですよ。」


 神官長が押されている…。そんなあり得ない話が今、目の前で起こっている。誰一人として、神官長には逆らえなかった。逆らったとしても、権力で捻り潰されるだけだからだ。ユリウスの中で、燃えるように熱い何かが込み上げてくるのを感じた。

 ー教会から出られるかもしれない。

 そんな、夢みたいな話。ずっと、夢見てきた話に今、ユリウスは確実に近づいている。


「これ以上何を言おうが、ユリウスは騎士団などには連れて行かせない!!絶対にだ!!!あまり図に乗るなよ、小僧。ユリウス!!お前も私が恋しいだろう?今日だって、あんなに私に泣きついてきて…」

「…それ以上は結構です。」


 ウォルターが神官長の話を遮った。

 終わった。完全に神官長の負けだ。俺は…俺はやっとここから…!!


「神官長を説得するのは無理そうですね。時間も過ぎましたし、今日のところはここで失礼します。」


 …は?

 待てよ、どう考えても神官長は負けただろう。審判にかければ、確実に勝てる筈だ。なのになんで、なんで…

 ー俺を連れ出してくれないんだ。

 今ウォルターが帰って仕舞えば、ユリウスは神官長の腹いせを喰らうだろう。断罪はさっき受けたばかりだと言うのに、また鞭打ちを喰らえば今度こそ死んでもおかしくない。


 ー行かないで…




 俺をここから出して!!!!




 






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