神官にはなりたくないので幼馴染の公爵様と下剋上します

だるま

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一章

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 簡単なことだと思っていた。

 会って、ただ話をして、了承を貰うだけだと。

 今まで何度もやってきた。

 だから少し、ほんの少しだけ慢心があったのだ。

 いや、ずっと会いたかった人に会えるのだから、浮かれていたのだろう。

 ユリウス…僕は君に、どうしても聞きたいことがあるんだ。


 貴方は僕を…





 ハッとして目が覚めた。どうやら馬車の中で眠ってしまっていたようだ。窓の景色を見るに、教会まであと数分と言ったところだろう。この道の景色も、もう大分馴染んできてしまった。

 ここ最近はほぼ毎日のように教会へ足を運んでいるというのに、一向にユリウスに会えない。あの神官長の計らいだろう。だが、私も到底諦めるつもりはない。あの環境はユリウスに毒だ。一刻も早く連れ出してあげたいのは山々だし、そうする事は可能だ。
だがまだ出来ない。一ヶ月前にユリウスを勧誘した時といい、神官長の言動や態度があまりにも怪しすぎるのだ。

 この一か月の間で、神官長の様子が日に日におかしくなっていったのだ。ユリウスへの行き過ぎた執着、取り繕うことができていない言動、全てのボロが出るまで、あともう少し。そして、ユリウスが声を出せなくなった原因は、恐らくだが神官長と繋がっている。なんとしてでもその原因を探し出して、治せるものなら治してやらなければ。

 ふ、と窓の外を見れば、馬車の馬を引く年配の男がこちらに合図を送っていた。


「レオンハルト様!あと5分で到着いたします。」


 この柔らかな物腰の白い髭が長い男は、公爵家の家令ーモーガン・ウォントレッドーだ。モーガンはいつだって嘘はつかない。彼が「5分後に着く」と言えば、本当にきっかり5分後に到着するのだから毎回感心している。ああ、5分⚪︎秒後など、曖昧なことを言っているのではないよ。5分00秒後ぴったりに、到着したと声がかかるのだ。


「ああ、わかったよ。世話になったね。」

「とんでもございません。」


 レオンハルトの礼を、モーガンは最近はずっと別荘から馬を引いているというのに、疲れを感じさせない表情で爽やかに返した。

 他の者に頼むと言っても断固拒否されるのだから、これはこれで困ったものだな。全てが解決したらモーガンには休暇をやらねば。ああ、休暇もいらないと言われていんだっけ………

 苦笑しているうちに教会に着いた。馬車から降りるなり、門番が教会の門を開く。この門番達ももう馴染みの顔だ。

 レオンハルトが教会に通う理由は、ユリウスの勧誘は勿論、教会(主に神官長)の調査の為でもある。しかしどちらの目的も、ユリウスに会えない限りは達成し得ない。ユリウスとレオンハルトの次なる目標は、自然と同じところに向かっていた。


 ーまずは、ユリウスレオンハルトに会いたい!


 足音が、少しずつ、少しずつ近づいていく。会いたい人の方向へ。

 今日は、なんだかユリウスに会えそうな気がする。そんな気がしてならないのだ。ユリウスの居場所はわからない。でも、会える気がする。

 ーふふ、今日は気分がいいからかな。

 この一か月間、ユリウスの居場所を近くの神官に聞いてもはぐらかされて終わるだけだった。声をかけずとも何かしらの邪魔も入る。明らかに教会が自分からユリウスを遠ざけている。

 ー負けるものか

 公爵の権限でずかずかと廊下の奥へ奥へと入っていく。ものすごく早足で。でも走らずに。レオンハルトは、紳士の振る舞いとして許されるギリギリのスピードで廊下を散策していた。そして、ふと廊下の奥から急いで走ってくる足音が聞こえたかと思うと、若い女の神官が現れ、あろうことかレオンハルトに駆け寄ってきた。


「まあ公爵様!今日もいらして下さったのですね!なんて嬉しい…お会いしとうございましたわ!」

「おや、私も貴方に出会うことができて幸福にございますよ、ご令嬢。良い一日を。」


 早速お出ましか。と思いながらレオンハルトは女の神官を軽く流した。しかし、女はそれが屁でもない様な顔をして再びレオンハルトに擦り寄ってくる。


「やだ、公爵様ったら冷たいですわ。わたくし、ずっと貴方を待っておりましたのよ。ここしばらくは毎日教会に足を運んでおいででしょう?私、公爵様の為にアフタヌーンティーを用意しましたの。ですから…」

「申し訳ない、ご令嬢。私にも緊急の用事があるのだ。残念だが、アフタヌーンティーの誘いはお受け出来かねる。それでは、私はこれで。」

「あ、ちょっと…レオンハルト様!!」


 時間稼ぎのための口実とは言え、事前に誘いの手紙もないアフタヌーンティーに留まらず、こちらから名乗ってないのに私の名前を口にするとは…この教会の貴族に対するマナー講座はどうなっているんだ。…いや、そもそもそんな講座など受けていないのかもしれない。神官には必要がないからだ。だとすれば、社交マナーは13歳の知識で止まってしまっている事になる。

 そう、ここにあるのは秩序だけ。レオンハルトは、その事実を身をもって痛感していた。

 ここでは、王都の常識は通用しない。常に身構えて行動しなければ。貴族の基本だ。


 タッタッタッタ…


 また、足音が聞こえた。今度の足音はとても軽い。曲がり角の奥から聞こえているようだ。廊下を走るのは教会ここではタブーだと認識していたが、この足音は…子供?洗礼を受けて教会に入ってきたばかりなのかもしれないな。迷子か?それとも…また足止めだろうか。

 レオンハルトは、なるべく顔を合わせない様にまっすぐ前を見て歩いた。しかし、腕を掴まれてしまう。

 しつこい!!

 腕を振り払おうと振り向いた拍子に、その者と目が合った。刹那、胸が高鳴り、振り払おうとした腕の力が抜けていく。


「君は…」


 見間違える筈がない。透き通るように白い白髪も、ルビーのように美しいその瞳も、憂いを帯びた表情の儚さも…

 気づけばレオンハルトの口は弧を描き、目は細められていた。頬が紅潮したそのなんとも扇情的な表情は、社交会では誰も見たことがないほどの、最上級の微笑みだった。

 ああ、やっと会えた…!!


「ユリウス…!!」


 レオンハルトの微笑みに、ユリウスも微笑みを返した。その光景たるや、追いかけてきた女神官が鼻血を出して音も無く倒れるほどの美しさであった。


「会えて本当に嬉しいよ。」


 ーそう言って、レオンハルトは自身の喜びに身を任せ、気づけばユリウスを抱きしめていた。
 











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