ミックスド★バス~注文の多いラブホテル~

taki

文字の大きさ
2 / 31
月曜 治癒してください

ホテル・ホットスプリング

しおりを挟む
水川と行くことになったラブホ「ホテル・ホットスプリング」


いかにも昔風のホームページで料金やシステムを確認すると、「ご新規様は月曜のみ受付可能」とある。変なシステムだ。けれど従うしかない。

温泉ライターさんの記事でも「注文の多いホテル」と感想があったがこういう細かいルールがあるということか。


「いつの月曜に行きますか?僕は泊まりの出張も近々無いからいつでも」

私としては思い立ったらできるだけ早く温泉に入りたいから、一番近い日の月曜に行くことにした。




◆◆◆◆



当日。ラブホの最寄駅で待ち合わせした。水川が1日中外回りで少し時間が読めないということもあって夕食は各々が済ませてくることにした。仕事帰りに、それも月曜からラブホに行くなんて私も成長したものだと苦笑する。



「お待たせしました」


普段よりオフィシャルな雰囲気のスーツ姿の水川が待ち合わせの改札に来た。1日外を回ってさぞ疲れているだろうにこんなことに付き合わせて申し訳なくなってきた。


「ごめんね、疲れてるとこ」

「いえ?むしろ頑張れましたよ。夜の予定が楽しみで」


夜、というところが強調されて私たちが今から行くところを意識させられる。

「じゃあ行こっか」

「はい」







駅から居酒屋が立ち並ぶ区画を通り越すと、ネオンが眩しい派手な建物が並ぶ地区がある。私個人はここに用事は無いが、検索しているとラブホ街として有名なようだ。

もしかして水川はこのあたりに来たことがあるかもしれない。私と付き合う前のことは詳しく聞いていないが、この男のことだ、さぞ何人もの女の人と付き合ってきただろう。ラブホのお世話にだって幾度もなったであろう。

そう思い始めると、足取り軽くラブホ街を進んでいく水川が慣れてるように感じてしまう。ちょっと気に食わない。



そんなことに考えを巡らせながら地図アプリの示す方に歩くと、奥まった場所にお目当ての看板が見える。かなり小さな看板で、見落としてしまいそうだ。


「ここだね」

「はい。入口は……あそこですね。行きましょうか?」


手を差し伸べられ、軽く添える。私より体温の高く大きな手。






中に入ると、こじんまりとした薄暗い部屋に着く。薄暗い部屋の中に一際明るい光を放つタッチパネルがぽつんとある。

「空いてる部屋は…一室だけですね」

「そうなんだ」
私にはよく仕組みが分かっていないが、どうやら空いている部屋だけが光っているみたいだ。

「じゃあこの部屋にしますね」

「うん」



水川が淡々とタッチパネルの前に行き操作をする。慣れてるな、こやつ。

タッチパネルの操作をすると「しばらくお待ち下さい」の表示が出てそのとおりにする。

ガコンっ!

待っていると急に物音がして驚く。タッチパネルの下はどうやら鍵の受取口だったようで鍵が出てきたみたいだ。かがんで鍵を手に取る。

カードキーではなく、昔ながらの旅館の鍵のようだ。ホテルというより温泉旅館という感じでいい。

2人で鍵に書かれた部屋番号を目指す。




◆◆◆◆




鍵を差し入れ回すとカチャと控えめな音がして鍵が開く。



水川がドアを開けるとそこは……



「……病院??」



診察室のような清潔な白さの壁と、大きな机に椅子が2つ。机の正面の壁にはレントゲン写真のようなものが貼り付けられ眩しい光を放つ。

部屋の中に進んでいくと診察室によくある白い固そうなベッド。睡眠のためではなくあくまで診察のためのベッドだ。けれど幅の広い2人でも寝ころべそうなベッド。


「あーー、何というか、コンセプトルームというやつですね」

「コンセプトルーム?」

「テーマがある部屋のことですよ」

「じゃあここは病院がテーマってことかぁ」
ラブホテルで病院というのは、お医者さんごっこでもする人向けかな。……ほんのちょっと興味あるかも。



そして部屋の中で一際存在感のある……

「これが温泉??」

ベッドの横にあるドン!と存在する風呂。



床や壁に固定はされていなく、脚付のバスタブだ。大人二人でもゆったり入れそう。バスタブの8分目までにお湯が張られている、けれど違和感があるのは色は無色透明で温泉特有の匂いが何もない。

しかも湯気もない。もしかしてと思い手を入れてみる。


「っ!冷た!」

「え、水ですか?」

水川も手を入れて、同じ反応をする。


「なんかただの水道水みたいじゃない?」

「そんなわけ、でも確かに…」

辺りを見渡してもお湯が出てきそうな蛇口がない。そもそもこの水はどうやって張られたのか。

「温泉は?温泉はどこなのよぉ。せっかく勇気だして来たのに。もしかして違う部屋なのかな。でも記事には部屋の指定なんて無かったのに」

「うーーん、記事がデマだったんですかね」

「そんなぁ~」


私だけなら無駄足だったで笑い飛ばすこともできるけど、水川にまで付き合ってもらっているのだからすぐには引き下がれない。

ホテルのスタッフさんに聞いてみよう。都市伝説どうこうは聞けないが、そもそもお湯が出ないというのはダメだろう。内線電話でフロントに掛けてみる。


トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル………。


コールが続くだけでいっこうに受話器が取られない。何度も掛けなおしても同様。

直接フロントにも行こうとするが、このホテルは部屋を出るときに料金を支払うとドアが開くというシステム。だいたい無人フロントだったではないか。


もう~~~~!!!!


「うううう、ごめんね。付き合ってもらったのに」

「それは別にいいですよ、気にしないで下さい」

「もう今日は帰ろっか」

「………温子さん。せっかく来たんだからちょっと楽しんでから帰りましょう」

「え?」


水川の手にはどこから出して来たのか白い衣装のようなものがある。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...