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八、最高の刀
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国人は、今度は魂美をじろじろと眺め始めました。魂美は表情を歪めると、白鬼の背中を軸に、国人の反対方向へと逃げました。
すると国人は納得したように手を打ち、それから白鬼を見てニヤニヤとした笑みを浮かべます。
「ははーん、分かったぞ息子。こいつはあの女鬼の……」
「国人、お前の望み通り、俺はお前の打った刀だけを使う。菊一文字は魂美にやる。だからそれ以上喋るな」
白鬼の表情は冷めたものでしたが、その目は怒りで煮えたぎっているようでした。
それに気が付いた国人は、肩を竦めて「はいはいよっと」と答えました。魂美はふたりを見比べて、難しそうな顔を浮かべます。
「何の話?」
「何でもない。その刀、お前が持っててくれ」
「どうして? これ、どうせ父上があなたにって渡したんでしょ? 次の戦で使うやつじゃないの?」
「お前、戦があること知ってるのか?」
「兄上が言っていたもの。『また連れて行ってもらえない、父上は真人ばかり連れて行く』って、拗ねていたわ。そんなことより、せっかくの機会よ。人を殺せば、魂はすぐにでも黒くなる。戦は人を殺す大義名分を得るのにおあつらえ向き。ちょうどいいじゃない!」
白鬼は固く口を閉ざしました。魂美は眉をしかめました。
「何? あなたもしかして、出たくないの? 戦に?」
「俺が影武者になることを承諾したのは、戦のない世界を作るためだ。なのに出陣するなんて、本末転倒だろ」
白鬼の言葉に、魂美が口を開きかけた瞬間でした。国人が白鬼の襟首を掴み、自分の方に引き寄せます。
「戦に出たくないだと!? 何を馬鹿なことを。いいか? お前には使命がある。それは俺の作った最も美しく、最も強いその最高の刀がここに在ることを、この世に知らしめることだ!」
国人は白鬼がずっと携えている刀を指さしました。そして言葉を続けます。
「その刀が美しく強いことを示すには、どうすればいいか? 答えは明白。その刀で、人をたくさん殺すんだ。そうすれば、自ずとこの刀のことが人々の口の端に上る。俺の作った刀がいちばんだと皆が褒めそやし、恐れを抱くようになるだろう! そうするためにお前を白鬼にしたんだ。白鬼になればそう簡単には死なない。戦では生き残った者の勝ちだ。つまり死なないお前は最強で、そんなお前が使えばこそ、私の刀の価値も上がるというものだ! お前はそう、俺の刀の引き立て役なのだ! なのにそんなお前が、主役である刀を使わないでどうする!?」
国人の怒鳴り声が止むと、辺りは水を打ったように静かになりました。国人の剣幕に気圧されたのか、魂美は白鬼の羽織を、しがみつくように握りしめています。
白鬼の顔からは、何の感情も読み取れませんでした。先ほどまで国人に向けていた怒りは鳴りを潜め、その目は凪いだものに変わっています。
「国人、確かに俺は、お前がそう願っていることを理解している。だけど、それを叶えてやろうとは思えない。俺の願いとお前の願いは、相反しているものだから」
国人が強く歯を食いしばりました。が、その怒りの表情は、やがて白鬼を嘲笑うものへと変化しました。
「だが我が息子よ、今のお前は『晴山真人』だ。お前が『晴山真人』として戦に出なければならないことは決まり切っている。そして襲い来る敵を殺さねば、『晴山真人』は生き残れないことも。だから結局、お前はその刀で人を殺さなくちゃならないんだよ。望まざるにも関わらずな」
そう言うと、国人は笑い声を上げながらその場を去りました。白鬼は、腰の刀を強く握りしめました。
小さく深呼吸をして落ち着いた白鬼は、背後で自分の羽織を握りしめている魂美の手をそっとほどきました。魂美は国人の様子に呆気に取られていたようで、すんなりと手を離しました。
「そういうわけだ。俺は『晴山真人』として戦には出る。だが、誰も殺したくない。誰も命を落とさないように立ち回る」
そう言った白鬼は魂美に背を向け、自室へ戻りました。後ろの魂美が、泣きそうな顔で白鬼の背中を見つめていることには、気が付きませんでした。
▽
出陣の日がやってきました。空は雲ひとつない晴天です。
真人が使っていたという鎧に身を固めた白鬼は、腰にいつもの自分の刀を差します。
「ご武運を」
そう言って、吹雪が火打石を打ち鳴らしました。その音を背に、白鬼は真朗と共に出陣しました。
しばらく馬を走らせたところにある小高い山の上に、真朗は陣を敷きました。そこに旗印を立てます。旗には晴山家の家紋である六つ日足が描かれています。
「真人、お前は一部隊を率いて、東側から鬢櫛の陣を狙え」
「はい、父上」
そう返事をしながら、白鬼には真朗の言うことを聞く気はありませんでした。彼の頭は、この戦を早々に終わらせる作戦でいっぱいになっていました。
戦場に、法螺貝が鳴り響きました。戦の始まる合図です。
白鬼は馬に蹴りを入れました。馬は猛スピードで敵陣へと突っ込んで行きました。周囲にいた家来たちが、ぎょっとして白鬼を止めようとしましたが、時すでに遅し。
向かってくる敵を馬で蹴散らし、飛んでくる矢を刀で打ち払いながら、白鬼はまっすぐに本陣へと突き進みます。途中でかすり傷をいくつか作りますが、それはすぐに消えてしまいます。
そしてついに、白鬼は鬢櫛の本陣へと単身たどり着きました。鬢櫛を守る兵たちが刀を抜いて襲い掛かってきますが、白鬼は難なく彼らをいなし、峰で気絶させます。
すると国人は納得したように手を打ち、それから白鬼を見てニヤニヤとした笑みを浮かべます。
「ははーん、分かったぞ息子。こいつはあの女鬼の……」
「国人、お前の望み通り、俺はお前の打った刀だけを使う。菊一文字は魂美にやる。だからそれ以上喋るな」
白鬼の表情は冷めたものでしたが、その目は怒りで煮えたぎっているようでした。
それに気が付いた国人は、肩を竦めて「はいはいよっと」と答えました。魂美はふたりを見比べて、難しそうな顔を浮かべます。
「何の話?」
「何でもない。その刀、お前が持っててくれ」
「どうして? これ、どうせ父上があなたにって渡したんでしょ? 次の戦で使うやつじゃないの?」
「お前、戦があること知ってるのか?」
「兄上が言っていたもの。『また連れて行ってもらえない、父上は真人ばかり連れて行く』って、拗ねていたわ。そんなことより、せっかくの機会よ。人を殺せば、魂はすぐにでも黒くなる。戦は人を殺す大義名分を得るのにおあつらえ向き。ちょうどいいじゃない!」
白鬼は固く口を閉ざしました。魂美は眉をしかめました。
「何? あなたもしかして、出たくないの? 戦に?」
「俺が影武者になることを承諾したのは、戦のない世界を作るためだ。なのに出陣するなんて、本末転倒だろ」
白鬼の言葉に、魂美が口を開きかけた瞬間でした。国人が白鬼の襟首を掴み、自分の方に引き寄せます。
「戦に出たくないだと!? 何を馬鹿なことを。いいか? お前には使命がある。それは俺の作った最も美しく、最も強いその最高の刀がここに在ることを、この世に知らしめることだ!」
国人は白鬼がずっと携えている刀を指さしました。そして言葉を続けます。
「その刀が美しく強いことを示すには、どうすればいいか? 答えは明白。その刀で、人をたくさん殺すんだ。そうすれば、自ずとこの刀のことが人々の口の端に上る。俺の作った刀がいちばんだと皆が褒めそやし、恐れを抱くようになるだろう! そうするためにお前を白鬼にしたんだ。白鬼になればそう簡単には死なない。戦では生き残った者の勝ちだ。つまり死なないお前は最強で、そんなお前が使えばこそ、私の刀の価値も上がるというものだ! お前はそう、俺の刀の引き立て役なのだ! なのにそんなお前が、主役である刀を使わないでどうする!?」
国人の怒鳴り声が止むと、辺りは水を打ったように静かになりました。国人の剣幕に気圧されたのか、魂美は白鬼の羽織を、しがみつくように握りしめています。
白鬼の顔からは、何の感情も読み取れませんでした。先ほどまで国人に向けていた怒りは鳴りを潜め、その目は凪いだものに変わっています。
「国人、確かに俺は、お前がそう願っていることを理解している。だけど、それを叶えてやろうとは思えない。俺の願いとお前の願いは、相反しているものだから」
国人が強く歯を食いしばりました。が、その怒りの表情は、やがて白鬼を嘲笑うものへと変化しました。
「だが我が息子よ、今のお前は『晴山真人』だ。お前が『晴山真人』として戦に出なければならないことは決まり切っている。そして襲い来る敵を殺さねば、『晴山真人』は生き残れないことも。だから結局、お前はその刀で人を殺さなくちゃならないんだよ。望まざるにも関わらずな」
そう言うと、国人は笑い声を上げながらその場を去りました。白鬼は、腰の刀を強く握りしめました。
小さく深呼吸をして落ち着いた白鬼は、背後で自分の羽織を握りしめている魂美の手をそっとほどきました。魂美は国人の様子に呆気に取られていたようで、すんなりと手を離しました。
「そういうわけだ。俺は『晴山真人』として戦には出る。だが、誰も殺したくない。誰も命を落とさないように立ち回る」
そう言った白鬼は魂美に背を向け、自室へ戻りました。後ろの魂美が、泣きそうな顔で白鬼の背中を見つめていることには、気が付きませんでした。
▽
出陣の日がやってきました。空は雲ひとつない晴天です。
真人が使っていたという鎧に身を固めた白鬼は、腰にいつもの自分の刀を差します。
「ご武運を」
そう言って、吹雪が火打石を打ち鳴らしました。その音を背に、白鬼は真朗と共に出陣しました。
しばらく馬を走らせたところにある小高い山の上に、真朗は陣を敷きました。そこに旗印を立てます。旗には晴山家の家紋である六つ日足が描かれています。
「真人、お前は一部隊を率いて、東側から鬢櫛の陣を狙え」
「はい、父上」
そう返事をしながら、白鬼には真朗の言うことを聞く気はありませんでした。彼の頭は、この戦を早々に終わらせる作戦でいっぱいになっていました。
戦場に、法螺貝が鳴り響きました。戦の始まる合図です。
白鬼は馬に蹴りを入れました。馬は猛スピードで敵陣へと突っ込んで行きました。周囲にいた家来たちが、ぎょっとして白鬼を止めようとしましたが、時すでに遅し。
向かってくる敵を馬で蹴散らし、飛んでくる矢を刀で打ち払いながら、白鬼はまっすぐに本陣へと突き進みます。途中でかすり傷をいくつか作りますが、それはすぐに消えてしまいます。
そしてついに、白鬼は鬢櫛の本陣へと単身たどり着きました。鬢櫛を守る兵たちが刀を抜いて襲い掛かってきますが、白鬼は難なく彼らをいなし、峰で気絶させます。
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