そしてふたりは深海で

月並

文字の大きさ
1 / 15

プロローグ

しおりを挟む
「庭師ミタマ、お前を処分する」

 そう言われた白鬼しろおには呆気に取られて、目の前の第一皇子、フォスキーアを見上げました。

「話をしていただけで、ですか? それだけで、ファイルヒェン様の威光がかすむことはないはずです」
「平民の君には分からないんだ、王族に生まれた者の使命が。私たちは国民の憧れであり続けなければならない。そこに少しの汚点もあってはいけないんだ」
「そんなの、そのために自分の好きなものですら口に出せないなんて、おかしいです」
「だったら、君が彼女を自由にするか? だがそれで彼女は幸せになれるか? 王女として蝶よ花よと愛でられ、大切にされてきた彼女が、君と同じ生活水準にまで下がって幸せになれると?」

 強く唇を噛んだ白鬼は、フォスキーアが連れてきた兵士たちに捕縛されたまま、アナスン王国の西南端にある崖に連れてこられました。
 崖の先端に、白鬼は立たされました。左足に重りのついた足枷がはめられた白鬼は、穏やかに波打つ海面を見下ろします。

「これもファイルヒェンのためだ。彼女には、君は突然失踪したと言っておく。君がいなくなれば、彼女は幸せになれるんだ」
「……そうかも知れねェな」

 フォスキーアは片手を上げました。それを合図に、兵士たちが白鬼に近づきます。
 白鬼は彼らを睨んでけん制しました。その眼光に、兵士たちは思わず足を竦ませました。その隙に、白鬼は自ら崖から飛び降りました。その顔には、笑みが浮かんでいました。彼の脳裏に浮かんでいるのは、第一皇子の婚約者になったファイルヒェンの笑顔と、「ミタマ」と呼ぶ美しい声でした。

「幸せになれよ、ファイルヒェン」

 白鬼の呟きは、彼の体と共に海に飲み込まれました。
 こうして彼は、深い深い海の底で暮らすことになったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

処理中です...