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そして白鬼は深海へ
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お城に戻った白鬼は、先輩のところに行き、スミレを渡しました。
「これを、ファイルヒェン様の席に飾りたいんです」
「えっ、スミレ!? 今は夏なのに、一体どこに……ってミタマ君、きみ、目の色が変わっていないか?」
先輩がびっくりしたように、白鬼の目を覗き込みます。彼の言う通り、白鬼の目は深い紫色から蜂蜜のような黄色に変わっていました。これは、白鬼が刀を手放して『鬼』でなくなったことの証明でした。
「まさか、森の魔女のところに……?」
その問いに白鬼が頷こうとしたところで、荒々しい足音と共に兵士が数人やってきました。そして、白鬼を拘束します。
「えっ、何、何ですか!?」
先輩が突然のことに慌てていると、フォスキーアが現れました。
「庭師ミタマ、お前を処分する」
フォスキーアは捕らえられた白鬼を冷たい目で見下ろし、そう言いました。先輩の顔が真っ青になります。
「そ、そんな、ミタマが何かしたのですか!?」
「彼は身分が低いにもかかわらず、私の婚約者でヤオビ王国の王女であるファイルヒェンと親しくしている。その噂が城の外に出てみろ。彼女の威厳に傷がつく」
白鬼は呆気に取られてフォスキーアを見上げました。
「話をしていただけで、ですか? それだけで、ファイルヒェン様の威光がかすむことはないはずです」
「平民の君には分からないんだ、王族に生まれた者の使命が。私たちは国民の憧れであり続けなければならない。そこに少しの汚点もあってはいけないんだ」
「そんなの、そのために自分の好きなものですら口に出せないなんて、おかしいです」
「だったら、君が彼女を自由にするか? だがそれで彼女は幸せになれるか? 王女として蝶よ花よと愛でられ、大切にされてきた彼女が、君と同じ生活水準にまで下がって幸せになれると?」
白鬼は強く唇を噛みました。そして、フォスキーアを強く睨みます。
「んなことてめェに言われなくても、誰に言われなくても俺がいちばんよく分かってんだよ!」
「貴様! フォスキーア様になんて無礼な!」
白鬼は兵士のひとりに殴られました。フォスキーアはその様子を見て、ひとつため息を落としました。
「新しい庭師はまたこちらで手配する」
その場に平伏するしかなくなっていた白鬼の先輩にそう告げると、フォスキーアは兵士と白鬼を連れてその場を去りました。
白鬼はアナスン国の西南端にある崖に連れてこられました。その崖は、下に白鬼が暮らしている洞穴がある所です。
崖の先端に、白鬼は立たされました。左足に重りのついた足枷がはめられた白鬼は、穏やかに波打つ海面を見下ろします。
「処分ってそういうことね」
「これもファイルヒェンのためだ。彼女には、君は突然失踪したと言っておく。君がいなくなれば、彼女は幸せになれるんだ」
「……そうかも知れねェな」
フォスキーアは片手を上げました。それを合図に、兵士たちが白鬼に近づきます。
白鬼は彼らを睨んでけん制しました。その眼光に、兵士たちは思わず足を竦ませます。その隙に、白鬼は崖から飛び降りました。その顔には、笑みが浮かんでいました。
「幸せになれよ、ファイルヒェン」
白鬼の呟きは、彼の体と共に海に飲み込まれました。
「これを、ファイルヒェン様の席に飾りたいんです」
「えっ、スミレ!? 今は夏なのに、一体どこに……ってミタマ君、きみ、目の色が変わっていないか?」
先輩がびっくりしたように、白鬼の目を覗き込みます。彼の言う通り、白鬼の目は深い紫色から蜂蜜のような黄色に変わっていました。これは、白鬼が刀を手放して『鬼』でなくなったことの証明でした。
「まさか、森の魔女のところに……?」
その問いに白鬼が頷こうとしたところで、荒々しい足音と共に兵士が数人やってきました。そして、白鬼を拘束します。
「えっ、何、何ですか!?」
先輩が突然のことに慌てていると、フォスキーアが現れました。
「庭師ミタマ、お前を処分する」
フォスキーアは捕らえられた白鬼を冷たい目で見下ろし、そう言いました。先輩の顔が真っ青になります。
「そ、そんな、ミタマが何かしたのですか!?」
「彼は身分が低いにもかかわらず、私の婚約者でヤオビ王国の王女であるファイルヒェンと親しくしている。その噂が城の外に出てみろ。彼女の威厳に傷がつく」
白鬼は呆気に取られてフォスキーアを見上げました。
「話をしていただけで、ですか? それだけで、ファイルヒェン様の威光がかすむことはないはずです」
「平民の君には分からないんだ、王族に生まれた者の使命が。私たちは国民の憧れであり続けなければならない。そこに少しの汚点もあってはいけないんだ」
「そんなの、そのために自分の好きなものですら口に出せないなんて、おかしいです」
「だったら、君が彼女を自由にするか? だがそれで彼女は幸せになれるか? 王女として蝶よ花よと愛でられ、大切にされてきた彼女が、君と同じ生活水準にまで下がって幸せになれると?」
白鬼は強く唇を噛みました。そして、フォスキーアを強く睨みます。
「んなことてめェに言われなくても、誰に言われなくても俺がいちばんよく分かってんだよ!」
「貴様! フォスキーア様になんて無礼な!」
白鬼は兵士のひとりに殴られました。フォスキーアはその様子を見て、ひとつため息を落としました。
「新しい庭師はまたこちらで手配する」
その場に平伏するしかなくなっていた白鬼の先輩にそう告げると、フォスキーアは兵士と白鬼を連れてその場を去りました。
白鬼はアナスン国の西南端にある崖に連れてこられました。その崖は、下に白鬼が暮らしている洞穴がある所です。
崖の先端に、白鬼は立たされました。左足に重りのついた足枷がはめられた白鬼は、穏やかに波打つ海面を見下ろします。
「処分ってそういうことね」
「これもファイルヒェンのためだ。彼女には、君は突然失踪したと言っておく。君がいなくなれば、彼女は幸せになれるんだ」
「……そうかも知れねェな」
フォスキーアは片手を上げました。それを合図に、兵士たちが白鬼に近づきます。
白鬼は彼らを睨んでけん制しました。その眼光に、兵士たちは思わず足を竦ませます。その隙に、白鬼は崖から飛び降りました。その顔には、笑みが浮かんでいました。
「幸せになれよ、ファイルヒェン」
白鬼の呟きは、彼の体と共に海に飲み込まれました。
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