14 / 72
作戦会議
しおりを挟む
3月30日午前8時
俺は目を覚まして回りを見たが、五木は帰ってきていないようだ。パチンコを打つ気分ではないと感じ、ジムに行く準備をする。
9時50分
ジムでトレーニングをしていると五木から電話があった。俺は電話に出るなり直ぐに話す。
「やあ、九十九さんと上手くいったみたいだな」
「まあな、それより今日は、打たないのか? 今、並んでるんだけど……」
「ちょっと、今日はやめておくよ」
「了解。飯時に連絡する」
俺は川島からの窃盗依頼について、静かなところで考えようと図書館に行く事にした。五木のアパートから二キロ程度坂道を登ったところに大きめの図書館がある。建設されてまだ10年ぐらいの綺麗な図書館だ。ガラス張りでお洒落な見た目の為、利用者は多い。
図書館に着き、本も借りずに1人掛けの席に座ると、目を瞑って考える。
1つ目の問題点は犯行時間。夜9時ならまだ人目もある。最悪でも、ショーウインドウ前に人が居ない時でないとダメだ。まあ、後は俺の足で逃げ切れる。
2つ目の問題点は2,000万を貰った後どう逃げるか。難しい……。自転車がいるか?
3つ目、最大の問題点だが、五木に伝えるか否か。やはり、伝えずに去る事は難しいだろう。そもそも、2,000万円は五木への恩返しの為だ。俺は別に大金なんていらない。やっぱり、今晩伝えよう。川島には五木に言わないと言ったけど、五木にバレるのは仕方無いと言っていたし問題無いだろう。
夜9時を過ぎると五木から電話が掛かってきた。
「いや~、大勝大勝。俺の奢りでどっか行こうぜ」
「そうだな、個室があるところがいいな」
「じゃあ、『北極星』にするか、サイコロステーキ奢ってやるよ!」
「分かった、向かうよ」
こないだ食べたばっかりだけど、と鼻でため息をついた。まあ、あれは毎日でも食べられる。
『北極星』に着くと、五木は既に待っていた。店内に入り、店員に席へ案内されると、五木は即注文した。
「サイコロステーキセット2つ、焼鳥セット1つ、それから……」
店員がその場を去ると、五木が意を決した様子で話し出した。
「どうしたんだ? 最近おかしいぞ。三橋さんと九十九さんに会う前に何かあったのか?」
「……さすがだな。やっぱり分かるか」
「一緒に暮らしてるんだ、さすがに気付くさ」
俺は川島との出会いを五木に話した。話の途中で店員が来て料理を置いていく。
「まあ、折角高い肉頼んでるんだ。温かい内に食べよう」
無言のまま食事をする。まだ、少しサイコロステーキが残っているが、俺は話し出した。
「……川島の依頼は……宝石窃盗だったんだ」
「……なるほど、それであの時、ジュエリー西川の話に乗ってきたんだな」
「そういう事」
「それで……犯行予定も聞いて良いのか?」
「そうだな。本当は俺1人で逃げるつもりだったんだけど、五木に何も言わず出ていくのは違うと思ったんだ」
「そうか……」
俺は五木に当日の動きを話した。
「9時か、ちょっときついな。あと、偽札確認のタイムロスもきつい」
「俺もそれは思ったがどうしようもない。川島がそこで偽札を用意するとは思えないが、信用はできない」
「そうだな、それで……2つ提案がある」
「2つ?」
五木が真剣な顔になった。俺は重要な提案だと理解した。
「1つ目は……その窃盗の役目、俺に代わってくれ」
想定通り、重要な提案ではあったが、想定外の内容に俺は衝撃を受けた。
「何を言ってる?!」
「そもそも、お前に窃盗をするメリットがない。2,000万円は自分の為じゃなく、多分俺の為だろう? お前は大金を欲しがったりしない。じゃあ、俺がリスクを負わないとおかしい」
「気持ちは分かるが駄目だな。俺が引き受けた依頼だ」
五木は少し考えて話す。
「じゃあ、せめて共犯にしないか? 俺がノーリスクなのは納得いかない」
「共犯?」
「今回の計画の問題点は午後9時という、まだ人目がある時間帯だという事。だから、お前が盗んだ後、細い路地には入らず、その細い路地に俺が待っておくから俺に渡してくれ。そして、お前は当分真っ直ぐ逃げる。少し人目につく方がいい。そうなれば俺はノーマークだ」
「なるほど……。それより、五木ってそんなに賢かったか? そんなに考えられるタイプだとは思っていなかったよ」
「俺は大金を得る犯罪を常に計画している。パチンコを打っている時なんかはずっとだ。毎日10時間も考えられるんだぞ? 当然『炎のティアラ』を盗む方法も考えていた、何10時間も」
「そうか、俺みたいな、にわか野郎に負けるはずがないな」
「もちろん」
「大金を手にいれて、何かしたい事があるのか?」
「まあな、大金があれば大抵の事は解決する」
「そうだな。で、もう1つの提案は?」
「2つ目の提案は……『炎のティアラ』は、そいつには渡さない」
俺は目を覚まして回りを見たが、五木は帰ってきていないようだ。パチンコを打つ気分ではないと感じ、ジムに行く準備をする。
9時50分
ジムでトレーニングをしていると五木から電話があった。俺は電話に出るなり直ぐに話す。
「やあ、九十九さんと上手くいったみたいだな」
「まあな、それより今日は、打たないのか? 今、並んでるんだけど……」
「ちょっと、今日はやめておくよ」
「了解。飯時に連絡する」
俺は川島からの窃盗依頼について、静かなところで考えようと図書館に行く事にした。五木のアパートから二キロ程度坂道を登ったところに大きめの図書館がある。建設されてまだ10年ぐらいの綺麗な図書館だ。ガラス張りでお洒落な見た目の為、利用者は多い。
図書館に着き、本も借りずに1人掛けの席に座ると、目を瞑って考える。
1つ目の問題点は犯行時間。夜9時ならまだ人目もある。最悪でも、ショーウインドウ前に人が居ない時でないとダメだ。まあ、後は俺の足で逃げ切れる。
2つ目の問題点は2,000万を貰った後どう逃げるか。難しい……。自転車がいるか?
3つ目、最大の問題点だが、五木に伝えるか否か。やはり、伝えずに去る事は難しいだろう。そもそも、2,000万円は五木への恩返しの為だ。俺は別に大金なんていらない。やっぱり、今晩伝えよう。川島には五木に言わないと言ったけど、五木にバレるのは仕方無いと言っていたし問題無いだろう。
夜9時を過ぎると五木から電話が掛かってきた。
「いや~、大勝大勝。俺の奢りでどっか行こうぜ」
「そうだな、個室があるところがいいな」
「じゃあ、『北極星』にするか、サイコロステーキ奢ってやるよ!」
「分かった、向かうよ」
こないだ食べたばっかりだけど、と鼻でため息をついた。まあ、あれは毎日でも食べられる。
『北極星』に着くと、五木は既に待っていた。店内に入り、店員に席へ案内されると、五木は即注文した。
「サイコロステーキセット2つ、焼鳥セット1つ、それから……」
店員がその場を去ると、五木が意を決した様子で話し出した。
「どうしたんだ? 最近おかしいぞ。三橋さんと九十九さんに会う前に何かあったのか?」
「……さすがだな。やっぱり分かるか」
「一緒に暮らしてるんだ、さすがに気付くさ」
俺は川島との出会いを五木に話した。話の途中で店員が来て料理を置いていく。
「まあ、折角高い肉頼んでるんだ。温かい内に食べよう」
無言のまま食事をする。まだ、少しサイコロステーキが残っているが、俺は話し出した。
「……川島の依頼は……宝石窃盗だったんだ」
「……なるほど、それであの時、ジュエリー西川の話に乗ってきたんだな」
「そういう事」
「それで……犯行予定も聞いて良いのか?」
「そうだな。本当は俺1人で逃げるつもりだったんだけど、五木に何も言わず出ていくのは違うと思ったんだ」
「そうか……」
俺は五木に当日の動きを話した。
「9時か、ちょっときついな。あと、偽札確認のタイムロスもきつい」
「俺もそれは思ったがどうしようもない。川島がそこで偽札を用意するとは思えないが、信用はできない」
「そうだな、それで……2つ提案がある」
「2つ?」
五木が真剣な顔になった。俺は重要な提案だと理解した。
「1つ目は……その窃盗の役目、俺に代わってくれ」
想定通り、重要な提案ではあったが、想定外の内容に俺は衝撃を受けた。
「何を言ってる?!」
「そもそも、お前に窃盗をするメリットがない。2,000万円は自分の為じゃなく、多分俺の為だろう? お前は大金を欲しがったりしない。じゃあ、俺がリスクを負わないとおかしい」
「気持ちは分かるが駄目だな。俺が引き受けた依頼だ」
五木は少し考えて話す。
「じゃあ、せめて共犯にしないか? 俺がノーリスクなのは納得いかない」
「共犯?」
「今回の計画の問題点は午後9時という、まだ人目がある時間帯だという事。だから、お前が盗んだ後、細い路地には入らず、その細い路地に俺が待っておくから俺に渡してくれ。そして、お前は当分真っ直ぐ逃げる。少し人目につく方がいい。そうなれば俺はノーマークだ」
「なるほど……。それより、五木ってそんなに賢かったか? そんなに考えられるタイプだとは思っていなかったよ」
「俺は大金を得る犯罪を常に計画している。パチンコを打っている時なんかはずっとだ。毎日10時間も考えられるんだぞ? 当然『炎のティアラ』を盗む方法も考えていた、何10時間も」
「そうか、俺みたいな、にわか野郎に負けるはずがないな」
「もちろん」
「大金を手にいれて、何かしたい事があるのか?」
「まあな、大金があれば大抵の事は解決する」
「そうだな。で、もう1つの提案は?」
「2つ目の提案は……『炎のティアラ』は、そいつには渡さない」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる