10番目の同級生

ジャメヴ

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逃走準備

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3月31日午後1時
  遅めの朝食なのか、早めの昼食なのか、ブランチを喫茶店で食べた後、俺達は隣町にある大きめのサイクルショップに来ている。ガラス張りで外からでも中の自転車がよく見える。子供用からロードバイクまで種類は様々だ。店内に入ると、店長風の男性がニコニコしながら近付いてきた。
「いらっしゃいませ」
「予算10万円で長距離走りたいんですが、店員さんのオススメはありますか?」
「そうですね……」
五木が質問した後、愛想の良い店員の説明が色々あったが、よく分からない。ただ、向こうはプロだ。任せておいて問題無いだろう。
「夜も走れるようにチューニングしてくれますか?」
「分かりました」
五木の交渉の早さに驚きながら、俺は完全にお任せにしていた。
「これで、税込で10万に切り捨てます。どうでしょう?」
店員は定価と消費税、登録代を打った後に電卓を俺達に見せてから端数を切り捨て、また見せた。
「ありがとう。じゃあ、こいつに全く同じものをもう1台頼む」
「かしこまりました」
五木の交渉の早さに再び驚かされる。
「2台で19万円にさせていただきます」
「ありがとう」
俺も決断力があるタイプだけど、五木には負けたと、ため息とともに笑みがこぼれた。
  ちょうど空いていたのか、作業はすぐ終わった。会計を済まし、自転車を押しながら店を出た時、俺のスマホが鳴った。ディスプレイには川島と表示されている。
「もしもし、一ノ瀬です」
「川島です。どうですか?  決心はつきましたか?」
「はい、予定通り夜9時に実行します」
「分かりました。成功を祈っています」
川島は、そう言い残して電話を切った。
「川島って人からか?」
五木は俺に尋ねた。
「ああ、最終確認だった」
「そうか……。よし、自転車の設置場所を決めよう」
俺達は自転車に乗り、『オリオン』へ向かった。さすがに高級な自転車は乗り心地がよい。とにかく速い。俺達は道中、子供のように競争をしながら、あっという間に『オリオン』の駐車場に着いた。五木は周りを見渡し話す。
「ここにする。自転車が盗まれる可能性を考えて8時半に置こう」
『オリオン』の出入り口から離れてはいるが、駐輪場からも遠く、人目につきにくい良い位置だと俺は思った。その後、俺達はジュエリー西川の裏手へ回る。
「真っ直ぐ100メートル進んだらこの辺だな。この辺りに……おっ、公園があるな。一ノ瀬、ここはどうだ?」
「いや、もう少し先だが、無料の駐輪場があるな、そこの方が目立たない」
「そうだな、そこにしよう」
俺の自転車を置く場所もあっさり決定し、俺は話す。
「じゃあ、家に戻って夜逃げの準備だな。そう言えば、アパートの契約はどうする?」
「どうせ、夜逃げするんだ。そのままで良いだろう。そうだ、金は?  おろしているか?  当分おろせないぞ」
「昨日おろした。貰った金も併せて200万円ぐらいある」
「金持ちだな。それどうする?」
「鞄に入れて自転車に縛っておくよ。盗まれる可能性があるけど、9時10分前に設置する。そのまま歩いて即犯行に移る」
「分かった」

  俺達は与えられた仕事を失敗なくこなそうとしている会社員のように見えたが、それは仕事ではなく、れっきとした犯罪だった……。
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