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偽犯人
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4月1日午後1時半
俺は五木の実家に着き、インターホンを押すと初老の男性が出迎えてくれた。
「あの……浩二さんの友人の一ノ瀬と言います……」
「どうぞ、上がってください」
何となく五木に似ている。父親なんだろう。家に上がると九十九さんが泣き崩れているのが見えた。美人が台無しだ。三橋さんは泣いた後の様だが、そこまででは無い。何というか上品に泣いている。少し違和感があったが、今はどうでもいい。すると、三橋さんが声を掛けてきた。
「一ノ瀬君……」
俺は三橋さんをチラ見した後、五木に近づき、顔を見た。眠ってるように綺麗な顔だ。これで死んでいるとは思えない。実際に死んでいる五木を見ても実感が湧かなかった。
「外傷は後頭部と胸から下全てです。顔だけ綺麗なんです」
父親らしき人が答えた。
「一体どうして?」
「車に轢かれて……」
「車に?」
話に割り込んで三橋さんが話し出す。
「昨日、盗難があったでしょ? その犯人が五木君を轢いたのよ」
「え? どういう事だ?」
俺は話についていけない。五木が死んだ事で混乱しているのに、さらに訳が分からない。
「ニュース見てないの? 昨日、ジュエリー西川の『炎のティアラ』が盗まれたのよ。その犯人が逃げるときに五木君を轢いたの」
「は?」
窃盗の犯人は俺だぞ?
俺はスマホでネットニュースを調べる。トップニュースは……コスモグループ CEO 六角信忠氏自殺か? コスモグループって『オリオン』の? これって六角の父親だよな? 六角は俺の同級生なので、こっちのニュースも気になったが、今はそれどころじゃない。え~っと、これか……。
ジュエリー西川『炎のティアラ』窃盗事件
昨夜、3月31日午後9時頃、ジュエリー西川の真っ赤な宝石が散りばめられた王冠、通称『炎のティアラ』が盗難された。バールのような物でショーウインドウケースが割られ、盗んだ所を防犯カメラが抑えていた。容疑者の少年は軽トラックに乗って逃走。その後、五木浩二さん19歳を轢いたところで諦めて出頭したと見られています。五木さんは意識不明の重体です。『炎のティアラ』は無事、ジュエリー西川に返されました。
何だこれ? どこまでが本当なんだ? 五木は本当に轢かれたのか? でも、死んでいる。ドッキリだと言ってはくれないのか?
俺は偽犯人の素性が気になり、三橋さんに質問する。
「そう言えば、五木を轢いた奴は来たのか?」
「昨日のうちにお父さんへ謝りに来て、直ぐ警察に連れていかれたみたい」
「そうか……」
母親は遠い所にいるみたいだから、まだ着いていないんだろう。何とかして偽犯人の素性に近づきたい。五木の為にも、真相を知らないと……。
ふと、九十九さんを見ると放心状態だ。なんて声をかければ良いか分からない。それを考えると三橋さんは冷静に見える。これが恋人と友人の差なのだろう。
「九十九さん……。行こうか……」
三橋さんが九十九さんに声を掛けた。
「……うん……」
三橋さんの車に3人乗り、取り敢えず、九十九さんを家まで送った。九十九さんは無言のまま、家に入っていった。
「……」
「……」
「一ノ瀬君は……何処に送れば良い?」
「とにかく、五木を轢いた奴と話がしたい」
「お父さんは、相手が未成年だからと言って教えてくれなかったわ」
「そうか……」
三橋さんに俺が窃盗の真犯人という事を言っていないが、言った方が良いのか? いや、もう少し様子を見よう。
「未成年だからテレビには名前も出ないな。ネットに顔を晒されるのを待つか」
「一ノ瀬君。今日はどこで寝るの?」
「どこかのホテルに泊まるよ。五木のアパートは真相が分からないと危険だから」
「分かったわ。じゃあ、また連絡してね」
「了解、今日はありがとう」
俺達は別れた。
川島から電話が無いというのは、どういう事なんだ? 失敗したからもう関わりたくないという事なのか? そもそも川島にしたら、絶対盗まないといけない物でもないしな。ニュースで全て分かっているという事なんだろうか? それとも、川島にとって、今回の件は成功だという事なんだろうか? 遅くとも9時半までに『オリオン』の駐輪場に『炎のティアラ』を持ってこないとおかしいとなる筈だが、川島は青山からは離れると言っていたし問題無いのか? だけど、部下から連絡がなければ不審に思う筈……。分からない……。やっぱり、偽犯人の情報が必要か……。
風呂をあがって、着替え終わるとスマホが鳴った。三橋さんだ。
「もしもし」
「もしもし、一ノ瀬君? 今夜、五木君のお通夜で、明日の午前中にお葬式をするみたい。それで、お葬式の後に同級生で五木君を偲ぶ会をしようと思って……」
「それ、いいな」
「だよね? じゃあ、皆に声掛けておくね」
「ありがとう、宜しく」
俺は五木の実家に着き、インターホンを押すと初老の男性が出迎えてくれた。
「あの……浩二さんの友人の一ノ瀬と言います……」
「どうぞ、上がってください」
何となく五木に似ている。父親なんだろう。家に上がると九十九さんが泣き崩れているのが見えた。美人が台無しだ。三橋さんは泣いた後の様だが、そこまででは無い。何というか上品に泣いている。少し違和感があったが、今はどうでもいい。すると、三橋さんが声を掛けてきた。
「一ノ瀬君……」
俺は三橋さんをチラ見した後、五木に近づき、顔を見た。眠ってるように綺麗な顔だ。これで死んでいるとは思えない。実際に死んでいる五木を見ても実感が湧かなかった。
「外傷は後頭部と胸から下全てです。顔だけ綺麗なんです」
父親らしき人が答えた。
「一体どうして?」
「車に轢かれて……」
「車に?」
話に割り込んで三橋さんが話し出す。
「昨日、盗難があったでしょ? その犯人が五木君を轢いたのよ」
「え? どういう事だ?」
俺は話についていけない。五木が死んだ事で混乱しているのに、さらに訳が分からない。
「ニュース見てないの? 昨日、ジュエリー西川の『炎のティアラ』が盗まれたのよ。その犯人が逃げるときに五木君を轢いたの」
「は?」
窃盗の犯人は俺だぞ?
俺はスマホでネットニュースを調べる。トップニュースは……コスモグループ CEO 六角信忠氏自殺か? コスモグループって『オリオン』の? これって六角の父親だよな? 六角は俺の同級生なので、こっちのニュースも気になったが、今はそれどころじゃない。え~っと、これか……。
ジュエリー西川『炎のティアラ』窃盗事件
昨夜、3月31日午後9時頃、ジュエリー西川の真っ赤な宝石が散りばめられた王冠、通称『炎のティアラ』が盗難された。バールのような物でショーウインドウケースが割られ、盗んだ所を防犯カメラが抑えていた。容疑者の少年は軽トラックに乗って逃走。その後、五木浩二さん19歳を轢いたところで諦めて出頭したと見られています。五木さんは意識不明の重体です。『炎のティアラ』は無事、ジュエリー西川に返されました。
何だこれ? どこまでが本当なんだ? 五木は本当に轢かれたのか? でも、死んでいる。ドッキリだと言ってはくれないのか?
俺は偽犯人の素性が気になり、三橋さんに質問する。
「そう言えば、五木を轢いた奴は来たのか?」
「昨日のうちにお父さんへ謝りに来て、直ぐ警察に連れていかれたみたい」
「そうか……」
母親は遠い所にいるみたいだから、まだ着いていないんだろう。何とかして偽犯人の素性に近づきたい。五木の為にも、真相を知らないと……。
ふと、九十九さんを見ると放心状態だ。なんて声をかければ良いか分からない。それを考えると三橋さんは冷静に見える。これが恋人と友人の差なのだろう。
「九十九さん……。行こうか……」
三橋さんが九十九さんに声を掛けた。
「……うん……」
三橋さんの車に3人乗り、取り敢えず、九十九さんを家まで送った。九十九さんは無言のまま、家に入っていった。
「……」
「……」
「一ノ瀬君は……何処に送れば良い?」
「とにかく、五木を轢いた奴と話がしたい」
「お父さんは、相手が未成年だからと言って教えてくれなかったわ」
「そうか……」
三橋さんに俺が窃盗の真犯人という事を言っていないが、言った方が良いのか? いや、もう少し様子を見よう。
「未成年だからテレビには名前も出ないな。ネットに顔を晒されるのを待つか」
「一ノ瀬君。今日はどこで寝るの?」
「どこかのホテルに泊まるよ。五木のアパートは真相が分からないと危険だから」
「分かったわ。じゃあ、また連絡してね」
「了解、今日はありがとう」
俺達は別れた。
川島から電話が無いというのは、どういう事なんだ? 失敗したからもう関わりたくないという事なのか? そもそも川島にしたら、絶対盗まないといけない物でもないしな。ニュースで全て分かっているという事なんだろうか? それとも、川島にとって、今回の件は成功だという事なんだろうか? 遅くとも9時半までに『オリオン』の駐輪場に『炎のティアラ』を持ってこないとおかしいとなる筈だが、川島は青山からは離れると言っていたし問題無いのか? だけど、部下から連絡がなければ不審に思う筈……。分からない……。やっぱり、偽犯人の情報が必要か……。
風呂をあがって、着替え終わるとスマホが鳴った。三橋さんだ。
「もしもし」
「もしもし、一ノ瀬君? 今夜、五木君のお通夜で、明日の午前中にお葬式をするみたい。それで、お葬式の後に同級生で五木君を偲ぶ会をしようと思って……」
「それ、いいな」
「だよね? じゃあ、皆に声掛けておくね」
「ありがとう、宜しく」
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