10番目の同級生

ジャメヴ

文字の大きさ
41 / 72

社長信忠殺害実行

しおりを挟む
3月31日午後9時
  シアタールームは5人掛けのソファーが1つ置いてあり、映画館を小さくした感じの部屋だ。何も無い真っ白な壁に映像が映し出される。画面は縦3メートル横4メートルぐらい。
  信忠は食べ物も飲み物も持ってきていない。映画鑑賞やスポーツ観戦に、飲食は邪道だと考えているようで、2時間程度ならいつも飲まず食わずだ。
  信孝はシアタールームのサイド扉からゆっくり侵入した。これまで二岡と何度も犯罪をしてきたせいか、初の殺人というのに緊張していないのか、全く震えたりはしない。サイド扉と言っても、ソファーの斜め後ろにあるのでソファーに座って映像を見ていれば視界には入らない。
  信孝が近づいても信忠は全く気付く素振りが無い。音声もやや大きめで映像に集中している。信孝は信忠の背後から、ロープの輪っかを信忠の首に掛けた。
「ん?  ううう……」
信孝は元野球部のエースピッチャーだ。チューブを引っ張るトレーニングをずっと行っていた。全く同じ動きで信忠社長を締め上げる。念押しにもう1度握り直して締め上げる。死んだだろうが、意識が戻る事を警戒し、約1分絞めあげた。信孝は信忠の顔を見る事無く、練習通り自殺工作を遂行した。時刻は9時5分。信孝は車へ急いだ。
  信孝にとって、信忠は母親の違う兄にあたる訳だが、40近く離れており、一緒に生活した事もほとんど無い。兄とは言え、親戚のおじさんのような存在だった。殺した事によって、今までの思い出が甦ってくるような事も無いだろうし、何の感情も抱かないのだろう。

午後8時55分
  信雄は現場についた。
(暗闇に目を慣らせておかなければ……。瞳孔が開いていないと、一ノ瀬に気付くのが遅くなる)
路地を塞ぐ形で待機した。軽トラの左右に1人ぐらいしか通れない狭さだ。
(そろそろ、3分前くらいか?  一ノ瀬がフライングの可能性もある。そろそろ集中しよう)
正面をずっと見る。徐々に先まで見えてきてるような気がする。30メートル、40メートル、50メートル……見える距離が広がっていく。
(距離がないと速度が上がらない。出来れば一撃で轢き殺したい。2度轢くと言い訳がしんどくなる)

(そろそろ9時だな、集中……)
路地は100メートルぐらい続き、それから車が入れない狭さになっているが、その壁がうっすら見えている。集中しているせいもあり、100メートル先まで見えた。 その時!
(見えた!)
帽子とマスクの確認が出来なかったが、マスクをしている様な感じだったので、迷わず急発進!
  違う人だったら止まる事も出来るが、このタイミングでこんな細い路地を走ってくる奴なんかいない。
(躊躇はしない!)
アクセル全開!
  軽トラの振動と極度の緊張で、信雄は後ろから背中を何度も殴られているような感覚に襲われながらハンドルを握る。
  時速20キロと時速60キロが一気に近づく。五木が咄嗟に避けようとするのが目に入ったが……
ドカーン!  キキー!……ドゴ!  ……バラバラバラ……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『大人の恋の歩き方』

設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日 ――――――― 予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と 合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と 号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは ☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の 予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*    ☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宮廷歌姫は声を隠す【サスペンス×切ない恋×中華後宮】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の"声"は、かつて王家が恐れた禁忌の力? 幼くして孤児になった翠蓮(スイレン)にとって、『歌うことは生きること』。 ただ歌いたいだけなのに、周りがそれを許さない。 歌姫オーディションでは皇位争いの駒にされ、後宮では嫌がらせ、やがて命までも狙われる。 彼女を守るのは、優しいけれど抱きしめてはくれない【学】の皇子。 一方、愛をこじらせた【武】の皇子は、彼女を闇へ引きずり込む。 声を隠して俯くか、想いを貫き歌うのか―― 答えなき苦悩の中、翠蓮は自分の人生を切り開く。 旧題:翡翠の歌姫

処理中です...