10番目の同級生

ジャメヴ

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喫茶『ラクーン』

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(8時半か……。『ラクーン』でモーニングにしよう)
狩野は熊谷に10時半会社待ち合わせの連絡を入れた後、待ち合わせ時間まで、喫茶店『ラクーン』でゆっくりする事にした。車を会社の駐車場に停めると歩いて喫茶店へ向かう。
『ラクーン』は庭園をイメージしたかのような風情のある佇まいで、店内からは枯山水が見え、少しお金に余裕がある富裕層をターゲットにした店だ。
  狩野が店内に入ると、カウンターに1人高齢の女性が座っており、2人用の席3つに中年男性が1人ずつ、4人用のテーブル席1つにマダム4人が座っていた。狩野はいつもの席でいつもと同じメニューを注文する。600円のホットコーヒーと400円のモーニングセットだ。サンドイッチを食べながらゆっくりしていると、1人の中年男性が入ってきて、店内の奥の方を覗き、嫌そうな顔をしながら近くの席に座った。狩野が何度か見た顔の常連客だ。そこに女性店員が水とおしぼりを持っていくと、なにやら愚痴をネチネチと言っている。話の全ては聞き取れなかったが、いつも座ってる場所を取られたとかいう内容のようだ。お前の家かよ!  と心の中で突っ込んでみたが、狩野も自分の席がとられると少し嫌な気分になる。女性店員は20代後半だろうか?  客もそこそこ入っている忙しい時間に絡まれて、大変だなと思いながらも、自分も部下に同じ事をしていないか?  と自分の振る舞いを直そうと考えていた。     
  暫くすると4人のマダムが席を立ち、会計に向かう。
「今回は私が払います」
「いえいえ、今回は私が……」
「いえいえ、私が誘いましたので……」
(誰でも良いから早く払え!  店員が待ってるぞ!  そのコントはテーブルでやっておけ!)
狩野は、おばちゃんのこのやり取りが大嫌いだった。それを見た為、少し不味くなったサンドイッチを、苦めのコーヒーで流し込んだ。

  主任の中西は待ち合わせ時間の10分前の10時20分に会社駐車場に着き、狩野の車を見つけたが、熊谷常務の車が見えた為、端の方に停め車内で待機した。そこに『ラクーン』から狩野が戻ってくる。それに気付いた熊谷が狩野の方に近寄る。それを見て、中西も車を降り、狩野の方へ駆け寄ろうとした。狩野は熊谷に軽く挨拶した後、中西に気付き、大声で叫ぶ。
「やあ中西君!  悪いね!  ちょっと一緒に来てくれるかい?!」
「おはようございます!」
中西は2人に挨拶して駆け寄った。疑問に思った熊谷が狩野に質問する。
「彼は?」
「ああ。この後、食事に行く約束をしていてね。12時に予約しているんだ。打ち合わせって言っても1時間も掛からないだろう?」
「へぇ、そうなんですか……」
保険が見事に決まったので、狩野は心の中でガッツポーズをした。これで打ち合わせは1時間以内に終わらせなければならない理由ができ、中西が居るのでさすがに殺人は出来ない筈だ。
「えっと、私は車で待機していれば良いですか?」
中西は狩野と熊谷を交互に見ながら言った。狩野は優しそうに言う。
「悪いけど入り口のソファーで待っていてくれるか?  大事な話なんで、誰か来たら打ち合わせをしてる旨を伝えてくれるかい?」
「分かりました」
「仕事じゃないんで、リラックスしてスマホとかで時間を潰してくれ」
「はい」
3人で会社玄関に入り、中西は入り口のソファーに向かった。
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