10番目の同級生

ジャメヴ

文字の大きさ
52 / 72

視聴覚室

しおりを挟む
  熊谷は守衛に会釈をして、2階中央のボタンを押した。このスイッチを押すとライトが点く訳ではないが、このスイッチをオンにしておかないと部屋のスイッチを入れても灯りが点かない仕組みだ。
(2階か、まさか視聴覚室じゃないだろうな?)
狩野は身の危険を感じた。視聴覚室は遮光カーテンと防音装備の為、周りから見えないし音も聞こえない。殺人犯かも知れない男と2人っきりで話すには最悪の場所だが……。
「念の為、こちらの防音の部屋で話しましょう。中西主任にも出来れば知られたくないので」
「……え、ええ……」
狩野にとって最悪の状況になったが、頭をフル回転させて回避策を考える。
「では、どうぞ」
熊谷はドアを開けて狩野を部屋に誘導する。
(部屋の中は真っ暗じゃないか。そうだ!  せめて出口に近い場所に座ろう)
「熊谷常務からお話しをいただいたので、上座へどうぞ」
無理やりな理屈だったが……。
「いえいえ、そんな、どうぞどうぞ」
熊谷にとって、狩野は上司にあたるし、年齢も20歳ぐらい上だ。上座に座る訳にもいかない。
「いやいや、お気になさらず、どうぞ」
  狩野の大嫌いな、おばちゃんコントをまさか自分がする事になるとは、夢にも思わなかっただろう。しかし、今は命が掛かっている!  狩野は必死の抵抗をしていた。しかし、実際のところ、熊谷は別にどちらでも問題無いので渋々感を出しながら先に入った。
「では、失礼します」
(出口近くを取るのも大事だが、出来れば背中も見せたくない)
熊谷は電灯のスイッチを入れた。真っ暗な部屋が明るくなる。入って右側に向かってスクリーンがあり、それを見るように机が並んでいる。
(これは……どこに座るのがベストだ?)
熊谷を先に入れたので、出口側のポジションを取る事は出来るが、近いと出口までの距離が二人とも同じぐらいになり意味が無い。だが、奥に行くと、狩野の方が出口は近くなるが、距離がある分逃げにくい。
「どこでも良いんですが……」
そう言って、熊谷は少し右へ進み、スクリーンに背を向けて、通路直ぐの席に座った。仕方ないと思いながら、狩野は熊谷の正面に座る。机の幅は1メートル弱。鈍器で殴るのは難しそうだ。だが、ナイフなら……。
「それでは、今後の事について、私なりに考えてきましたので、お聞きください」
熊谷はそう言うと、持ってきた鞄から何かを取り出す。狩野は何を出すかを凝視する。すると、銀色の物が光に反射した!
(まさか、ナイフ……)
狩野は身構えた。その時!  電気が急に消え、部屋が真っ暗になった!
「うわああ~!!」
狩野は叫び、椅子と机を蹴飛ばして出口へ向かう。壁をつたうがノブが見つからない。
(無い!  無い!)
焦っている為か見つけられない。
(無い!  無い!)
やはり見つからない!  狩野は振り返り、熊谷の方を見る。その時、雷が遮光カーテンのわずかな隙間を少しだけ照らした。熊谷は仁王立ちになっている!  狩野の恐怖心からか、ただでさえ大きい熊谷は2メートル近くにも見え、逆光により、痩けた顔と飛び出た目は、麻薬常習者を想像させた。
(こ、殺される)
「うわああああ~!!!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

宮廷歌姫は声を隠す【サスペンス×切ない恋×中華後宮】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の"声"は、かつて王家が恐れた禁忌の力? 幼くして孤児になった翠蓮(スイレン)にとって、『歌うことは生きること』。 ただ歌いたいだけなのに、周りがそれを許さない。 歌姫オーディションでは皇位争いの駒にされ、後宮では嫌がらせ、やがて命までも狙われる。 彼女を守るのは、優しいけれど抱きしめてはくれない【学】の皇子。 一方、愛をこじらせた【武】の皇子は、彼女を闇へ引きずり込む。 声を隠して俯くか、想いを貫き歌うのか―― 答えなき苦悩の中、翠蓮は自分の人生を切り開く。 旧題:翡翠の歌姫

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

処理中です...