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十文字太郎
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十文字太郎編
5年前
二岡のイジメがエスカレートした週の金曜、帰宅した十文字太郎は自殺を決意する。ネットで死に方や遺書の書き方を考えていた。
◯手首を切る
(リストカットは、穏やかに死ねそうかな? 血が飛び散るから風呂場でないと駄目? でも未遂率が高そう。ためらい傷って言葉があるくらいだし……。僕みたいに思い切りがないタイプは、自分の手首をおもいっきり切る事は難しいかも知れない。普通の包丁とかでは無理かな? 切れ味の良いナイフを買わないと……)
◯溺死
(一見無理そうだけどどうなんだろう? シンクロ選手とか、長時間水中で競技しなければならない選手は普通にブラックアウトとか良く見るけど、そもそも根性が違いすぎるのかな?)
◯薬
(素人が手に入れられるのは睡眠薬ぐらい? ん? 最近の睡眠薬は大量に飲んでも自殺できないって書いてある……。本当か嘘かは分からないけど、ダメかな)
◯飛び降り
(電車とかに身を投げるのは、両親に迷惑がかかるから問題外として、どこかのビルから飛び降りるのは、有りかも知れない。この辺りは田舎で高いビルは無いから、隣町まで出ないとダメかな)
◯練炭
(一番楽に死ねそうだけど、密閉された部屋がないと……。この部屋じゃ無理だよね)
◯首吊り
(メジャーだけど、親に気付かれたら、中途半端に生きちゃって、逆に迷惑が掛かる可能性があるもんな……)
(どれも怖いな……。勇気がないや。取り敢えず先に、遺書について調べよう。)
その時。
コン! コン! コン!
母親がドアをノックした。
「太郎!? どうしたの!? 最近変よ!?」
さすがは母親といったところか。雰囲気で様子がおかしいのが分かったようだ。十文字は大好きな両親に黙って死ぬ事は出来ないと思いとどまった。
「お母さん、相談があるんだ……。お父さんが帰ってきたら一緒に聞いてくれるかな?」
涙を見せないようドア越しに告げた。
「分かったわ。私達に出来る事があるなら協力するから言って頂戴」
普通、母親は学校で何か問題を起こしたのでは? と真っ先に考えるだろう。だが、十文字が単独でそんな事をするとは思う訳が無い。誰かに無理やりさせられたのか? それともイジメか? となるだろう。
どちらにしても、母親の頭には二岡の名前が浮かぶに決まっている。母親は前から息子が二岡にちょっかいを掛けられているのを知っていた。
そして、父親が帰って来た。
「お父さん! 太郎が相談したいって!」
「分かった、太郎を呼んでくれ」
十文字の父親は、母親の様子と息子の最近の様子からイジメを連想したのだろう。
3人がリビングに集まった。意を決して十文字が話し始める。
「……僕……自殺しようと思うんだ……」
「うわあああ~~ん。太郎~! そんな事言わないでよ~!」
母親が号泣して十文字に抱きつく。父親は十文字の目をじっと見た。そして、大きくため息をついて理由も聞かずに発言した。
「分かった。お前は今日、自殺するんだ!」
「!」
「何言ってるのよ、お父さん!!」
母親は父親に抱きつく。
「いいか太郎。お前は今、自殺したんだ。当然、友達にさよならも言えない。感謝の気持ちも伝える事は出来ない。だって、死んだんだからな! それで良いな!」
「うん!」
十文字は父親の言っている事のほとんどを理解できていない。だが、父親の決意は100パーセント理解できた。
「太郎! 母さん! 明日引っ越しする!」
「!!」
「えっ! この家はどうするの?」
「もちろん手放す」
「えっ! お金は? 急にそんな……」
「太郎の命を救う為だ。何千万円捨てても構わない」
「……はい。分かりました」
翌日、不動産屋に行き、10キロメートル程離れた場所に取り敢えずアパートを借り、夜逃げをするかのように引っ越した。
その日の夜、3人で外食に出掛けた。太郎に大好きなハンバーグを食べさせて元気を出させようと思ったのだろう、普段よりワンランク高級な店へ向かった。
道中、十文字は一言も発しない。と言うより、昨日の家族会議から両親は気を使ったのか、問題に触れる事が出来なかった。だが、父親が話を切り出した。
「太郎」
「……はい」
「学校で何があったかは聞かないし、お前も言いたくなかったら言わなくて良い。だが、今日の食事で気分転換して、忘れてくれ。明日からは次の人生を始めるんだ」
「……うん」
引っ越しが完了すると、学校には連絡先を告げずに簡素なファックスだけを送った。
『十文字太郎はイジメを苦に自殺しました。
十文字 正
伸子』
ロールプレイングゲームのリセットボタンを押すかの様に自殺する子供が後を絶たないが、人生にセーブはきかない。
だから、リセットボタンを押しても再開は出来ない。
十文字はリセットボタンを押さず、死んで人生を再開する。
父親の所持金を半分にして……。
5年前
二岡のイジメがエスカレートした週の金曜、帰宅した十文字太郎は自殺を決意する。ネットで死に方や遺書の書き方を考えていた。
◯手首を切る
(リストカットは、穏やかに死ねそうかな? 血が飛び散るから風呂場でないと駄目? でも未遂率が高そう。ためらい傷って言葉があるくらいだし……。僕みたいに思い切りがないタイプは、自分の手首をおもいっきり切る事は難しいかも知れない。普通の包丁とかでは無理かな? 切れ味の良いナイフを買わないと……)
◯溺死
(一見無理そうだけどどうなんだろう? シンクロ選手とか、長時間水中で競技しなければならない選手は普通にブラックアウトとか良く見るけど、そもそも根性が違いすぎるのかな?)
◯薬
(素人が手に入れられるのは睡眠薬ぐらい? ん? 最近の睡眠薬は大量に飲んでも自殺できないって書いてある……。本当か嘘かは分からないけど、ダメかな)
◯飛び降り
(電車とかに身を投げるのは、両親に迷惑がかかるから問題外として、どこかのビルから飛び降りるのは、有りかも知れない。この辺りは田舎で高いビルは無いから、隣町まで出ないとダメかな)
◯練炭
(一番楽に死ねそうだけど、密閉された部屋がないと……。この部屋じゃ無理だよね)
◯首吊り
(メジャーだけど、親に気付かれたら、中途半端に生きちゃって、逆に迷惑が掛かる可能性があるもんな……)
(どれも怖いな……。勇気がないや。取り敢えず先に、遺書について調べよう。)
その時。
コン! コン! コン!
母親がドアをノックした。
「太郎!? どうしたの!? 最近変よ!?」
さすがは母親といったところか。雰囲気で様子がおかしいのが分かったようだ。十文字は大好きな両親に黙って死ぬ事は出来ないと思いとどまった。
「お母さん、相談があるんだ……。お父さんが帰ってきたら一緒に聞いてくれるかな?」
涙を見せないようドア越しに告げた。
「分かったわ。私達に出来る事があるなら協力するから言って頂戴」
普通、母親は学校で何か問題を起こしたのでは? と真っ先に考えるだろう。だが、十文字が単独でそんな事をするとは思う訳が無い。誰かに無理やりさせられたのか? それともイジメか? となるだろう。
どちらにしても、母親の頭には二岡の名前が浮かぶに決まっている。母親は前から息子が二岡にちょっかいを掛けられているのを知っていた。
そして、父親が帰って来た。
「お父さん! 太郎が相談したいって!」
「分かった、太郎を呼んでくれ」
十文字の父親は、母親の様子と息子の最近の様子からイジメを連想したのだろう。
3人がリビングに集まった。意を決して十文字が話し始める。
「……僕……自殺しようと思うんだ……」
「うわあああ~~ん。太郎~! そんな事言わないでよ~!」
母親が号泣して十文字に抱きつく。父親は十文字の目をじっと見た。そして、大きくため息をついて理由も聞かずに発言した。
「分かった。お前は今日、自殺するんだ!」
「!」
「何言ってるのよ、お父さん!!」
母親は父親に抱きつく。
「いいか太郎。お前は今、自殺したんだ。当然、友達にさよならも言えない。感謝の気持ちも伝える事は出来ない。だって、死んだんだからな! それで良いな!」
「うん!」
十文字は父親の言っている事のほとんどを理解できていない。だが、父親の決意は100パーセント理解できた。
「太郎! 母さん! 明日引っ越しする!」
「!!」
「えっ! この家はどうするの?」
「もちろん手放す」
「えっ! お金は? 急にそんな……」
「太郎の命を救う為だ。何千万円捨てても構わない」
「……はい。分かりました」
翌日、不動産屋に行き、10キロメートル程離れた場所に取り敢えずアパートを借り、夜逃げをするかのように引っ越した。
その日の夜、3人で外食に出掛けた。太郎に大好きなハンバーグを食べさせて元気を出させようと思ったのだろう、普段よりワンランク高級な店へ向かった。
道中、十文字は一言も発しない。と言うより、昨日の家族会議から両親は気を使ったのか、問題に触れる事が出来なかった。だが、父親が話を切り出した。
「太郎」
「……はい」
「学校で何があったかは聞かないし、お前も言いたくなかったら言わなくて良い。だが、今日の食事で気分転換して、忘れてくれ。明日からは次の人生を始めるんだ」
「……うん」
引っ越しが完了すると、学校には連絡先を告げずに簡素なファックスだけを送った。
『十文字太郎はイジメを苦に自殺しました。
十文字 正
伸子』
ロールプレイングゲームのリセットボタンを押すかの様に自殺する子供が後を絶たないが、人生にセーブはきかない。
だから、リセットボタンを押しても再開は出来ない。
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