嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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時雨永遠 3

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  俺は明らかに強くなっていた。吉谷高校柔道部は、1リーグ10人で上位2名と下位2名が毎月入れ替えとなる。俺はついに2部リーグに昇級した。だけど、1部の壁は厚い。それもその筈、吉谷高校は県立高校ながら、全国大会出場の常連高なんだ。
  ある日、俺は1年生のグループで駅まで歩いて一緒に帰っていた。基本、自転車なので1人で帰るんだけど、時々、駅まで皆と帰る事もあった。いつも、同級生のムードメーカー塩見が会話を盛り上げる。

「柔道は判定方法が曖昧なんだよな」
「まあ、確かにどっちが投げたか分からない時あるもんな」
「巴投げとか、既に背中ついちゃってるからな」
「判定基準を明確にしないから、世紀の誤審とかが生まれちゃうんだよ」

◆世紀の誤審とは
  柔道に限らず、スポーツでは審判の判断に左右されるところが大きい。もちろん、大きな試合になればなる程、審判のレベルも上がるのだが、人による判断だ。神じゃないのでミスも出る。
  シドニー五輪柔道100キロ超級決勝、日本人選手が内股すかしで1本を取ったかに見えたが、主審の判定は相手選手の内股が有効と判定した。もちろん、どちらの選手も倒れているので判断が難しい。
  結局、判定が覆る事はなく、結果、日本人選手が負けとなったのだが、明らかに誤審の為、歴史上最も酷い誤審とされている。◆

「もう、いっそのこと、観客に決めてもらえば良いんだよ」
「どうやって?」
「皆スマホ持ってるんだから、投票するんだよ。テレビで生中継見てる人も D ボタンで投票するんだ。面白いぞ」
「それ、アイドルの人気投票みたいになっちゃうじゃないか!」
「これで、俺が勝つ可能性が上がったな!」
「いやいや、逆に下がったよ!」
「何でだよ!」

  塩見は、良い雰囲気を保つ為と言う意味で、柔道部に欠かせない存在だった。

  また別の日、3年生の先輩、仲田さんと中山さんの2人が塩見にちょっかいを出していた。仲田さんと中山さんは俺と同じ2部リーグで、塩見は5部リーグ。塩見は非常に社交的で、先輩達にも気に入られている。仲田さんと中山さんも塩見を気に入っているんだけど、その日は、俺が見ていて少しちょっかいの度が過ぎているように感じた。

  仲田さんが塩見の尻に蹴りを入れる。
「いや、ちょっと!  先輩やめてくださいよ~!」
「ギャハハハ!」
中山さんも塩見の尻に蹴りを入れる。
「いや、ちょっと!  先輩やめてくださいよ~!」
「ギャハハハ!」
さらに、仲田さんが塩見の尻に蹴りを入れる。
「いや、ちょっと!  先輩やめてくださいよ~!」
「ギャハハハ!」
さらに、中山さんも塩見の尻に蹴りを入れる。
「いや、ちょっと!  先輩やめてくださいよ~!」
「ギャハハハ!」

  塩見はとにかくリアクションが良い。先輩達が何かすると大きなリアクションで返してくれる。今回も、少し前にされた事を覚えていないかの様に、毎回同じリアクションをとって笑いを誘う。だけど、それによってお金を貰っている訳でも無ければ、お笑い芸人でも無い。ただ、周りを楽しませて雰囲気を良くしてくれているだけなんだ。実際、知らない人が周りから見ると、楽しんでいる様にも見える。だけど、俺には分かった。塩見が嫌がっていると……。俺が注意しようか悩んでいると、1人の男が有無を言わさず、中山さんを殴り倒した。柔道部2年生のエース郷原さんだった。
  俺は、郷原さんが柔道部だというのに殴り倒す行動にも度肝を抜かれたけど、上級生にも屈しない態度を見て、自分の兄、刹那がオーバーラップした。
  更に中山さんを殴ろうとする郷原さんを仲田さんが後ろから止めようとするけど、郷原さんは右肘で仲田さんの顎にかち上げを決め、軽い脳震盪を起こさせた後、背負い投げで地面に叩きつけ、倒れた仲田さんを殴る殴る。周りで見ていた柔道部員が郷原さんを止める。
  俺は郷原さんを止める事も出来ず、魂を抜かれたように、その混乱をただ眺める事しか出来なかった。郷原さんの行動が理解出来なかったからだ。郷原さんは、塩見と特別仲が良かった訳でも無く、不良と呼ばれる見た目で、正義感が強そうにも見えない。
  結局、郷原さんは1週間の停学処分を受けた。
  インターハイ前の大事な時期に、レギュラーの郷原さんが停学処分になり、停学処分が明けた後も、郷原さんの対外試合禁止が続いた。郷原さんが抜けた戦力ダウンの影響か、柔道部全体の雰囲気が悪くなったせいか、その年のインターハイ、吉谷高校柔道部は全国大会出場を逃した。
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