嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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高額バイト

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  この頃から俺達は出来の良い兄と柔道の強い弟と言われるようになった。
  俺は勉強をしていない為、頭が良くなかったけど、柔道で全国制覇をしたので有名私立大学から特待生の話がたくさん来た。自分には柔道しかないので当然、大学で柔道をしようと考えていた。俺にしてみれば、どこの大学であろうと同じだったので、家から一番近い常態じょうたい大学(通称常大)を選んだ。
  高校を無事卒業し、春休みのとある金曜日、2つ上の柔道部の先輩、山田さんから電話が掛かってきた。山田さんには1年生の時、良い意味で指導をしてもらっていた。
  俺は1年生の最初の頃、体格差を生かして力ずくで技を掛ける事しか出来ていなかったのだけど、ステップアップの為、相手のバランスを崩す練習をしていた。俺は何度やっても足払いのタイミングが分からず困っていたところ、わざわざ団体戦レギュラーの山田さんが指導しにきてくれたんだ。山田さんは俺の体格と時々見せるセンスに気付き、伸びると感じていたと言っていた。俺は、ありがたく山田さんの指導を受けた。それを見ていた、副キャプテンの岡添おかぞえさんが近付いてきて、更に詳しく俺に指導した。どうも、岡添さんも俺が伸びると感じていたらしい。それだけなら良かったのだけど、岡添さんは山田さんの指導に誤りがあると指摘した。実は、山田さんも俺と同じで高校から柔道を始めたんだ。だからと言って、山田さんは既にレギュラーで、2年以上柔道をしている。当然、2年間の経験で持論もある。2人は俺への指導で揉めた。
  船頭多くして船山に上るとはこの事だと思った。そんなに諺に詳しい訳じゃないけど、この諺は父さんがよく使っていたから知っている。
  しばらく揉めた後、山田さんが引き下がり、俺は岡添さんから指導を受けた。翌日から、俺は山田さんを慕うようになった。岡添さんの指導が嫌だったと言う訳じゃない。山田さんの指導に愛を感じたのだ。山田さんの引退後、俺は山田さんと特に交流がなかったけど、全国制覇をした時に山田さんは、いの1番に祝いの連絡をくれた。それ以来の電話だった。

「もしもし、お久し振りです。山田さん」
「やあ時雨、どうだ?  元気してるか?  進路は決まったのか?」
「ええ、山田さんと一緒の常大へ行きます」
「そうか!  当然、特待生だよな?」
「ですです。両親も喜んでいます」
「良いな。あっ!  そうそう、今日はちょっとお願いがあって電話したんだ」
「何ですか?  俺に出来る事ならやりますよ」
「おお、そうか。高額なバイトの話なんだ」
「高額?  良いじゃないですか」
「明日の話で急なんだけど、土日にボディーガードを募集しているみたいで、1泊2日泊まり込みで10万円だそうだ」
「凄く良い話じゃないですか!」
「そうだろう?  俺の空手部の連れが応募したそうなんだけど、親族に不幸があったみたいで、俺に話が来たんだ。でも、残念ながら俺にも今週は予定が入っていて……。時雨は空いてるかなと思って」
「空いてます空いてます!  10万も貰えるなら絶対行きますよ!」
「そうか。じゃあ、伝えておくよ。当日に軽く実力を見る実戦テストがあって、弱かったら10万じゃなくて2万円になるみたいなんだけど、日本一のお前なら余裕だよ」
「分かりました」
「じゃあ、詳細はまた連絡するな」
「了解ッス。宜しくです」

  俺は電話を切った。そして10分後、山田さんから詳細の電話があった。
◯  着替えと交通費以外は特に何も要らない
◯  14時、金宮きんのみや駅集合
◯  集合駅までの行き帰りの電車賃は自分持ち
◯  黒スーツにサングラスでマスクの男が待っている
◯  実戦テストに受かればバイト代は10万円で晩御飯は高級寿司
◯  実戦テストに落ちればバイト代は2万円で晩御飯は普通の弁当
◯  15時から翌日朝9時までのボディーガード
◯  ボディーガードの人数は5人程度?
◯  風呂無し。汗拭きシートを配るだけ
◯  坂井直樹という男の代わりなので、2日間は坂井直樹役をして欲しい
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