嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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スパイダーマン

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  ロマンスグレーの髪の男は俺を玄関前の庭へ誘導する。すると、雪が降る中、庭には異様な格好の人物が仁王立ちしていた。ロールプレイングゲーム等で入り口の前にボスキャラが立ち塞がっている時があるけど、まさにそんな感じに見えた。

  何だこいつは?!  スパイダーマン?!

  その男は、スパイダーマンの覆面に胴着、手袋にスニーカーという出で立ちをしている。身長は俺と同じぐらいで180センチ強、体重も同じくらいか少し軽いぐらいに見える。

  試験官って事か?  でも、その格好に何の意味がある?  空手か……。

  素人目には空手着も柔道着も同じに見えるけど、実は丈夫さが全く違う。柔道着は掴んで投げる為に丈夫に作られてあるけど、空手着は掴まれる事が無い為、少し薄く動きやすい。
  空手対柔道……。掴めれば勝てると思った。一般的にだけど、倒れると攻撃の出来ない立ち技ルールでは圧倒的に空手有利で、総合格闘技のような倒れても攻撃が出来るルールでは圧倒的に柔道有利と言われている。
  スパイダーマンは覆面なので、雰囲気しか分からないけど、俺を見て少し考えたような時間があった。俺が闘おうと決意した時、覆面で声が籠っているからそう聞こえたのかも知れないけど、その人物は作ったかの様なやたら低い声で言う。
「合格です」
「?」
スパイダーマンは右腕を開いて、ドアの方へ誘導した。俺は背後から襲ってきたりするのじゃないかと警戒していたけど、特に何も起こらなかった。

  何だったんだろう?  あれ?  でも、あの黒帯の刺繍……どこかで見たような……。

  俺はそんな事を考えながら玄関へ近付くと、ロマンスグレーの髪の男が玄関のドアを開けた。
♪♪♪♪♪~
  館の中は心地よいクラシックが流れている。玄関で靴を脱ぎ、用意されてあるスリッパに履き替えた。玄関フロアはかなり広い。高級そうな絨毯が敷き詰められている。吹き抜けになっていて、左右に階段があり、洋館に似合わないパイプ椅子が1つずつ置いてある。2階には7つ部屋があるようだ。
  ロマンスグレーの髪の男に2階の部屋へ誘導される。向かって右の階段から登り、手前から3つ目の1番奥が俺の部屋のようだ。右側の廊下はこの部屋で行き止まりのようで、左側の廊下とは繋がっていない。
ガチャ……バタン
  ドアを開けて、ロマンスグレーの髪の男と一緒に部屋に入ると、6畳ぐらいの広さでシングルベッドが1つ有り、エアコン、クローゼットが揃っていて、机と椅子が有る。ふと下を見ると消臭剤が4つも置いてある。
  いや、そんなに俺臭くないから!  と、俺は心の中で突っ込んだ。机の上にはティシューペーパーと汗拭きシート、マスクの替えが5枚、タオルや使い捨て歯ブラシ等のお泊まりセットが置いてある。

  ロマンスグレーの髪の男が俺に話し掛ける。
「時計は有りますか?」
「スマホだけですけど……」
「大丈夫です。3時に玄関へ下りてきてもらえますか?」
「分かりました」
ガチャ……バタン
  ロマンスグレーの髪の男が部屋を出ていく。俺がスマホの時刻を確認すると、午後2時半だった。あと30分だなと思いながら荷物を置き、ベッドに寝てみる。

  おおお、フカフカだな!  金持ちは違う!  しかも、枕も良いやつそうだな。よく分からないけど……。

  俺は高級ベッドでテンションが上がった後、軽いストレッチ等をして過ごした。すると……。
バフッ
  少しだけ音がした。何の音だと不思議に思っていると、その後、何度か同じような音がした。俺は、どこかの部屋が開いた音だと理解した。完全防音という訳では無いけど、分厚いドアと分厚い壁の為、部屋の中からは外の音がほとんど聞こえない。だけど、ドアを開け閉めすると、気圧差による音で何となく分かる。
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