嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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笹井真司

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遡る事1年半……。

  笹井真司69歳はスーパーマーケットの警備員を始めてそろそろ4年になる。孫へのプレゼント代も馬鹿にならない為、定年退職後、小遣い稼ぎの為に、もう少し働こうと半年更新で契約していた。そろそろ更新時期が近づいて来たのだが、年齢の事を考えて、今回で契約終了を上司に告げていた。有給休暇も少し残っており、消化を考えると今日が最終出勤日だ。約4年警備員をしているが、特に何事も無く今日を迎えることが出来た。営業時間は午後7時半までで、警備は午後8時で終了だ。

  営業時間終了も近づいてきた時、笹井は高校生ぐらいの男子に声を掛けられた。
「すみません」
「何でしょう?」
「あの学生が消しゴムを万引きしていました」
「えっ?!  分かりました。確認します」

  笹井は心臓の鼓動が高まるのを感じた。4年近く警備員をしていて初の万引き。いや、実は何度かあったのかも知れないが、取り敢えず、気付いた事は1度も無かった。万引き犯らしき人物を遠巻きに見る。その学生は今風の小顔のイケメン。髪の毛は男性にしては長めで、ややウエーヴが掛かっている。顔だけなら女性にも見えるかもしれないが、170センチ以上の身長がある。姿勢も正しく優等生という見た目だ。

(こんな凛々しい学生が万引きをするのか?  いや、見た目で判断してはいけない!)

笹井は、万引き犯らしき人物を引き続き監視する。そのイケメン学生は食パンと牛乳、スポーツドリンクを3本カゴに入れ、レジに並んだ。

(消しゴム以外は購入するんだな)

  イケメン学生はスマホで支払いを済ませ、マイバッグに購入品を入れて出口の自動ドアへ向かう。笹井もゆっくり詰め寄る。店から出るまでは声を掛けてはいけない。犯人は「今から払うつもりだった」と居直る可能性がある。笹井はイケメン学生が店を出たのを確認して声を掛ける。
  声を掛けると逃げ出す万引き犯もいる。高齢の笹井では中学生に追い付けないが、防犯カメラもあるので問題無いだろう。
「すみません、レジを通していない商品があるんじゃないですか?」
「えっ?!」
イケメン学生はマイバッグに目をやる。笹井は少し動揺している様に感じた。
「私の勘違いかもしれませんが、カバンの中を確認させて頂いて宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
そう言うと、イケメン学生はマイバッグを開いて見せた。
「いえ、そっちでは無く、学生カバンを……」
「あ、はい」
イケメン学生は学生カバンを地面に置き、チャックを開けた。すると、イケメン学生は戸惑った表情をした後、カバンの中から新品の少女物キャラクター消しゴムをゆっくりと取り出した。
「これは、あなたの物ですか?」
「いいえ、違います」
イケメン学生は毅然とした態度で堂々と返事をする。
「ちょっと、事務所でお話良いですか?」
「はい」
イケメン学生は言われるがままに従う。
  2人で事務所に入り、笹井が事情を聴こうとしたところ、イケメン学生から話し出した。
「警備員さんは、僕が万引きするところを見たんですか?」
「いえ」
「では、何故僕が万引きしたと分かったんですか?」
「それは……報告がありました」
「先程、スマホで動画を撮っていた人達ですね?」
「……」
(スマホで動画?)
「防犯カメラも有るんですよね?  確認してもらえませんか?」
「……分かりました」
笹井は支店長と一緒に防犯カメラを確認する。
  20分後、イケメン学生が万引きをしていない事が確認された。イケメン学生は文房具のコーナーに行っていなかった。
  では、誰がイケメン学生の学生カバンに消しゴムを入れたのか?  万引きの報告をした高校生ぐらいの男子が怪しいが、彼も文房具コーナーに行っておらず、イケメン学生に近づいていない。少し怪しいと感じられたのは、中学生ぐらいの男子が不審な様子でイケメン学生に近づいていた。だが、この男子も文房具コーナーに行っていなかった。
「申し訳ありませんでした」
笹井は支店長と共にイケメン学生に謝った。
「いえ、警備員さんは悪くないですよ。それより、消しゴムを入れた犯人は分かったんですか?」
「いえ、ハッキリとは……」
「なるほど。と言うことは、怪しい人物は居たと言うことですね?」
「……ええ、まあ……」
「分かりました。では、帰っても大丈夫ですか?」
「あ、はい。お時間取らせてすみませんでした」
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