嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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刹那と王秀英

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  刹那が中学3年生の時、震度6の大地震が起こった。

◆地震、雷、火事、オヤジと言われるように、天災の中では地震が1番怖いとされている。因みに天災の中に何故、オヤジが入っているのだと思う人も多いのでは無いだろうか?  そもそも、最近の父親は子供に甘く、怖いというイメージも無くなってきている。実はこのオヤジというのは、父親の事では無いという説も有力だ。諸説あるのだが、大山嵐おおやまじから来ていて台風の事らしい。◆

  震度6なので、かなりの被害が出たのだが、地震の揺れによる死者は恐らく2桁ぐらいであったと推測された。ただ、地震の怖さは2次災害を呼ぶ事だ。津波により沿岸部が全て飲み込まれ、最終的な死者は1万人を越えるという大惨事になった。
  家を失った人、職を失った人、家族を失った人……。
  その悲しみは何事にも代え難い。

◆当然ながら、全国から募金や救援物資が送られた。だが、意外に知られていないのは、お金以外の物は逆に迷惑になる事の方が多いという事だ。
◯  食料品
食料不足になるのは間違いないが、個々が食品を段ボールに詰めて送ると、その仕分け作業に膨大な時間を要し、到着する頃には賞味期限が切れてしまう。缶詰めの様な保存食が望ましいが、それでも仕分け作業に人員を取られてしまう為、お金以外を個人が送るのはデメリットの方が多い。
◯  衣料品
防寒対策として毛布や衣料が必要となるのは間違い無いが、急を要するのは被災直後だけだ。1週間後に使用済みの毛布や衣料は必要無い。被災地のニーズに即していない品物は廃棄処理の問題が増えるだけ。
  過去に起こった被災地の問題では、1,000トン以上の古着が不要となり、1億円以上の廃棄金額が自治体にのし掛かる事となっている。
  特に高齢者になればなる程、自分が不要で、被災者が必要そうな物を送りたがるが、自分が不要な物なら被災者はもっと不要だ。善意による物なので指摘しづらいが、ありがた迷惑という言葉がピッタリだろう。本当に被災者の事を考えるのなら募金が1番良い。◆

  刹那は今までの貯金約30万円を全て募金すると決意した。刹那には物欲があまり無く、お年玉等をほとんど使っていなかった。だが、ただ募金するのでは30万円分の効果しか無い。そこで、春休みを利用して有名企業に支援を募る事を考えたのだ。最初にアポイントを取ろうと考えたのが日本屈指のシェアを誇る携帯会社社長、王秀英だった。王は金髪にした長めの髪とサングラスがトレードマークでテレビ等でもよく見る。王は刹那と会う約束をしてくれた。しかも、わざわざ刹那に会いに来てくれるという。
  2日後、王は刹那の家まで、運転手付きの高級車で迎えに来てくれた。聞くと、車で10分程度の場所にある特に高級でもない、一般的なホテルで打ち合わせの準備をしているとの事だった。社内での王との話で、刹那は意外な事を知る。今日がメディアに出る最後の日になるとの事だった。王は今月末をもって社長職を辞任し、会長になると言う話をしてくれた。
  ホテルに付くとテレビクルーが沢山来ていて、刹那は写真をかなり撮られた。もちろん、テレビカメラにも撮られる事になる。刹那は少しだけ抵抗があった。と言っても、テレビに映る事では無い。王に宣伝として利用されたと気付いたからだった。だが、そこまで嫌な気分になったという訳でも無い。少しだけ違うなと感じただけだった。もちろん、大金を出してくれる訳なので、王にとって少しでもメリットが無いとお話にならないのは当たり前の事なのだから。刹那は王が100万円ぐらい出してくれれば良いなと考えていた。とにかく、最低でも自分の30万円を越えてもらわないと、あまり意味の無い行動になってしまう。刹那は自分の事を賢いと思っていたし、中学3年生とは言え、世間の事を分かっているとも思っていた。だからこそ、今回のような行動をとれたと自負していた。王の募金額が幾らであろうと、春休み中、他の会社にもアポイントをとるつもりだった。だが、世界というのは広い。自分が井の中の蛙だったという事を痛感させられる。王は、何と刹那の想像の1万倍!  100億円を寄付するというのだ!  もちろん、刹那は100億という単位を分かっているが、あまりの衝撃に、どのぐらいの金額かが直ぐには分からなかった。
  このやり取りは、テレビやネットニュースで報道された。当然、王のことを褒め称えるのかと思われたが意外にも世間の反応は冷たかった。もちろん、刹那が30万円を寄付したことは、ほぼ全ての人が大絶賛だったのだが、王の100億円の寄付行為には賛否両論あり、支持する人としない人の意見が真っ2つに割れた。刹那も詳しくは聞いていないので何とも言えなかったのだが、節税対策として利用されたところや、少し不透明な部分もあったようだった。だが、どう考えても何10億かは実際に被災者の元へ渡る。それは汚い金だから駄目だ!  と批評が出来るのは当事者で無いから言えるのだ。本当の被災者なら、切羽詰まっているので、どんなに汚いお金でも欲しい。例えば、溺れて死にそうな人が浮き輪を投げられて、仮に、その浮き輪が殺人に使われた物だと知ったからと言って、使わないなんて悠長な事を言う奴はいない。
  刹那は王の行為を尊敬した。
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