嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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刹那と郷原

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中学校卒業式

  刹那は学生服のボタンというボタンを卒業生、在校生問わず、女生徒に全てあげた。自意識過剰と思われるのも気にせず、予備のボタンも10個程持っていったのだが全て無くなった。
  そんな、卒業の儀式を終えて帰ろうとしたところ、意外な人物が刹那を待っていた。郷原だ。
「おお、郷原どうした?  お互い卒業おめでとう」
「時雨……最後のお願いを聞いてくれるか?」
「何だ?  ボタンはもう無いぞ?  ははは」
「空手の勝負をして欲しい」
「そんな事か、俺はいつでも相手になるぞ」
「ありがたい。今から俺の師匠の道場に来てくれるか?」
「分かった。準備させてくれ」

  刹那が道場に着くと、郷原の師匠らしき人物が待っていた。刈り上げの白髪で、顔は60ぐらいに見えるが身体は引き締まっている。黒帯の空手着が様になっていた。
「押忍!  君が時雨君か?」
「はい。よろしくお願いします」
「宜しく頼む」
刹那は、郷原の師匠から、ただならぬ緊張感を感じた。刹那は道場で着替えて試合の準備を整えた。
「ルールは3分間でポイントを多くとった者の勝ちとする。時雨君、これで良いか?」
「はい。何でも受けて立ちます」
「よし、互いに礼!」
「お願いします!」「お願いします!」
「構えて!  ……初め!」
開始早々刹那の左刻み突き!  さらに右中段突き!

◆人間というのは、いきなり本気になるのは難しい。同調行動という心理が働き、無意識のうちに相手に合わしてしまう。相手がゆったりと構えていたら、こちらもゆったりと構えてしまい、相手が本気を出してきたら、ようやくこちらも本気を出せる。格闘技も同じで、相手の動きを見てから、それに対応するのが基本だ。ボクシングで言うカウンター、剣道で言う後の先。◆

  だが、刹那はスイッチをいきなり入れることが出来る。開始早々2ポイント。さらに刹那のラッシュが続く。郷原も攻撃を返そうとするが全く間に合わない。どちらも全く同じ体型でリーチの差、体重差も無い。同じ体型なのに、何故か間合いが違う。刹那の攻撃は軽く、郷原の攻撃は重い。
  2人のやっている伝統派空手はポイント制でダメージを与える必要が無い為、体重を乗せる必要は無く、素早くヒットさせれば良い。刹那は相手に触れるぐらいの距離で攻撃出来る為、間合いが広く、郷原は最もダメージを与えれる距離で攻撃してしまう為、間合いが狭くなってしまう。要するに郷原は伝統派空手向きでは無いのだ。
「それまで!」
「お互いに礼!」
「ありがとうございました」「ありがとうございました」
圧倒的大差で勝負がついた。
「時雨ありがとう。これで踏ん切りがついたよ」
「……」
「時雨君ありがとう。こいつは今日で空手をやめるつもりなんだよ」
「……はい。何となく気付いていました」
「俺には空手は向いていない。高校からは柔道に進むつもりだ」
「そうか……陰ながら応援するよ」
「時雨……帯を交換してくれないか?」
「ああ、喜んで」
刹那と郷原は黒帯を交換した。
「柔道で直ぐに初段を取って、この帯を締めさせてもらうよ」
「光栄だよ」
  その後、2人が会う事は無かったが、後にインターハイでの活躍をお互い、テレビで見る事になる。
  古びて色褪せた帯を締めて闘っている勇姿を。
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