嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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西大空手部

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水曜日午後8時
西京大学体育館

「お疲れ様でした!」「お疲れ様でした!」
3年生のキャプテンが話す。
「空手部は明日から春休みです。皆さんゆっくり休んでください。押忍!」
「押忍!」
空手部の練習を終え、皆体育館を出ていく。空手なので道具もほとんど無いが、緩衝用マットやモップ掛けの後片付けがある。今日は2年生の E グループが担当だ。1グループ5人程度で、空手部全員に順番が回ってくる。
  1年生のエース、刹那が体育館を出たのを見て、2年生小山(背の低い男)が1年生唐沢に話し掛ける。
「唐沢、今日も1年で頼むわ」
「了解です」
後片付けと言っても5人ですれば3分程度で済む事だ。それぐらいやれよ!  と言う話なのだが、そこは縦社会の悪しき慣習だ。小山のグループはいつも唐沢にさせている。

  それはそうと、小山は西京大学の入試に落ちたのでは無かったか?
別人?
いや、あの小山だ。
結局浪人して翌年合格したのか?
浪人はしていない。現役合格だ。
補欠合格か?
国立大学に補欠合格は無い。
裏口か?
小山の家庭には裏口入学をする程の金も無ければコネも無い。そもそも、裏口入学は私立のみ。
追加合格か?
国立大学には追加合格というシステムがある。何故なら国立大学でも入学辞退者は結構いるからだ。もちろん、大学側もそういう事情も踏まえて多めに合格にしているが、それ以上の辞退者が出た場合に追加合格者をとる。西京大学でも追加合格制度はあるのだが、日本で2番目と言われる大学なので入学辞退率は低く、毎年10名程度。なので基本、追加合格者はゼロだ。
  だが2年前、西京大学の入試問題にミスがあった。その為、その問題が正解であれば、合格だったであろう20人が追加合格となった。その内の1人が小山だったのだ。本当にギリギリのところで滑り込んでいた。

  刹那の正義感が強い為、先輩だからと言って、そういう事をさせるのを嫌うというのを小山は知っているので、いつも、刹那が出ていった後、唐沢に命令する。今までもずっと続けてきた事だったが、3分程度の事なので、刹那が気付く事は無かった。だが、今日は刹那がタオルを落としたので、戻って来て気付いてしまった。

「あれ?  唐沢……。今日って J グループだったっけ?  ええっと……Eだよな?」
「……」
刹那が唐沢を見るとバツの悪そうな顔をしている。
「ん?  まさか……」
刹那は E グループなら小山が絡んでいると瞬時に判断し小山に話し掛ける。
「小山さん。今日って E グループ担当ですよね?」
「ああ、唐沢がやってくれるって言うからな。なあ!  唐沢!」
「ええ、任せてください」
「いやいや、ふざけるなよ。お前がさせてるんだろ!」
「お前?!  誰に言ってんだ?!  シバくぞ!」
「やってみろよ!  よし、今から試合だな。掛かって来いよ!  ほら!」
「チッ」
小山は体育館を出ようとしたが、刹那が襟首を掴んだ。
「どこに行くんだ?  片付けだろ?」
「離せよ!  もう終わってるだろ!」
小山は刹那の手を振りほどく。2人が揉めている間に唐沢を含めた1年生が片付けを終えていた。小山は何事も無かったかのように体育館を出た。そして、唐沢は刹那に話し掛ける。
「時雨やめてくれよ~。ちょっとの事なんだから……」
「そうだな…?。悪かったな」
「まあ、時雨が悪い訳じゃないけどよ~」

  もちろん、今回のような事は氷山の一角だ。唐沢が小山にパシりとして使われるのは日常茶飯事。それぐらい体育会系なら普通じゃないか?  という古いタイプの人達でも、駄目だ、という事もしている。金の無心だ。小山は唐沢にお金を貸してくれと幾度となく頼む。もちろん返す気は無い。いや、厳密に言えば、最初に借りた1,000円だけは直ぐに返している。1度でも返しておけば、返す気が無かったとも指摘しづらい。これは、やり口が汚い。唐沢の父は社長なので唐沢も多少金には余裕があるが、少額とは言え、いつも集られるので、既に合計金額は10万円を優に越えていた。
  刹那はその現場を目撃した事は無いが、何となくそうなんじゃないか?  という疑問を持っていた。

  刹那は西京大学から徒歩10分ぐらいの 1K のアパートで1人暮らしだ。帰宅途中、人通りの少ない路地がある。刹那は薄暗い中、1人の男性が立っているのに気が付いた。小山だ。刹那が話し掛ける。
「どうした?  試合するのか?」
「ああ、先輩の力を見せつけとこうと思ったんだわ」
刹那は荷物を地面に置き、話す。
「じゃあ、ルールは顔面無しで良いな?」
「何でお前が決めるんだよ」
「じゃあ、決めてくれ」
「何でもありに決まってるだろ~!」
小山は、がむしゃらに突進してきた。
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