嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

文字の大きさ
43 / 53

名探偵永遠 3

しおりを挟む
  分かった!  生きている老人を2階へ運ぶ事なんて簡単だ!  自分で歩いて行ってもらえば良いだけだ。この仮説で考えよう。殺害するチャンスはあったか?  執事さんが1人で1分以上部屋に入ったのは……。あった!  確か脅迫文の犯行予告時間の0時頃に1人で王の部屋に入っていた!  あの時、なんでワザワザ部屋に入るんだと思っていたけど、皆が見ている中、堂々と犯行を行なっていたのか!  あっ、そう言えば、ギギギって嫌な音がしていた!  あれは、ピアノ線の軋む音だ!  そうだ!  執事さんの部屋から大きめの音でクラシックが流れて来ていた!  目覚まし代わりとか何とか言って誤魔化していたけど、ピアノ線の軋む音を隠す為だったのか!  一気に繋がった。間違い無い!  執事さんの単独犯だ!  あとは、いつ移動したか……。

  俺は再び目を閉じて考える。

  絶対に無理だ!  執事さんの単独犯で考えると、土曜日の午後3時以降は、必ず誰かが監視していたから不可能だ。普通に考えれば不可能だけど、俺には執事さんの単独犯だと言う事が分かっている。その条件が揃っているなら簡単だ。土曜日の午後3時以前に移動させたんだ!  そうなると、土曜日の午後3時頃、皆で見た王は偽物だったと言う事だ!  あの時、執事さんは無駄に部屋のドアを全開にした。あれは全員に王の姿を確認させる為だ!  そもそも、50畳ぐらいある部屋で、ベッドがドアを開けて見える位置に置かれているのは不自然だ。皆に見せる為だけに、あの位置にベッドを移動させたんだ。俺達が見たのは王の後頭部だけ。あんなものはマネキンか何かにカツラでも被せておけばいい。あの部屋に移動させたのは金曜なのか土曜の午前中なのか……。そうなると半日以上、生きたまま、あの部屋に居た事になる。ちょっと無理があるか?  そうなると、俺達が来た時からピアノ線が張っていたという事になるからドアが開けれないのか?  ええっと……いや、1階の王の部屋の中までピアノ線を入れてさえいればドアは開けられる。ただ、ずっと2階の部屋に居たのなら音でバレるんじゃないか?  ロープでぐるぐる巻きにしてるから可能か?  口にテープもしていた。ただ、口を閉じていても、少しなら音を出せる。あっ!  だから、館の中には常にクラシックが流れていたのか!  その音で、王が音を出しても気付き難くしたんだな。暴れたり出来ないか?  あっ!  その為の空気の椅子か!  まあ、老人にそこまで暴れる力があるとも思わないけど、暴れても音が出にくい様に空気の椅子に縛っていたのか!  全て分かってしまった……。

「ふーーー!」
俺は大きく溜め息をついた。やっぱり刹那は凄い。俺がこれだけ悩んでようやく答えに辿り着いたというのに、刹那は俺が考えるのを始める前から答えが分かっていた。マラソンでシード選手は前からスタートして、一般参加は後ろからスタートの大会がよくあるけど、一般参加の俺がスタートラインを越える前にシード選手の刹那はゴールしていたって話だ。

カチャ、ガチャ……バタン
  俺は部屋を出て刹那の部屋へ向かう。

コンコン
「刹那!  永遠だ!  入れてくれ!  話がある!」
ガチャ
「どうしたんだ?」
「部屋の中で話がしたい」
「分かった」
俺は刹那の部屋に入った。
バタン
  刹那は俺を部屋に招き入れた後、俺を見ずに言う。
「説得しに来たのか?」
「いや、俺にも今回の事件の真相が分かったよ」
刹那は俺の言っている意味が分からないという顔をした。それもその筈、誰もが思うだろう。お馬鹿な俺が、西大生も解けていない謎を解ける筈が無いと。
「犯人は執事さんの単独犯だったんだな」
「執事さんが犯人?  永遠の推理を聞くよ」
刹那は俺が当てずっぽうで言っている可能性の方が高いと思ったのか、平静を保ったまましらばっくれている。俺は刹那に自分の推理を全て伝えた。
○午後3時頃皆で見た王は偽物だった事。
○ピアノ線の傷があった事。
○0時に王の部屋から遠隔で2階の真ん中の部屋に居る王を絞殺した事。
○ロープの隙間からピアノ線を通してロープで絞殺したように見せかけた事。
○消臭剤で失禁の臭いを消した事。

「どうだ?  間違っているか?」
「……いや、合っている。どうやら俺は永遠を見くびっていた様だな」
「お馬鹿でもやる時はやるだろ?  刹那が犯人を庇ったのは、アイツらへの仕返しの準備をしてもらったという借りが執事さんにあったからだったんだな?」
「いや、違うんだ」
「ん?」
「仕返しの準備をしてくれたのは、あの人じゃないんだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...