嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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憧憬

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午後1時

  俺と刹那はファミレスで食事をしていた。これが生まれて初めて、2人っきりでの食事だった。俺が話す。
「でも、壮絶な2日間だったな。初めての経験ばっかりだったし……良い事も悪い事も……」
「そう言えば、どうして永遠は今回の護衛の話を知ったんだ?  もしかして坂井さんと知り合いなのか?」
「いや、坂井さんって人が俺の先輩の山田さんって人と友達らしいんだ」
「そうか、とにかく坂井さんにも天誅を下さないといけないからな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は山田さんから坂井さんは良い人だって聞いてる。気が弱くてリンチとか出来ない筈だ。本当に坂井さんはその場に居たのか?」
「ああ、しっかり見た。……いや……でも、殴られた訳じゃないし……もしかして、止めに来てくれてたのかも」
「多分そうだよ!  いや、そうじゃないにしても、天誅とか物騒な事やめとけよ。刹那にとって得が無いし」
「俺の損得勘定で動いてる訳じゃ無いからな。とにかく、坂井さんの事は確かに永遠の言う通りかも知れない。リンチに加担するタイプじゃないな」
「誤解が解けて良かったよ。そう言えば刹那は昔からイジメと言うか、そういう行為を嫌っていたよな」
「ああ、特に多対1なんて最低の行為だと思う」
「そうだな。そう言えば、高校時代、俺の先輩にもイジメに過剰反応を示す人がいたよ。あっ!  思い出した。そう言えば、刹那がスパイダーマンの時の黒帯の刺繍《ししゅう》……。郷原さんと同じだ」
「永遠は郷原を知っているのか?!」
「えっ?!  刹那の知り合い?!  あっ、そうか、同級生だ」
「世間は狭いな。……そうか……懐かしいな」

  刹那は郷原との話を俺にする。
  小学校でのイジメの件
  中学校での万引きの件
  中学卒業の日の勝負の件

「俺の黒帯は郷原と交換した物なんだよ」
「そうか、郷原さんは刹那と交換した帯に、自分の帯と同じ刺繍を施したのか」
「なるほどな……。でも、空手をやめて柔道に進んだお陰でインターハイ全国準優勝したんだからな。俺もその栄光に貢献できたと思うと嬉しいよ」
「でも、折角バイト代10万円貰えると思っていたのにパアか~。ショックだな……」
「永遠には俺から10万円渡すよ」
「えっ?!」
「元々、俺が企画したバイト話だからな」
「それは、さすがに遠慮しとくよ。刹那に返さないといけないものが増えるのは嫌だしな」
「別に何も貸して無いぞ」
「いや……俺は今まで、出来の良い刹那への嫉妬で、刹那から兄弟としての大切な時間を奪ってしまった……。俺は柔道で日本一になったから、刹那の事は嫉妬する兄ではなく、憧れの兄へ変わったんだ。これからは兄弟としての時間を返していくよ」
「そうか……。今まで俺のせいで永遠に肩身の狭い思いをさせてしまってすまない」
「いや、刹那のせいじゃないけどな」
「勉強だったらいつでも教えられるぞ」
「そうだな、提出物は手伝って貰おうかな。それより、1度ぐらい刹那に何かで勝ちたいなあ。今まで1度も勝負して勝った事が無いからな」
「じゃあ、今度柔道の勝負でもするか」
「そうだな、刹那に1度でも勝てれば自信に繋がる……いや、やめておこう……。万が一負けるような事があったら、2度と立ち直れない」
「ははは、全国チャンピオンには勝てないさ」

◆心理学用語に『サーカスの象』というものがある。サーカスの象は地面に打ち込んだ杭に鎖で繋がれている。ただ、象の力なら引き抜けるので意味が無いように見える。象が飼い慣らされて逃げないのであれば鎖なんて必要無いし、逃げるのであれば杭程度では意味が無い。では何故、そのような事をするのかと言うと、象は子供の頃に逃げ出そうと何度も試して無理だと分かったので、大人になってもダメだと思い込んでいるのだ。
  永遠も同じとまでは言わないが、小さい頃から刹那に負け続けているので、柔道でも負けるのでは?  と僅かながら、本当に思ってしまうのだった。◆
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