妖のツガイ

えい

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大妖怪の番※

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 蓮はただ静かに釣りがしたいだけだった。毎日場所を変えてはいるのに、人間か、妖かそのどちらかに見つかる。
 
「大将の番殿、こちらにおりましたか!実は陽ニ山の麓で呪詛石が見つかりまして、大将に御目通りを……」
「子が病にかかり、祓っていただきたく」
「先日妖魔が……」
 
 皆困っているのはわかった。どうにかして宵藍に願いを聞いてほしいということも、わかった。
 
(宵藍は何でも屋かな?)
 
 連日の騒ぎに、宝凛はドンと構えた。
 
「呪詛払い、妖魔退治であれば緋妖館火焔に言え。病に関しては宝家へ。番は伝来じゃない!いちいち大師父を呼び立てようとするなこのクズ共が!」
 
 横では七生が妖魔を倒したところで、剣を構えて殺気を放っていた。
 釣れそうな時に邪魔されるので、蓮は困ったように笑った。
 
「また、逃げちゃったね」
「ほんと、すまねぇ、蓮」
「つーかなんであいつら蓮に言うんだよ。藍仙郷にはちゃんと窓口があるだろうが」
 
 蓮はふふふと笑った。
 
「宵藍に言えばなんでも解決してくれると思ってるんじゃない?わからなくもないよ」
 
 蓮は釣り道具をしまい、竿を肩に担いだ。
 
「裏道からもどろうかな。藍仙横切ると、視線が痛いというか、やっぱりジロジロ見られるのは慣れないよ」
「わざわざお祝いの挨拶しにくるバカもいるしな」
 
 人は権力にほとほと弱い。
 
「妖魔も格段に減りはしたけど、知能の足りてないやつは蓮のにおいに釣られて寄ってくる。普通はここまで大将の気があるなら、逃げていくんだが」
 
 七生が言うには、今の蓮は宵藍の気配がするらしい。だから大抵の妖は宵藍と蓮が番となったことが見るまでもなくわかると言う。宵藍を知らないやつがいたとしてもバリバリの大妖怪の気配だ。恐ろしくて近づきたくない、となるようだ。ついでに言うと「マーキングがひでぇ」らしい。
 それはそうだ。ほぼ毎日気を食われていて、ほぼ毎日気を受け入れてる。一度正面から「毎日する意味はあるのか?」と聞いたところ、「人間は毎日飯を食べるだろう。それと同じようなものだ」と軽く言われてしまい蓮も「なるほど」となってしまった。実際、毎日する必要がなくとも、宵藍の様子からするに全く譲る気はないようで、蓮は諦めるしかない。
 蓮が宵藍の番になったことで、人間は祝い、妖は目を伏せた。その違いが面白い。宝凛が「おめでたいじゃないか!」と喜んだのに大した七生が「よかった。よかったんだよな?」と微妙な空気を作り、かつ、それ以降ずっとピリピリしているのだ。
 
「すまねぇ、蓮が悪いわけじゃねぇけど、大将の気配がして落ちつかねぇんだ。俺だけじゃねぇよ。他の妖仙も蓮を前にすると背筋が伸びるだろ?」
「そうかな?火焔さんは変わらないよ」
「アイツは別枠だ」
 
 七生がズバっと言い放ったあとに、いいか?と念を押す。
 
「今のお前は存在自体が魔除けだ。でもな、それを破ろうとするやつだって出てくる」
「わかったよ。気をつける」
 
 軽い調子で言う蓮に目を細めた。
 
「あぁ、できれば、知らない妖には近づいて欲しくないかな。七生は半妖だからかな、全然大丈夫なんだけど、他はね」
 
 少し気持ちが悪い。と呟いた。

 

 宵藍は蓮がウトウトと眠くなる頃に現れる。眠い上にどこか安心してしまい、余計気が緩んでいるので、頬や額や口に啄むように口付けされても、まぁいいかと受け入れていた。
 
「もう少し早く帰ってくれると、拙は嬉しいんだけど。遅いし、眠いし、こうなると話せないよ、ふぁあ」
「話し?――あぁ、そうだったな。お前はよく話す。それが心地良い」
「宵藍はあまり会話してくれないけどね」
 
 宵藍は蓮を膝に乗せて、蓮の頬を撫でる。
 
「我に、話したいことがあるなら言うと良い」
「ん。じゃあ、少しだけ。……妖仙たち、拙を見ると目の色変わる。それが不快。七生もずっとなんか悩んでるみたいだし。火焔さんは変わらないけど。……どうすれば良い?……七生とは友だちでいたいんだ」
「――ふむ。我の番になったことでの影響か」
 
 宵藍は蓮の腕や脚についている魔除けを手に取り、術を唱えた後に戻した。
 
「何したの」
「お前の中にある我の気配を悟られぬようにした。妖からはただの人間に映る」
「それって、危険?」
「お前なら問題ないだろう。なにかあったら我を呼べ」
「ん、わかった。これで七生がピリピリしなきゃ良いんだけど。……ピリピリしてても可愛いけどね。こう、懐かない猫みたいで」
「そうか」
「うん」
 
 宵藍が肌を撫でていく。最初はわけもわからぬまま交尾したものの、何度か肌を重ねると蓮の身体がわかってきたのか、撫でて様子を見ながら交わる。触られていると、どうして良いかわからなくなり蓮は眉を寄せて呻いた。
 
「囀るのは終わりか?」
「さえずるって、拙は鳥じゃない……」
「気を悪くしたか。すまないな」
 
 頬に首にと口付けされ、胸の突起に触れられる。「ひゃあ」と声を上げれば、目を細める。片方を指であやされ、片方を舌で転がされた。薄紅色のそれが触られて濃くなり、敏感になる。そうなると少し触れられただけで、声が止まらなくなるので、塞げば不思議そうな顔をされた。
 
「お前の囀りを聞かせてはくれないのか?」
「だ、か、らぁ……拙は鳥じゃ……ひぅっ……んっ……も、やだぁ」
「嫌ならやめるが、口で言うほど嫌がってないはずだ。お前の眼は良さそうにしている」
「ずる、ぃ、あ、しょうらん、濡れる……ぬれるから」
 
 触られると、後腔が濡れる。我慢など出来ず勝手に蜜が漏れ出て下肢を濡らすのだ。たまらず、足を浮かせた蓮に目を細めて、要望通りに蜜壷を指であやす。
 
「ん、ん、ゆび」
「指だな。快さそうに食いついてくる」
 
 蓮の赤味を帯びた瞳を見ながら、慎重に蓮の理性を剥がしていく。息を乱して、身をよじった蓮は手探りで宵藍の雄に触れる。
 
「拙、もう少し色事、まじめに、練習しておけばよかった」
「…………練習、とは?」
「兄さんや姉さんたちがしてるの見てはいたんだけど。拙、こういうの苦手で、逃げてたんだよ。もう少しちゃんと、覚えておけば良かったなって……ひゃあっ」
 
 宵藍は蓮の弱いところを指で押しつぶす。
 
「お前は、何を言ってるかわかっているか?」
「?ん、んっ、拙の、もうこんななのに、宵藍の全然なんだもの……上手なほうがいいでしょ?――や……そこ、つよくしないっ、いく、いくっ」
 
 薄い白濁を零した蓮は、宵藍の上に力なく寄りかかった。達した余韻で呼吸を乱しているので、宵藍はそれが整うまで待った。
 
「……なに、怒ったの?」
「怒ってはいない。が、気に食わん。他の雄のにおいをさせるな」
「練習だって。しかもしてないし。拙ほんと、こういうの無理だったのに」
「他の雄は、断じて許さない」
「ん、拙、宵藍以外、受け付けないからだいじょうぶ」
 
 機嫌を取るように、眼を合わせてから、舌で宵藍の口を舐める。結んでいた口を緩めれば、舌が入ってきた。宵藍の雄を撫でて、自ら後ろに当てがう。
 
「おなか、切ないから、はやく、いれよう?」
「……お前は練習など必要ないように思うぞ」
 
 可愛らしく強請ってきた番に、宵藍は呆れ、蓮が指を使い育てた雄で奥まで貫いた。



 七生が鼻をくんくんと動かして、首を傾げる。
 
「大将の気配がなくなった?」
「気にしてたでしょう?だから、消してくれたらしい。消したというか誤魔化した、かな」
「ないはないで、危険そうだ。ただの人間の気配か。いや、俺からすると少し違和感はあるんだが、初対面の奴なら誤魔化されそうだな。それで平気なのか?」
「宵藍が、大丈夫だろうって。七生と宝凛がいるから大丈夫、ね?」
 
 宝凛は鼻で笑う。
 
「どうせ、七生のせいだろ。コイツがそわそわしてるから。これで変な奴に付き纏われたらどうすんだよ」
「大丈夫、大丈夫。拙は平気。七生と普通にお喋りしたいし」
 
 ふふんと笑う蓮を七生は見上げる。
 
「すまねぇな。ほんと。俺も蓮の側にはいたかったから。無理をさせてたら申し訳ねぇ」
「七生かわいい」
「おい、こらひっつくな」
 
 宝凛は呆れた。
 
「そういうの、浮気って言われないのか?」
「大丈夫。七生は友達。宝凛もね」
「友達つーか、護衛なんだが、一応」
 
 ともあれ、七生との問題は解消された。
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