妖のツガイ

えい

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青ウサギと七色の眼(氷雨とハクノ編)

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 藍仙郷では奇異な目で見られることも多かったが、あの氷雨様の番であればと受け入れられる。
 火焔が用意した部屋は子を育てるのには充分な大きさがあって感謝したが、1人だと寂しくて泣きそうになった。
 ハクノは一人で生みはしたものの、氷雨の気配はずっとあるので不安にはならなかった。
 子ウサギが3匹。2匹は健康で丈夫だった。けれど1匹は衰弱していた。ハクノは必死に、そして冷静に栄養を与えて温めた。兎は弱い。1匹くらい諦めても、と言われる中、ハクノは諦めなかった。その甲斐もあり、一命を取り留める。
 上の2匹はよく喧嘩していたが、ハクノが間に入れば落ち着いた。けして、ハクノを傷つけることはなく、健やかに育つ。2匹は数ヶ月で人型が取れるようになり、衰弱していた3匹目も遅れて人型が取れるようになって、ハクノはほっとした。ちょうどその時に氷雨に呼ばれたので、3匹を乳母に預けて氷雨のところへと戻った。
 思ったより、時間がかかった。それに手が離せなかった。子どもを育てるのは大変でうまくいかないことばかりだ。怒られるかと思いながら顔を見せたのだが、氷雨は「お帰りなさい」と穏やかな様子で、好きが溢れてしまった。「旦那様、旦那様」と泣きじゃくるハクノに、氷雨は寄り添って撫でた。

「わたくしは、旦那様が好きです。寂しゅうございました」
「知ってるよ。でも、子を育てると言ったのは貴方だから、きっと諦めないだろうと見てたよ。よくがんばったね」
「はい、はい。はじめて、旦那様や他の妖様のように術が使えれば良いと、何度も思いました。怪我をしても治せないのは悔しゅうございました。一番下の子は、全然眼が開かなくて、歩けなくて、死んでしまうかと思って、怖かったです」
「貴方はできる限りのことをしたでしょう。だから、生きていた。ハクノさんが悲しむことはなにも起きてない」
「はやく旦那様にもお見せしたいのです。ふわふわで、可愛らしくて。旦那様に似ているお耳なのです。ひとりは垂れていて……あ、わたくしせっかく旦那様にお会いできたのに、子どもたちの話ばかりでした。旦那様はおかわりありませんか?」
「ええ。かわりはないです。いいのですよ。あなたがちゃんと元気で健康でいていただけばそれで。私をその両眼で見てくだされば、疲れが飛びます」
「では今日はずっと旦那様を見ております。ですので、ハクノを可愛がってくださいまし」

 我慢していたわけではない。子育てに忙殺されていただけのこと。たまにこっそり蜜壷に手を伸ばしたが、虚しくなっただけだった。だから氷雨を見れば一目で欲情して、たくさん欲しくなってしまう。
 氷雨も「わかっています」と紳士的な態度ではいたが、膨らみは正直で、今すぐにハクノと交わりたいと全身で言っている。

「ハクノのここ、久しぶりなので、狭いかもしれません」
「気にしなくていいです。ゆっくりいたしましょう」

 口づけして、全身確かめるように撫でられて、前も後ろも蜜を溢れさせるまで、入れてはもらえなかった。やっとのことで、雄を受け入れて、形を確かめるように締め付けた。

「狭くはあるのですが、奥は柔らかいので、これはこれで良いですね」
「ハクノも、きもちいです。あ、あ、ぁっっ」
「――ハクノさん、私は少し悩んでいます。私の気で貴方の中を満たしたい気持ちと、孕んだらまた子どもたちに私のハクノさんが奪われてしまうなと」
「ハクノはたくさん旦那様の子がほしいです。でもハクノの一番は氷雨様です。子どもたちもすきですが、誰よりも氷雨様が大好きなのです」

 ぎゅうとしがみつくハクノに、氷雨は笑って背中を撫でた。



 あれから何年経っただろうか。
 ハクノはたくさん氷雨に愛されて、たくさん子を生んだ。ハクノの一番はずっと氷雨だ。氷雨は境界を守護する役目を変わらず続けている。ハクノが育てる子は妖兎ととは思えないほど、愛情に溢れていた。そして皆、ハクノが大好きで、氷雨を尊敬している。

「お母様」
「どうしましたか、翠雨」

 最初の時に衰弱していた三番目の子も、立派に成妖となった。身体はそれほど強いとは言えず、兄と姉とは違い戦いを好まないので自分の手元に残している。幸い、術の使い手としては兄弟一である。
 おっとりした性格で心優しい翠雨は末の兄弟たちを寝かしつけた後にハクノを呼びにきた。

「お母様、お気づきだと思うのですが、空と大地が震えました。春雷大聖様のお加減がよろしくないご様子ではございますが、吉報も。大聖様が人の子を連れてきたようです。わたしはその様子をみておりましたが、大聖様に気づかれてしまいまして……少し弱っているように思いましたので、今度滋養のあるものをお持ちした方が良いかと思いました」
「貴方の眼は本当に優秀ですね。でもあまり見すぎるのはよくないです。大聖様に関しては、なおのこと。大聖様の宝であればわたくしたちの宝に同じ。わかりました。わたくしめがなんとかしましょう。番になることに不安がないとは言い切れませんから」
「お母様も、お父様と一緒になるときは不安だったのですか?」
「わたくしの場合は、なってからの方が不安でした。もう一人ぼっちには戻りたくありませんでしたし。今はたくさんの子に囲まれております。あなた方のお父様は変わらずわたくしを見てくださるので、大丈夫です。旦那様とわたくしの大切な子たちが怪我なく健康であればわたくしは十分です」

 ハクノはそう言ってお腹をさすった。
 翠雨は笑って、ハクノの手を取る。

「翠雨は、お母様がいなければ死んでおりました。何人かの弟や妹たちもそうです。生きることが当たり前ではないわたしたちを生かしてくれたお母様がみんな大好きなのです」
「大好きだと、言ってもらえる母は幸せですね」

 ハクノは穏やかに笑って、辺境の地のある方角を見た。
 どうかこの幸せが続くことを願いながら。



 旦那様へ。
 旦那様、本日生まれました。ハクノは元気です。子どもたちも元気に生まれてくださいました。実は今日大聖……旦那様にとっては大将でございますね……の番になられるだろう方がいらっしゃいました。それはそれは綺麗で、芯のある、優しい方にございます。存在するだけでなにか、こう力を秘めた方なのですね。どうか、わたくしたちの故郷に平穏をもたらしてくれることを祈ります。
 ハクノ。
 はやく、旦那様にお会いしたいです。
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