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あれから、なんとなくぎこちない電話やLINEを何度かしたのだが、その時に唯継から「明日迎えに行くよ」のいつもの言葉がないことに俺は落ち込んだ。

いや、まあ、この間の『土田ちゃんAFグッズ事件』(AF=アナルファック)からまだ3日しか経ってないんだけどね。でもいつもならそろそろその言葉をくれるタイミングなんだ。だから俺は焦ってて。早く唯継んちに行ってちゃんと仲直りして、今度こそ唯継の初めてを優しく二人で迎えたい。まあ唯継の初めてっていうか俺も初めてだけど。

気持ちを切り替えて、あっちからこないならこっちから行くまで、とLINEに『また唯継んち行っていい?』って送ったのが昨日の夜。

けどそれから朝になっても既読がつかない。

そのことに今、俺は図書館の本棚に返却された本をこつこつ戻しながら猛烈に胸を痛めている。

こんなこと今までなかった。唯継はちゃんと仕事してんのか?と言いたくなるくらい俺のメッセージに即レスくれてたし、あのAFグッズ事件のあともちゃんと返事をくれてた。

まあ、なんかの退きならない事情でもあったんだろうと思ったのだが、時間が経てば経つほどにどんどん胸に不安が溜まっていく。

唯継はあんなに美形だし俺のことなんてちょっとした遊びだったんだろうとか、だからこの3日間で他の可愛い女の子と知り合ったのか?とか、女の子じゃなくて男かも知れないとか、もうそれとも俺のこと嫌になっちゃったのか?とか、だから他の子と昨日の夜は遊んでたりしてて連絡が来ないのか?とか、似たようなことをぐだぐだぐだぐだ以下ループ。

いつもはリュックに入ったままロッカーに入っぱなしのスマホも気になってよれよれのちまむらパンツのポケットに入れてる。

あ、余談ですが、俺は髪の毛はきちんと短く整えてるようになったものの、それ以外は以前のちまむらファッションに戻りました。まあもともとそれ系の服しか持ってないし。姉ちゃんがたまに服買いに行こうとうるさくなったが、めんどいのでそこは無視。

仕事終わり、結局鳴らなかったスマホを片手にため息吐きながら帰り道をとぼとぼ歩く。

胸につかえてんのは俺に飽きちゃったり、他の誰かと一緒にいるかも知れないって不安だけじゃない。

リュックの中身をちゃんと言えばよかったって後悔もだ。たしかに俺はかっこよく初めての夜を演出したくて、決して唯継が不機嫌になってもその中身のことを言わなかった。

まあ言えるわけないよな?普通あの状況であの中身は見せられないだろう?

でも唯継からしてみれば恋人から隠し事されてんのと一緒だ。俺は焦って自分のことばかり考えてた。そこは反省。

だからちゃんともう一度唯継と話がしたい。スマホを取り出し電話を掛けようとタップしようとしたら、逆にスマホが震えた。唯継だ。

「も、もしもし‥!」

俺はワンコールで即出る。そしたらいつもの唯継で「もも」って柔らかく呼んでくれるから胸がぎゅむむっ、って押しつぶされそうなくらい苦しくなった。

「ごめんね、もも。連絡出来なくて。もも、今どこ?」

「え、もうすぐ家だけど」

「じゃあすぐに迎えに行っていい?一緒に来てほしいところがあるんだ」

俺がうなずくと詳しい話は車の中でするねって言って電話を切った。

よくわからないけど唯継はちょっと忙しかったみたいだ。それにこれから俺をどこかに連れてこうとしてる。

どこだろう。でもとにかく俺もこの間の誤解を解いておきたい。二人の間に内緒事なんて無しだからな!

俺は走って家に帰るとクローゼットの奥の奥の方に仕舞ってある厚手のビニールのショップバッグに入れておいた例のグッズを取り出し、リュックに詰めた。

これが土田ちゃんからのプレゼントだったって恥ずかしがらずに見せよう。(正確には土田ちゃんからのプレゼントではないが)

再びスマホが鳴り、窓から外を見れば玄関前に黒塗りの外車が。唯継だ。

すぐに下に降りると車の外で待っていた唯継の姿に俺はじいんとなる。うう、そんで唯継やっぱ改めてかっこいい。

こんなかっこいい唯継だから他に素敵な人がすぐに出来たりするのも当然だよな、って連絡がない間ずっともやもやしてたからこうやって会いに来てくれたことが嬉しくて仕方ない。

唯継に俺のこと好き?って確かめたい。まだ俺のこと好きでいてくれてるって聞きたい。

ああ、唯継もこの前俺が隠したプレゼントを何んなのかを知りたがった時、好きって言わせたがってた。唯継もこんな気持ちだったのかな‥。

胸がきゅんきゅんするよ。唯継。

急いで家の階段を降り、玄関を飛び出すと、唯継の車に乗り込んだ。俺は運転手さんの目も憚らず唯継にキスした。ごめん唯継。そんで好き。

俺のいつもと違う大胆な行動に唯継はちょっとびっくりした顔をしてたけどふっ、と表情を崩すと俺にキスを返してきた。

俺と唯継は何度も何度も軽いキスをちゅっちゅっと繰り返す。俺がしたら唯継、唯継がしたら俺。終わらない。

今すぐにでもディープなやつをやっちゃいたい気分だけど、なんとか運転手さんがいるからってなけなしの理性でとどめる。

しばらく気の済むまでキスをくり返し、ようやく辺りを見回す余裕ができるようになった俺はいつのまにか車は高速に乗っていることに気づく。そういえば今日は唯継は私服だ。いくら大して仕事もしてない唯継でも平日はいつもスーツを着ているのに。

「唯継、どこいくの?」

唯継は名残惜しそうに俺の頬を撫でながら口を開いた。

「病院」

病院?


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