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「教授!教授!!きょうじゅうううう」
バッティングセンターでバッドを振り回しながら叫んでいるのは笹山くんだ。
あれから笹山くんは俺のアドバイス通り、押してもダメなら引いてみる作戦で教授の気を引こうとしたらしいのだが、失敗したらしく、逆に「何か不満があるならきちんと言葉にして気持ちを伝えなさい」と切々と説教されたらしい。笹山くんは教授といちゃいちゃしたかっただけなのに悲しすぎる展開だ。
それでスカッと気分を変えようって話になって一緒に遊びに来た。
「でも好きっ‥!」
って強い言葉と共に笹山くんの大きく振ったバッドにみしりとボールが当たった。ナイスホームラン。
「さすが元柔道部。パワー計り知れない」
「とんでもないです」
笹山くんは照れながら頭をかく。額に光る汗が眩しいよ。
「汗かいちゃいました。そうだ、ここらへんに銭湯あるんでついでに汗流しません?そのあと居酒屋行ったらたまんないですよ」
笹山くんがぐいっとビールを呷る仕草をする。
銭湯の後のビール‥!!
俺は二つ返事でうなずいた。楽しすぎる提案に球にかすりもしないバッドを懸命に振り回しながら、うきうきとその後の銭湯とビールに備えた。
バッティングセンターから歩いて少し、繁華街の小道の雑多なビルの中にある狭い入り口の銭湯に着いた。中は思ったよりもきれいだ。番台に代金を払い、脱衣場で着替えていると笹山くんが俺の身体を見て、ぽそっと漏らした。
「‥えぐ」
え。まあ柔道部だった笹山くんの丸みのあるしっかりした筋肉のついた身体と、帰宅部でなんもしてなかった身体を比べればそりゃかなりの差があるだろうけど、そんなに貧弱?
内心しょんぼりしながら、斜め横にある大きな姿見で俺は自分の身体を確認したら、俺の身体はえらいことになっていた。薄赤い斑点が身体のあちらこちらに散っていたのだ。これはどう考えてもキスマ‥!
俺は肌が白いから、さらにキスマが目立つ。犯人は唯継だ。そして俺は完全に昨日の(もしくはその前の分の)キスマのことなんて忘れていた。
「お、おおう‥!」
慌てて服で隠したが、しかしこれから風呂に入るというのに無駄な努力である。俺は顔を赤らめながらも観念して浴場に入った。だってお風呂の後のビール楽しみにしてたんだもん。
まだ夕方前の銭湯には一番風呂にきたおじいちゃんが一人、二人いるだけで利用客は少ない。俺はちょっとほっとする。お湯に浸かった身体は隠せるし、上がったら、ささっと洗って早く出よう。簡単に身体を流し、広く清潔な浴場に湯船に浸かると隣の笹山くんが小さなため息を吐いた。
「俺も教授から痕つけられたい」
笹山くんの教授に溜まった鬱憤を、うんうん聞いていると、笹山くんは俺をじっと見たあと小声で話しかけてきた。
「そういえば藤野さんってどっちですか」
どっちって、あれだよな?聞かれてんのは夜のポジション的なやつのことだよな。
「‥‥‥やられるほう」
笹山くんはそれ以上特に突っ込んで聞いてくることはなく「やっぱ、ですね」って独り言ちてるし、どうやら確認だったようだ。
「えー、笹山くんは?」
「俺もそっちです」
お、仲間。
風呂でリラックスしてることもあって、その事実に俺は気を許し笹山くんについ聞いてしまった。
「あのさー‥、笹山くんは逆はしたことある?ていうか‥童貞?」
「ああ、俺、女の人はナシですし、男性ともそっちの経験はないです」
「お、おおおう」
なか、仲間‥!
俺だけじゃないんだ!非処女童貞!!こんな巡り合わせ滅多にないんじゃないか?!笹山くんは今後おちんちんを使う予定はあるのか無いのか?!ちなみに俺は予定は無い。
「えー‥。そんなこと気にしたことなかったです。俺こっち好きだし」
そんなこと‥?今、そんなことって言ったの?
俺がくそほど気にしていたコンプは笹山くんに取っては取るに足らないことだったのだ。
「好きな人と一緒にいてくっつけるだけで幸せですよ」
まじか!!いま目からうろこだわ!!たしかに唯継と一緒に居られることのほうが大切なことだもんな!めっちゃいいこと笹山くんは言った。
ていうか、なんかあれだな。俺が笹山くんの相談に乗る立場だったのにいつのまにか逆になってるな。俺のアドバイスは空振りに終わっちゃうし、俺が笹山くんに尊敬の眼差しを浴びせてるし、どうしたこれ。まあいいか。
「藤野さん、あんなかっこいい恋人いるのに贅沢ですよ」
湯船に浸かり汗かきながら、にこにこ顔で笹山くんは言う。たしかに。もっとも過ぎるもっともである。俺は唯継にこれでもかってくらい愛されてるし、そんで笹山くんの言う通りこっち側はかなり気持ちがいい!他人から見れば俺の悩みは贅沢だったのだ!!俺は笹山くんとのやり取りで大切なことを気付かせてもらった。感謝。
あー、童貞コンプから解放されて俺はとっても気分がいい。よしよし。この後は居酒屋でキンキンに冷えて生ビールだ。
俺はうきうきで風呂から上がった。
バッティングセンターでバッドを振り回しながら叫んでいるのは笹山くんだ。
あれから笹山くんは俺のアドバイス通り、押してもダメなら引いてみる作戦で教授の気を引こうとしたらしいのだが、失敗したらしく、逆に「何か不満があるならきちんと言葉にして気持ちを伝えなさい」と切々と説教されたらしい。笹山くんは教授といちゃいちゃしたかっただけなのに悲しすぎる展開だ。
それでスカッと気分を変えようって話になって一緒に遊びに来た。
「でも好きっ‥!」
って強い言葉と共に笹山くんの大きく振ったバッドにみしりとボールが当たった。ナイスホームラン。
「さすが元柔道部。パワー計り知れない」
「とんでもないです」
笹山くんは照れながら頭をかく。額に光る汗が眩しいよ。
「汗かいちゃいました。そうだ、ここらへんに銭湯あるんでついでに汗流しません?そのあと居酒屋行ったらたまんないですよ」
笹山くんがぐいっとビールを呷る仕草をする。
銭湯の後のビール‥!!
俺は二つ返事でうなずいた。楽しすぎる提案に球にかすりもしないバッドを懸命に振り回しながら、うきうきとその後の銭湯とビールに備えた。
バッティングセンターから歩いて少し、繁華街の小道の雑多なビルの中にある狭い入り口の銭湯に着いた。中は思ったよりもきれいだ。番台に代金を払い、脱衣場で着替えていると笹山くんが俺の身体を見て、ぽそっと漏らした。
「‥えぐ」
え。まあ柔道部だった笹山くんの丸みのあるしっかりした筋肉のついた身体と、帰宅部でなんもしてなかった身体を比べればそりゃかなりの差があるだろうけど、そんなに貧弱?
内心しょんぼりしながら、斜め横にある大きな姿見で俺は自分の身体を確認したら、俺の身体はえらいことになっていた。薄赤い斑点が身体のあちらこちらに散っていたのだ。これはどう考えてもキスマ‥!
俺は肌が白いから、さらにキスマが目立つ。犯人は唯継だ。そして俺は完全に昨日の(もしくはその前の分の)キスマのことなんて忘れていた。
「お、おおう‥!」
慌てて服で隠したが、しかしこれから風呂に入るというのに無駄な努力である。俺は顔を赤らめながらも観念して浴場に入った。だってお風呂の後のビール楽しみにしてたんだもん。
まだ夕方前の銭湯には一番風呂にきたおじいちゃんが一人、二人いるだけで利用客は少ない。俺はちょっとほっとする。お湯に浸かった身体は隠せるし、上がったら、ささっと洗って早く出よう。簡単に身体を流し、広く清潔な浴場に湯船に浸かると隣の笹山くんが小さなため息を吐いた。
「俺も教授から痕つけられたい」
笹山くんの教授に溜まった鬱憤を、うんうん聞いていると、笹山くんは俺をじっと見たあと小声で話しかけてきた。
「そういえば藤野さんってどっちですか」
どっちって、あれだよな?聞かれてんのは夜のポジション的なやつのことだよな。
「‥‥‥やられるほう」
笹山くんはそれ以上特に突っ込んで聞いてくることはなく「やっぱ、ですね」って独り言ちてるし、どうやら確認だったようだ。
「えー、笹山くんは?」
「俺もそっちです」
お、仲間。
風呂でリラックスしてることもあって、その事実に俺は気を許し笹山くんについ聞いてしまった。
「あのさー‥、笹山くんは逆はしたことある?ていうか‥童貞?」
「ああ、俺、女の人はナシですし、男性ともそっちの経験はないです」
「お、おおおう」
なか、仲間‥!
俺だけじゃないんだ!非処女童貞!!こんな巡り合わせ滅多にないんじゃないか?!笹山くんは今後おちんちんを使う予定はあるのか無いのか?!ちなみに俺は予定は無い。
「えー‥。そんなこと気にしたことなかったです。俺こっち好きだし」
そんなこと‥?今、そんなことって言ったの?
俺がくそほど気にしていたコンプは笹山くんに取っては取るに足らないことだったのだ。
「好きな人と一緒にいてくっつけるだけで幸せですよ」
まじか!!いま目からうろこだわ!!たしかに唯継と一緒に居られることのほうが大切なことだもんな!めっちゃいいこと笹山くんは言った。
ていうか、なんかあれだな。俺が笹山くんの相談に乗る立場だったのにいつのまにか逆になってるな。俺のアドバイスは空振りに終わっちゃうし、俺が笹山くんに尊敬の眼差しを浴びせてるし、どうしたこれ。まあいいか。
「藤野さん、あんなかっこいい恋人いるのに贅沢ですよ」
湯船に浸かり汗かきながら、にこにこ顔で笹山くんは言う。たしかに。もっとも過ぎるもっともである。俺は唯継にこれでもかってくらい愛されてるし、そんで笹山くんの言う通りこっち側はかなり気持ちがいい!他人から見れば俺の悩みは贅沢だったのだ!!俺は笹山くんとのやり取りで大切なことを気付かせてもらった。感謝。
あー、童貞コンプから解放されて俺はとっても気分がいい。よしよし。この後は居酒屋でキンキンに冷えて生ビールだ。
俺はうきうきで風呂から上がった。
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