図書館は職場なので迫らないでください

ミネ

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酔っ払って大見得切った翌日、ちゃんと恋愛相談なんかできるか不安になって笹山くんに「やっぱり俺には荷が重い」って言おうと考えていたのだが、『周りに話せる人いないから藤野さんがいてくれると心強いです』とか『話聞いてくれて本当に感謝です』とかLINEに入ってきたりすると、断ることが出来ず、つい自信たっぷりの『まかせろ!』スタンプを連発してしまった。

しかも笹山くんの恋人って笹山くんが通ってる大学の教授なんだぜ。教授とかそんな人種関わったことないわ。さらに笹山くんが21歳で教授は45歳と言う年の差カプ。何をどう恋愛相談に乗ればいいのか、はっきり言って全くわからん。

さっそくLINEには『どうしたらもっといい雰囲気になれますかね?』とのメッセージが。どうやら笹山くんは教授ともっといちゃいちゃしたり、セックスの回数を増やしたりしたいそうなのだが、教授はそっけないらしい。

つうかさ、そんなのちょっとくっついてちょっと相手の腕とか首とかくすぐったりしてれば、向こうも耳とか脚とか触ってきていちゃいちゃできるだろ。そんでそのままいちゃいちゃやってればえちえちだって出来るんではないか?俺の経験上はそうである。

でも俺の経験相手って唯継しかいないからなあ。参考になるのか?これ。

ソファにあぐらをかいて、何と返信しようか真剣にスマホを見つめ考えていると、唯継が隣に腰掛けていつも通りべたべた触ったりキスしてきたりする。ほら、もういい感じじゃん。これで俺もいつもみたくキスをし返したりしてれば、そのうちやるしか選択肢は無くなるのだが‥。

「ため息ついてどうしたの?」

「べつに」

聞いてきた唯継にさっと俺はスマホを隠す。その行動に唯継はわずかに眉根を寄せた。なぜこそこそするのかって?そんなん決まってるだろ。本物の恋愛上級者であろう唯継の前で、酔っ払って、見栄張って、恋愛相談受けたことバレるのが恥ずかしいからだよ。

そっけない態度を取る俺に、つまらなそうな顔で唯継は頬を手の甲で撫でてくる。

「心配事?一緒に解決したいな」

「えー‥」

言うつもりないから適当に相槌をついてさっさと会話を終わらせた。それよりも笹山くんのこれどうやって解決したらいいんだ?俺はそのことで頭がいっぱいである。

心ここに在らずの俺に、不機嫌に眉を寄せつつ軽くキスしてきたりマッサージする振りしたりして「もも」「もも」って、ちょっかいを出し続けてくる唯継が邪魔くさい。

「いつ、ちょっと俺いま考えてんの」

密着する身体をぐいっと軽く押し退けると唯継はさらに不満そうな表情をあらわにしたが、そのまま黙って離れてくれた。

これで落ち着いて考えられる。俺は無い知恵をどうにか絞って『こっちがいつも愛情を示してるから安心しきってるのかもな。俺だったら逆に引いてみるな』とかやったこともないことをさも自信ありげに返す。

俺の右手のスマホはすぐに震え『参考にさせていただきます!』とのメッセージと『感動』という言葉のついた涙を流すキャラクターのスタンプが笹山くんから来た。おだてるような返信に俺はつい、くふふ、とにやけてしまった。

満足してスマホを置くと、待ってましたとばかりに隣で静かにタブレットを見ていた唯継がそばに寄り添ってきた。

「楽しそうだったね」

にやけ面を見てたのか、唯継の頬には大きく「誰?」って描いてあった。

「笹山くん」

答えれば興味があるのか無いのかわからない感じで「ふうん」と唯継は俺の肩に両腕を乗せしなだれかかる。

「この間の笹山くんとの食事楽しかった?今度は僕も連れてってよ。僕も話してみたいな」

大して笹山くんに興味を持っていないみたいだけど、なのになぜ会いたがる?てか、そんなことより唯継を笹山くんに会わせたら俺の存在霞むんじゃねえ?せっかく笹山くんというオアシスのようなキャラに出会ったというのに、もし笹山くんが唯継にも恋愛相談なんてし出したら俺の活躍できる場所取られちゃうじゃん。

「えー‥、考えとく」

言葉を濁すと唯継はさらにくぐっ、と両眉を寄せる。なんだよ。怒んなよ。そんなに笹山くんに会いたいのか?

「僕、いますっごくもものことぎゅってしたい」

眉間にしわ寄せて言うセリフか?ほんと唯継はたまに謎の行動を取る。でもまあ唯継がそういうなら好きなだけ抱かせてやろう。俺は両腕を開き「おいで」のポーズを取った。

「ん」

唯継は俺の細い背中にたくましい腕を回すと強く抱きしめてきた。

「もも、ももは僕のものだからね」

「うん」

俺はモノじゃねえけどな。そう思うけど唯継がすり寄ってきて甘えた声出すから、ここは素直に受け止めてやる。俺は唯継が怒っても、モノ扱いしてきても広い心で許す。好きだからな。

「俺はいつのものだよ」

ふふ。甘いセリフ言っちゃう俺。ちょっとかっこよくない?

「僕のものだからね」

急にトーンを真面目に変え、言い聞かせるようにくり返す唯継に少し俺はびびる。

「お、おう‥?」

唯継はその太い腕で俺を抱き上げると自分の膝の上に乗せた。俺は唯継に乗り掛かる体勢になる。

「絶対誰にも渡さないから」

圧倒されるような美しい顔できつく言われるとついついこっちも飲まれてうなずいてしまう。大体、唯継は元から優しい口調とは裏腹に有無を言わせぬ圧を出すのが得意だ。

というか、いったい誰に俺を渡すと言うのだ?俺には唯継しかいないのに。よくわからんが、なだめるように「わかった。そうだな、そうだな」って答えると唯継は俺の適当さに唇を尖らせながらも「絶対だよ」って念を押した。

俺は唯継のすね顔にきゅんとして見惚れながらうんうんとうなずいた。

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