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「おや?瀧くん、なんかそれすごくない?」

教室で同じ学部の女の子が、瀧の隣の席に座ると瀧の腕に嵌められた時計に興味を示した。

梅雨も明けそうな六月の終わり、大半の人たちは半袖で過ごすようになり、瀧もTシャツにボトムスを合わせたラフな出立ちをしているため、腕の時計は目立った。


「これ、プレゼント」

「へー!彼女?」

「うん婚約者」

「えっ、は?婚約?瀧くん、なに、マジ、それなにうそ」

瀧が恥ずかしそうに頷くと俄然女の子は食いついた。

「え、誰?いつ?」

「時期は決まってないけど、相手はロサニールの御曹司」

「ロサニール!?御曹司!?男!?」

「うん」

「‥‥なるほど。って、やつ、ね?つまりおリッチな女の人と付き合ってんだ!もー、別に隠さなくてもいーじゃーん」

正直に話したつもりだったが、答えをぼかしているのだと思われてしまった。別に無理にカミングアウトするつもりもないのでそのまま瀧は黙った。

「んで、その女の人に婚約者って言えって?」
そして女の子は密かに思う。
(牽制されてるうー)


ヒューと初めて深い繋がりを持ったその夜、彼に婚約指輪代わりに送った腕時計を毎日つけて欲しいともう一度お願いされた。

滅多にない彼の二度の要求を断ってしまうと、腕時計に込めたであろう婚約への思いを否定しているようで瀧は迷っていると、ヒューは会社へ出掛ける前に、腕時計のあるゲストルームに瀧を呼び、腕に嵌めてきた。

「時計のこと聞かれたら婚約者に貰ったって答えて」

そこに瀧はヒューの自分に対する独占欲を見た気がして胸が高鳴った。この時、聞かれたらちゃんと男の婚約者がいると伝えてもいいな、とさえ思った。

「自慢の婚約者だって言うよ」

瀧は微笑み、ヒューと出勤前にすると出勤できなくなりそうなキスを交わした。
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