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第二章 闘技大会編 前編

間話 少女の過去~悲しみを乗り越えて~

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 そこは小さな村だった。

「なぁお母さん、今日はメッケフライが喰いてぇ」
「いいわよ。それより全くあなたは……本当、お父さんみたいな話し方が好きね」
「そりゃそうだ、だって父ちゃんすげーつえぇしその方がかっこいいじゃんよ」
「けれど、その話し方じゃ好きになってくれる男の子なんてなかなかいないわよ?」
「な……別に俺様には父ちゃんがいるからいいよ! それにそうだったら
俺様の話し方が好きになってくれるやつと結婚すればいいだろ!?」
「まぁ、確かにそうね。けどお父さんはあたしのものよ? うふふ」

 村の中で話しているメルザと母はとても幸せそうだった。
 だが急に村へ暗雲が立ち込めてくる。
 奥から父が駆け寄ってきた。

「おいメイア、メルザ! 急いで避難しろ! 西の山から突如
やべぇサイクロプス型の化け物が出てきやがった。わけがわからねぇが
神獣のたぐいかもしれねぇ。町を襲い始めやがった!」

「なんですって? あぁ……そんな。あそこに見えるあれは……」

 メイアは夢でも見ているかのようにその方角を見ている。
 メルザもその方角を見ると……山よりも大きい巨大なソレがいた。
 あちこちから悲鳴が聞こえる。

 それは二本の刀を両手に持ち、振り回しながら山ごと破壊している。

「俺様は奴の注意を引いてくる! おめぇらは逃げろ!」
「ダメよ! あんなのに向かっていったらあなたまで!」
「ばかやろう、おめぇがいなければ誰がメルザを守るんだ! いいからいけ!」

そういうと父はすごい速さで巨大なソレに突っ込んでいく。
「お父ちゃんは? お父ちゃんはどうなるの?」
「大丈夫よメルザ。今は私の言うことを聞いて」
「いやだ! お父ちゃんも一緒じゃなきゃいやだ!」

 刹那、奴から放たれた斬撃がメルザの左横をかすめる。
 左腕がバッサリと切断され、その場にメルザは倒れた。

「いやぁーー! メルザ、しっかりして! メルザ!」

 母の言葉を聞いたのはそれが最後だった。メルザは意識を失った。

 気付いたら、メルザは竜の背中に乗せられて空にいた。
 紐で誰かにくくりつけられているようだ。

「うーん……さっきのは夢……か?」

左腕の感覚がない。痛みはないが腕は失われていた。

「あら、気付いたのね。よかったわ。キーン! 下に降りるわよ!」
「グェェエエエエ!」

 竜は高度を下すと地面に降りた。
 一本の木のふもとに謎の人は荷物を降ろす。

「私はミディ騎士団所属のミリル。こっちはキーンよ」
「グェェ」
「俺様はメルザ・ラインバウトだ。なぁ、一体どうなって……父ちゃんは? 母ちゃんは?」

「……ごめんなさい。私はあなたのお母さんにあなたを逃がすよう頼まれて。
それにまだ仲間が戦っているの。だから私も行かなくちゃいけない。
ここまで来れば奴からの脅威は大丈夫だと思うわ。
戦いが終わったら必ず迎えに来るから。ここに隠れていて」

 そういうとミリルは食料を置いて申し訳なさそうに一礼し、キーンとともに
来た道を引き返していった。

「きっとだいじょぶだ。お母さんも、あの強い父ちゃんも生きてる
に決まってる! すぐに迎えだってくる! 俺様が心配しても仕方ねぇ!」

 そう自分に言い聞かせるようメルザは呟いた。
 ミリルが置いていってくれた食料袋を取り、木に背を向けて座る。

 いつしか下をうつむき、無くなった左腕をさする。
 感覚だけがない。傷もない。 
 何が起こったのかもよくわからない。


 ……一時間が過ぎ。

 ……二時間が過ぎ。

 ……三時間が過ぎ。

 ……いつの間にかメルザは寝ていた。

 あれからどれくらいたったのだろう。
 目が覚めてからメルザはシクシクと泣いていた。

「お母さん、お父ちゃん、嫌だよ、おいていかないでよ。
寂しいよ……うぁぁ……一人は嫌だよぅ……」

 メルザはミリルが飛んで行った方角へ歩いていた。
 ずっと泣きながら。一人きりで。

 メルザは気付かないうちに森に入っていた。
 そこはロックスフィンという大型の四足飛行獣の巣。

「ケーーーーーッ」

 けたたましい鳴き声とともにメルザを四足で鷲掴みにすると
ロックスフィンはそのまま飛び上がる。

「やめろ、放せ! 俺様はお母さんと父ちゃんのとこに行くんだ! やめろ!」

 ロックスフィンはすごい速さで飛び交う。
 メルザは途中で気を失ってしまう。

 そのロックスフィンは得物をとらえた道すがら、巨大な
竜と遭遇してメルザを落としてしまう。

 メルザは再び森で意識を取り戻す。先ほどとは違う景色だった。
 
 落ちた衝撃で少し身体が痛むが、木々と柔らかい土が
クッションになり、助かったようだ。

 メルザはしばらく泣いていたが、どうにかして帰る手段と
あのサイクロプスを倒す野望を胸に立ち上がるのだった。
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