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第三章 幻魔界

第六百十話 封印、ゲンビュイ

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 一通り腹が膨れたゲンビュイは、ナナーの頭を思い切り地面に押し付けると、胡坐をかいて座り
ようやくまともに話を聞く体制になる。

「ふう。まぁまぁな食事、大儀だった。幻浅の玄ともあろうこのゲンビュイ、危うく餓死する
ところであった」
「成程。そいつが狙いだったのかもな。ゴンゴを殺したのは。あの餓鬼は隠れるようにして
見張っている感じだったしな」
「痛いだ! いつまで押し付けてるだ! せっかくご飯持ってきてやったのに酷いだ!」
「おんしが小さいとかいうからだぞ。非力な小娘が見下しおってからに」
「別に見下してないだ。思ったことをいっただけだ!」
「おいやめろ。おめえらは俺の部下になるんだからな。あいつとは違う枠の……な」
「あいつ? 誰のことだ。それにまだ部下になると言ったわけでは無いぞ」
「何でだ? ご主人様は優しいだ。ならない理由がわからないだ」
「お主……よくわからぬまま契約したのではあるまいな」
「よくわからないだ。何か問題があるだ?」
「大ありも大ありだ! 男など野蛮で助平で甲斐性なしで気まぐれだぞ!」
「うーん。よくわからないだ。でもご主人は強いだ。武器もくれただ」

 大事そうに与えられた武器をさするナナー。
 それを見て困惑するゲンビュイ。
 一つ大きなため息をつくと、ベリアルを睨むように見る。

「こんないたいげな少女までかどわしおって」
「……別にかどわしてなんかいねえよ。放っておけば死ぬ。だから取り込んだだけだ。
それはおめえも同じだったろうが」
「その封印とやらに入って、悪だくみをしないか監視させてもらうぞ。
もし地上に出られたなら少しは信じてやってもいい」
「別に信じる必要はねえ。それはナナーも同じだぜ。んじゃ、覚悟はいいな」
「その前にもう一つ聞く。貴様はここから先どうするつもりだ? 地上に戻る方法はあるのか?」
「ああ。そっちはここへ俺を連れてきた幻魔人形がどうにかできるだろうよ。
直ぐには難しいようだがな」
「幻魔人形だと? 創始者の傀儡が戻ってきているのか?」
「ああ。おめえはバロムのやつも知ってるのか……まぁそれはいい。
俺はこれからもっと下に行き後三匹、取り込む予定だ」
「……白、朱、青に会うつもりか」
「そういうことだ。時間が惜しい、早くしろ」
「いいだろう。やるがいい」

 覚悟を決めたゲンビュイを取り込むベリアル。
 その様子を指をくわえたまま見ているナナー。
 取り込まれたかと思うと、すぐさま地形が変化し地上へと落下していく。
 ベリアルはナナーの片足をつかんで拾い上げ、ジェネストたちのいる場所へ戻っていった。

「終わりましたか。少してこずったようですね」
「別にてこずってねえよ。ただの腹減りで頭の回らねえちいせぇガキだ」

 ベリアルがそう呟くと、すぐさま封印から出てきた黒褐色の少女がベリアルに蹴りを入れる。

「誰が小せぇガキだ! 可憐な少女と言い換えろ、この長髪男が!」
「ほう。山のような外見とは想像つかないほど気性の激しい娘ですね。その気丈、口の悪さは
少々ディーン様に似ている」
「誰だ、この……許せぬ。何という長身に完璧な体つきの女だ……」
「ずるいだ。ジェネストさんはずるいだ」
「この二人は何を言っているのですか?」
「あー、うるせえうるせえ。さっさと先へ行くぞ。こっから下の階層の行き方を教えろクリムゾン」
「ふっ……また一段と騒がしくなりましたな。今しばらく先へ進みましょうぞ」

 あらたにゲンビュイを加えた一行は、幻魔界の更なる奥へ進んでいった。
 
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