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第三章 幻魔界

第六百十一話 目的地は竹葉堂

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 アスピドケローネに乗りながら再び移動を開始するベリアル。
 長髪を靡かせながら腕を組み、幻魔界を見下ろす。

 ふと気になったことがあり、ジェネストの方へ振り向いた。

「おい。地上との時間差はどれくらいだ?」
「おおよろ六倍ですね。こちらで一日を過ごせば、地上では六日進みます」
「そうか……俺がここへ来てからどのくらい経ったんだ」
「二日です。つまり十二日は経ったでしょう。それが何か?」
「……やべえな。急がねえとずっと恨まれそうだ」
「どうしただ? 何かあるだ?」
「どうせ女子の事でも考えておるのだろう。男はいつもそうだ」
「俺のじゃねえ。こいつのだ」
「っ! そういえば子供が産まれるんでしたね」
「後三、四日以内にこの幻魔界を出る。おおよそ一日一匹封印する必要があるな」
「それは難しいぞベリアル殿。幻魔界は広い。ここから幻奥の青まで三日はかかる」
「ならちょうどいいじゃねえか」
「幻中の白は迷いやすい竹林の中だ。そこだけでも二日は要することもわからんというのか」
「全部なぎ倒せばいいだろ、そんなものは」
「アスピドケローネには出来ない。それとも竹林を全てなぎたおすことが出来るのかな、ベリアル殿には」
「ふん。着いたらの楽しみにしておいてやるよ。それより七―、ビュイ。飯の支度だ」
「ビュイ? 何だその呼び名は」
「ゲンじゃないだ?」
「ゲンじゃ男みてえだろ。ビュイで十分だ」
「ふん。材料はどこだ」
「材料、どこにあるだ?」
「……まさか、無ぇのか」
「全部ビュイに食べられただ」
「……食事を出したのは貴様らだぞ」
「ふむ。それではこの先に竹葉堂という食事処があるはず。少々好みが分かれる食事処だが……
そちらで融通してもらうとしよう」
「竹葉堂だと? 甘味処が沢山食べれる有名なところではないか?」
「知っておられるか。玄殿はあまり動かぬと聞いていたので知らぬものかと思っていた」
「これでも幻浅を司る者だ。知らぬはずなかろう。ただ行ってみたくとも、こやつに封印されるまでは
あの巨体。行けば店が潰れてしまう」
「あの山が本体だったのですか?」
「うむ。こやつに取り込まれてから、あの形態に戻らなくてな。まるで力を抑制されたようだ」
「感謝して欲しいくれえだな。そっちの方が動きやすいだろうが」

 両腕を組み、フンッと少し鼻を鳴らすと、つまらなそうに再び幻魔界を見るベリアル。

「……少々申し上げにくいのだが、その店は既に代替わりしており、噂程美味い料理は
出てこないかもしれん」
「なんだと!? 厳選竹を使用した高級菓子が食べれない?」
「竹さえあれば、七―は竹蒸し料理に挑戦したいだ。以前父ちゃんが作ってくれただ」

 ナナーとゲンビュイが話に花を咲かせていると、少しフラフラとして、ベリアルが膝をついた。
 かなり調子が悪そうに見える。

「くそ……どうしてもこいつは大人しく力を与えられるのが嫌みてえだ。
おい二人とも。一旦封印する。少し大人しくしてろ……」
「なんだ? どうしただ? ご主人様、平気だ?」
「大方腹の悪い虫でも動き出したのだろう。店まではまだしばらくかかる。
中は確かに快適だし少し休ませてもらうか」

 二人を封印すると、ばたりと横たわるベリアル。
 
「く……そ。そんなに手助けされんのが、許せねえってのかよ……ばか野郎が……」
 
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