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第四章 シフティス大陸横断

第六百五十話 幻奥の青 リュシアン

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 幻奥の青。
 俺自身初めて対話を試みる相手。
 美しい青色の長い髪で、線が細く真っ白な肌だ。
 魅惑的かつ思慮深そうな仕草を取り、ゆっくりと自分の体を確かめる。

「喋れるか? まだ傷が完治したわけじゃなく話辛かったんだろう? 無理はするなよ」
「……大丈夫だけんろ、あったす、話すのが恥ずかすくて、その、こっだら喋り方しかできねえもんで」

 辺りにぴゅーんという静けさが漂う。
 なんというギャップ。
 なんという裏腹。
 これは……笑ってはいけない。

「ぎゃーーっはっはっはっは! 青の喋り方、面白いな! ぎゃーっはっはっはっは。
早くナナー呼んでこないと!」
「待てビュイ。それはあまりにも失礼だぞ……。個性があっていいじゃないか」
「何で口から血を流しながら言ってるんだルイン……ぎゃはははは、思い返したらまたこみあげてきた」
「ビュイがそっだら反応するのはあかんで。あたすは標準語を教えてぇなぁ」
「くっ……ダメだ。何を言っているのかいまいち……痛っ、わからん」
「ギャハハハハ! お腹痛い……ふう、ふう……標準語を教えて欲しいってことか? 
ふふふふ、そのままでいてくれ。いや、わかりやすい部分だけ教えてやる」
「ホンマか? えがったわぁ……」

 俺は耐えきれず舌をずたずたにした。
 しかし微塵も笑わなかった。
 強烈なギャップ……その言葉遣いに耐えきった。

「しっがし、ルインさはヨシヤローな男だや」
「ぶふっ……ごほっ、ごほっ……すまん。少し、はずすぞ……二人とも、仲良く……な」

 これは初めての攻撃だ。危なかった。
 なぜだろうか、あの声の感じと見た目があまりにもかけ離れていたせいだろうか。
 この世界に来て……いや正確には幻魔界にいって最大の衝撃と言ってもいい。
 或いはこれはブレディーが賢者の石より見た本の影響もあるのだろう。
 
 木魚をのりのりのロックでドラムの代わりに叩くような衝撃。
 ある意味そうそう見れる光景ではないのだから、貴重だ。

 少し離れた木の上に登り、青とビュイの様子を見ると、腹を抱えて笑い転げるビュイが良く見て取れる。
 でも、笑われてはいるが、その青の表情は明るく良いものだった。
 あの時の事を聞くのは今じゃない。そのうちゆっくり聞けばいい。
 勝手に連れてきてしまったことも怒ってはいない。
 むしろ喜んでいるように見えた。しかし本人がそうでも連れてきたのは俺だ。
 謝らなければならない。
 
「四幻か……なぁベリアル。お前はなぜ四幻全員連れてこようと、思ったんだ? 
やっぱり、仲間外れにすべきじゃないってこと……だよな。
お前もきっと……前世で一人きりだったのか。
今は……」

 二人の光景を見て嬉しいという感情が沸く。
 青にも名前をつけてやらないとな。
 綺麗な明るい青。シアンだったか? 
 そして青は竜に変身していた。それなら名前は……リュシアンがいいだろうか。

 いつからか、この不思議な世界の事、凄く好きになったんだと思う。
 そしてもう一度あいつと、広い世界を旅したい。
 皆と共に。

「おーい主殿。食糧が集まりました、降りてきて運ぶのを手伝ってください!」
「白丕か。今行くよ」

 一気に飛び降りると、両手にいっぱい抱えている芋のようなものを代わりに持つ。
 ミレーユ王女……いやアメーダを見ると……見ない方がよかったと後悔した。

 釣った魚……吊った魚が空中にふわふわと浮いていた。
 これは王女の力なのかアメーダの力なのか判別がつかないが、とにかくただただ恐ろしい光景だ。
 
「あれ、どうやってるんだ?」
「わかりかねます。それより見てくださいこれ! 絶対美味しいやつですよ。香りが凄いいい!」
「芋に見えるけど、この世界での名前はわからないな。焼いて食うか」
「主殿。料理は私にお任せを」
「ルジリト、いつもすまないな。それじゃお願いするか」

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