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1章
妖怪のいる街③
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羊男。
顔は羊、身体は人間。
悪趣味なコスプレのような姿をしている妖怪。
数年前からこの街での目撃情報はあるものの、車に轢かれそうになった子どもを助けたとか、不良に絡まれた女性を救ったとかそんな話ばかりだ。
それ以外は詳しいことは何もわかっていないが、一定の範囲内でしか目撃情報がないため、この街に住んでいると考えられる。
「妖怪なのか、なんなのか。羊男に関しては情報が少なすぎる」
堂森は羊男についての説明をして、また朝田を見つめてくる。
表情からは彼の考えは読み取れない。
「ほ、本当にそんなやつがこの街に?」
朝田は精一杯驚いたふりをするが、我ながらわざとらしいと思う。
「おや、知らなかったのかい?」
「ええ、初耳です」
朝田は嘘をついた。
知らないも何もそれは僕だ。
子ども助けたことも不良に絡まれていた女性を不憫に思って変身したことも覚えている。しかしそんな噂が流れているなんて、知らなかった。
堂森はどこまで知っているのだろう。朝田は目の前の作家がすべてを知ったうえで、自分をからかっているように思えてきた。
「堂森せんせーい」
その時、校舎の方から一人の若い男が走ってきた。
「千堂くん、どこに消えていたんだい?」
堂森は手を振りながら尋ねる。
「俺じゃなくて、堂森先生が消えていたんです」
千堂と呼ばれた男は少し息を切らしながら、盛大にため息をつく。それから千堂は朝田に対して、堂森のマネージャーだと自己紹介をした。
「また若い子をからかって遊んでいたんですか?」
千堂は軽蔑するような目を向ける。
「朝田さん、あんまり気にしなくていいからね。
堂森先生の話の半分以上は口から出まかせだから」
千堂の言葉に堂森は嬉しそうに笑っている。
「半分とはひどいなぁ」
「すいません、7割の間違いでしたね」
朝田は二人のやり取りをただ見ているしかなかった。千堂は次の予定があるからと、堂森をひっぱっていこうとする。
「あぁ、朝田くん。影踏みは気に入った相手の影の中に住み着いてしまう妖怪だ。せいぜい身体を乗っ取られないように気を付けるんだよ」
ひっぱられながらも堂森は朝田へ声をかける。
それから千堂の耳元に何かを告げた。
「これは堂森の事務所の電話番号です。
ここで会ったのも何かの縁です。
困ったことがあれば、ご連絡ください」
千堂は懐から名刺を出し、朝田に渡す。
朝田はその名刺を受け取り、堂森たちが去っていくのを見送った。
~~~~~
帰り道の途中、朝田は思い立って本屋で堂森の本を購入した。最近発売されたエッセイで様々なテーマについて書かれている。
家に帰って、無造作にベットに腰を下ろし、目次に目を通す。“妖怪”というテーマがあることに気付き、朝田はパラパラとページをめくる。
――妖怪が人間を驚かせたり、怖がらせたりするのは人間の感情を食べるためと仮定してみよう。昔はそれでも良かったのだろうが、今ははそうもいかないだろう。人は集まって街を作り、相互に監視することで治安を維持し始めた。法というものが整備され、人を怖がらせることにも相応の罰が与えられるようになった。
――妖怪は姿を消したのではなく、その力の使い道を変えただけなのかもしれない。現代に生きる妖怪は負の感情だけを糧にするわけにはいけない。畏れという感情は負からくるものではない。尊敬や愛、感情を揺さぶることでその食事の作法を変えたのである。
――この世の中で負の感情だけを糧とする妖怪はアマチュアである。正も負もどちらも味わい、人の感情をどちらにも揺り動かす者こそ、正真正銘のプロの妖怪と言えるのだ。
「負の感情だけを食べるのは、アマチュアか」
朝田は文章を読み返して、声に出してみる。負の感情だけを食べる妖怪がアマチュアなら、羊男はなんなのだろうか。
妖怪は感情を食べる、これは真実だ。
人の感情が揺れ動く瞬間、妖怪の腹は満たされるのだ。人間の感情の振り幅は恐怖や悲しみに襲われた時が一番大きく動く。だからこそ、妖怪は負の感情を好んで生み出そうとする。
しかし、朝田は負の感情を食べることが出来なかった。味が、食感が、全てが朝田の身体に拒絶反応を起こさせる。
一度それを口の中に入れてしまうと吐き気に襲われる。匂いでも駄目だ、胸がムカムカしてどうしようもなく気分が悪くなる。
そうは言っても、良い感情だけを食べ続けることは出来ない。悪い感情に比べて、良い感情を生み出すのは簡単なことではない。
それに幸せが失ったときに、大きな喪失感をもたらす様に、光は必ず闇を作り出してしまう。だから朝田は人を避けるようになった。人と関わらなければ、負の感情を見せつけられることはそう多くはない。
感情を食べなくても妖怪は生きていける。基本的には人間と一緒なのである。しかし、それでは妖怪本来の力を出すことは出来ない。
朝田に出来るのは変身すること、それだけだった。
人との関わりを避け、妖怪としての本領も発揮出来ない。
「僕は人間としても、妖怪としてもアマチュア以下だ」
自嘲気味に朝田は呟き、ベットから立ち上がった。
顔は羊、身体は人間。
悪趣味なコスプレのような姿をしている妖怪。
数年前からこの街での目撃情報はあるものの、車に轢かれそうになった子どもを助けたとか、不良に絡まれた女性を救ったとかそんな話ばかりだ。
それ以外は詳しいことは何もわかっていないが、一定の範囲内でしか目撃情報がないため、この街に住んでいると考えられる。
「妖怪なのか、なんなのか。羊男に関しては情報が少なすぎる」
堂森は羊男についての説明をして、また朝田を見つめてくる。
表情からは彼の考えは読み取れない。
「ほ、本当にそんなやつがこの街に?」
朝田は精一杯驚いたふりをするが、我ながらわざとらしいと思う。
「おや、知らなかったのかい?」
「ええ、初耳です」
朝田は嘘をついた。
知らないも何もそれは僕だ。
子ども助けたことも不良に絡まれていた女性を不憫に思って変身したことも覚えている。しかしそんな噂が流れているなんて、知らなかった。
堂森はどこまで知っているのだろう。朝田は目の前の作家がすべてを知ったうえで、自分をからかっているように思えてきた。
「堂森せんせーい」
その時、校舎の方から一人の若い男が走ってきた。
「千堂くん、どこに消えていたんだい?」
堂森は手を振りながら尋ねる。
「俺じゃなくて、堂森先生が消えていたんです」
千堂と呼ばれた男は少し息を切らしながら、盛大にため息をつく。それから千堂は朝田に対して、堂森のマネージャーだと自己紹介をした。
「また若い子をからかって遊んでいたんですか?」
千堂は軽蔑するような目を向ける。
「朝田さん、あんまり気にしなくていいからね。
堂森先生の話の半分以上は口から出まかせだから」
千堂の言葉に堂森は嬉しそうに笑っている。
「半分とはひどいなぁ」
「すいません、7割の間違いでしたね」
朝田は二人のやり取りをただ見ているしかなかった。千堂は次の予定があるからと、堂森をひっぱっていこうとする。
「あぁ、朝田くん。影踏みは気に入った相手の影の中に住み着いてしまう妖怪だ。せいぜい身体を乗っ取られないように気を付けるんだよ」
ひっぱられながらも堂森は朝田へ声をかける。
それから千堂の耳元に何かを告げた。
「これは堂森の事務所の電話番号です。
ここで会ったのも何かの縁です。
困ったことがあれば、ご連絡ください」
千堂は懐から名刺を出し、朝田に渡す。
朝田はその名刺を受け取り、堂森たちが去っていくのを見送った。
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帰り道の途中、朝田は思い立って本屋で堂森の本を購入した。最近発売されたエッセイで様々なテーマについて書かれている。
家に帰って、無造作にベットに腰を下ろし、目次に目を通す。“妖怪”というテーマがあることに気付き、朝田はパラパラとページをめくる。
――妖怪が人間を驚かせたり、怖がらせたりするのは人間の感情を食べるためと仮定してみよう。昔はそれでも良かったのだろうが、今ははそうもいかないだろう。人は集まって街を作り、相互に監視することで治安を維持し始めた。法というものが整備され、人を怖がらせることにも相応の罰が与えられるようになった。
――妖怪は姿を消したのではなく、その力の使い道を変えただけなのかもしれない。現代に生きる妖怪は負の感情だけを糧にするわけにはいけない。畏れという感情は負からくるものではない。尊敬や愛、感情を揺さぶることでその食事の作法を変えたのである。
――この世の中で負の感情だけを糧とする妖怪はアマチュアである。正も負もどちらも味わい、人の感情をどちらにも揺り動かす者こそ、正真正銘のプロの妖怪と言えるのだ。
「負の感情だけを食べるのは、アマチュアか」
朝田は文章を読み返して、声に出してみる。負の感情だけを食べる妖怪がアマチュアなら、羊男はなんなのだろうか。
妖怪は感情を食べる、これは真実だ。
人の感情が揺れ動く瞬間、妖怪の腹は満たされるのだ。人間の感情の振り幅は恐怖や悲しみに襲われた時が一番大きく動く。だからこそ、妖怪は負の感情を好んで生み出そうとする。
しかし、朝田は負の感情を食べることが出来なかった。味が、食感が、全てが朝田の身体に拒絶反応を起こさせる。
一度それを口の中に入れてしまうと吐き気に襲われる。匂いでも駄目だ、胸がムカムカしてどうしようもなく気分が悪くなる。
そうは言っても、良い感情だけを食べ続けることは出来ない。悪い感情に比べて、良い感情を生み出すのは簡単なことではない。
それに幸せが失ったときに、大きな喪失感をもたらす様に、光は必ず闇を作り出してしまう。だから朝田は人を避けるようになった。人と関わらなければ、負の感情を見せつけられることはそう多くはない。
感情を食べなくても妖怪は生きていける。基本的には人間と一緒なのである。しかし、それでは妖怪本来の力を出すことは出来ない。
朝田に出来るのは変身すること、それだけだった。
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「僕は人間としても、妖怪としてもアマチュア以下だ」
自嘲気味に朝田は呟き、ベットから立ち上がった。
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