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第2章_始まり
06:出会い (レイフォード視点1)
しおりを挟むエルテニア国の宰相を務めるレイフォードは、久々の休暇にもかかわらず、書斎で積み上がった本を前に黙々と作業をしていた。
いつ休んでいるのかも分からないような仕事ぶりが心配だと、王が無理やり3日間の休暇を押しつけてきた。(実は王がゆっくりしたい)
しかし、もう仕事が趣味と言ってもいいほど仕事人間のレイフォードは、最初のうちは読書とティータイムを楽しんだが、気がつけば仕事の事を考えてしまい、結局仕事に関係する調べものをするしまつである。
そんな中、何かが気になり、窓の外に広がる森の緑に目を向けた。その瞬間いきなり胸騒ぎに駆られた。
すぐにでも森に行かなければならない気がして、その理由を深く考えるよりも先に体が動いた。
レイフォードは、魔力量が多いためなのか、感が鋭いからなのか、ごく稀に虫の報せのような事が見に起きる。
そして、そういう場合は往々にして、無視できない大事な事が起きている事がほとんどなのであった。
「森で何か起きているのか?」
屋敷の周りには森が広がっているが、近くにはあまり大型の魔物は生息しておらず、いつも穏やかな区域である。
森に入り周りを見渡しながら進んでいく。
小さな魔物はいるが、人に害を成すような存在ではない。
「もしや大型の魔物が迷い込んだのか?!」
レイフォードは感を頼りに駆け足を早めた。
森を進むほど胸騒ぎが大きくなり、森の異様な静けさにも気づき始めた頃、突然魔獣の唸り声が耳に届いた。
「この先には確か『大樹の集い』がある場所!森の聖域から魔物の声がするとは…」
『大樹の集い』はその名の通り古くから存在する巨大な木々が密集しているエリアで、この森の中心地でもある。
そして、聖獣や精霊達も集うことから聖域とされていた。
ナイトレイ家は代々この聖域を守護しており、この場所の存在は王家とナイトレイ家の者しか知らない秘密でもある。
そして、この聖域は『古き力』に覆われており、聖域に許された者しか立ち入ることが出来ないのである。
だからこそ、その聖域から魔物の声がする事は、大きな異常が起きていることを示す。
やっと聖域にたどり着き大樹の間を進んで行く。視界が開けた瞬間、それは目に飛び込んできた。
黒い巨大な魔獣が少女らしき人物に襲いかかろうとしていたのだ。
すぐさま魔法で風の刃を魔獣目掛けて打ち込んだ!その刃は少女の横を過ぎ去り、寸分違わず魔獣に命中し、その巨体の体勢も崩すことができた。
それと同時に少女の手からナイフが放たれるのが見えた。
そのナイフは一直線に魔獣の心臓に突き刺さり、倒れたまま動かなくなった。
少女が放ったとは思えないほどの正確な投擲に驚いていると、いきなり倒れた魔獣から黒いモヤが立ち上がり、その姿が消え去った。
「あの黒いモヤは確か黒魔術の残滓だったはず。…なぜ聖域に黒魔術の産物が入り込めたんだ……」
消えた魔獣に注視していたら、ドサッと音がし、音がした方に目を向けると先程見事な投擲をした少女が苦しそうに倒れていた。
「っ、い、…っおい、大丈夫か!」
すぐに駆け寄ると、真っ黒な服装で気づかなかったが、腹部を中心に血で赤黒く染まっていた。
痛みに耐えているのか、少女の口から小さく呻き声が聞こえる。
少女の様子を確認していると、突然空中から精霊に声をかけられた。
「っあ、レイさまだ!
おねがい!このヒトをたすけてほしいの!
クロいのを、やっつけてくれたの!」
エメラルド色の瞳に風の魔力をまとっている様子から、この子は風の精霊か…
「あぁ、承知した。
私が責任をもって彼女を助けよう。だから安心してほしい。」
「うんわかった!レイさまありがとう!」
風の精霊は安心したのかほっとしたように返答し、少女の傷に響かないように周りの風流を操作し始めた。
同時にレイフォードは少女に治癒魔法をかけていく。
「しっかりしろ!気をしっかりもて!…絶対に助けてやる。」
声が聞こえたのか、少女が虚ろなめを向けてきた。そして目線が合ったかと思うと、少女はスっと意識を手放したようだった。
応急処置も無事に済んだし、呼吸も安定しているから一先ずは大丈夫そうだ。
「…眠ったか。
……それにしても、こんな華奢な女児がよくこの怪我で動けたものだな。
それに、髪も目も黒とは、…初めて見る。…
一体どこからやってきたのか。……」
この国で黒髪黒目の人間は見たことがないが、周辺諸国でもこのような色を持つ者は聞いた事が無いな…
「ねぇ、レイさま。このヒトたすかる?またはなせる?」
精霊がここまで気にかけているということは、悪意を持つ者では無さそうだな。…
…一旦様子を見るか。
「あぁ。今は寝ているが、回復すれば目を覚ますだろう。治癒も施したが、私の屋敷で様子を見ようと思う。
だから、怪我についても心配はいらないよ。」
「そっか、レイさまありがとう!
ねぇ、レイさま。このヒトといっしよにいってもいい?
めがさめたらね、ありがとうっていいたいの。それに、げんきになったらおはなしもしたいな!」
「問題ない。傍にいてやってくれ。
…では、このままここに寝かせておくのは、彼女の身体に悪いし、屋敷に連れていこう。」
レイフォードは、少女をゆっくりと抱き上げた。だがほとんど重みを感じない。
チラリと精霊を見やると笑顔を返され、精霊が少女の為に力を貸してくれていることを察した。
普段は積極的に自ら人間を助けなどしない精霊が、これほどまでに気をかけるとは…
この少女はいったい何者なんだ?…
レイフォードは少女を疑わしく思いつつも、不思議と見捨てようとは思えないのであった。
少女の固く閉じられた瞼には苦痛が見えたが、先程よりも安定した呼吸にほっとしつつ、屋敷に戻るためゆっくりと歩を進めた。
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