追放される前に、迷宮を支配しました ~聖女は王国を見限る~

鍛高譚

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4話:裏切りと置き去り

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4話:裏切りと置き去り


ダンジョン《奈落の迷宮》の第四層。

 勇者パーティーはこれまでの探索の疲れを理由に、広々とした広間で休息を取ることにした。

 古びた石造りの天井が高くそびえ立ち、壁には不気味な模様が刻まれている。辺りには冷たい風が流れ、不吉な雰囲気が漂っていた。

 サラは、その様子をじっと観察しながら、内心で警戒を強めていた。

 ——これは罠ね。

 彼らがここを「休息の場」として選んだのは偶然ではない。むしろ、彼らの計画にとって最適な場所だったのだ。


---

疑念の確信

 「サラ、お前に頼みがある」

 勇者アル・ミホイルがわざとらしく親しげな声をかけた。

 サラは、すでにこの先の展開を予測していたが、あえて何も知らないふりをして微笑んだ。

 「何でしょうか?」

 アルは、サラの方へ近づき、わざとらしく肩を竦めた。

 「この部屋には邪悪な魔力が漂っている。お前の聖女の力で、浄化してもらえないか?」

 「……浄化、ですか?」

 「そうだ。このまま進むには、聖なる力で場を清める必要がある」

 剣士ガルドや魔法使いルディアも、アルの言葉に同調するように頷いた。

 しかし——

 この部屋には、特別な邪気はない。

 確かにダンジョン内部には魔力の流れがあるが、それはダンジョンの本質そのものに由来するものだ。

 浄化の必要など、まるでない。

 ——つまり、彼らは何か企んでいる。

 サラは瞬時にそう判断したが、ここで「必要ない」と断るわけにはいかない。

 「分かりました。では、浄化を始めますね」

 ゆっくりと杖を掲げ、魔力を練り上げる。


---

置き去りの決行

 サラが浄化の呪文を詠唱し始めたその瞬間——

 「今だ! 逃げるぞ!」

 アルの叫びと同時に、勇者パーティーのメンバーたちは一斉に出口へと駆け出した。

 「……あら?」

 サラは呆気に取られたような顔をしながら、彼らの動きを目で追った。

 「おい、早く扉を閉じろ!」

 ディークが叫び、ガルドが素早く石の扉を閉める。

 「ふん、聖女様もここまでだな!」

 エリーゼが呪文を唱え、封印の魔法を扉に刻む。

 「お姫様気取りがよ……魔物の餌になって、王子の邪魔をしないことだ」

 ルディアが吐き捨てるように言うと、全員が揃って悪辣な笑みを浮かべた。

 「これで俺たちは、"聖女は戦いの中で命を落とした"と報告すればいいだけだ」

 ディークが満足げに言うと、アルは頷きながら冷笑を浮かべた。

 「クレア様が新しい聖女として即位する。俺たちの手柄は、そのとき王国の歴史に刻まれるだろうよ」

 勇者パーティーは、置き去りにしたサラのことなど気にも留めず、足早にダンジョンの出口へ向かっていった。


---

閉じ込められたサラ

 ゴウン……

 石の扉が完全に閉ざされ、重苦しい沈黙が広間を包み込む。

 サラは、静かに扉の前に立ち尽くしていた。

 しばらくすると、彼女は小さくため息をついた。

 「……予想通り、ね」

 この裏切りは、すべて計算済みだった。

 王子エクシードとクレアが考えた陰謀。
 そして、それを実行する勇者パーティーの愚かさ。

 彼らは、サラを迷宮の中に置き去りにすれば、自然と魔物の餌になるとでも思っているのだろう。

 しかし——

 彼らは、私がここで死ぬと思っているのかしら?

 サラは、口元を綻ばせると、ゆっくりと手をかざした。

 《聖なる視界》

 瞳が淡く輝き、迷宮の構造が透けて見えるようになった。

 この迷宮の秘密は、すべて私の掌の上にある。

 サラは静かに微笑んだ。


---

新たなる力の目覚め

 この広間は、確かに罠だった。
 だが、それは勇者パーティーにとっての罠でもあった。

 ——なぜなら、この場所こそが、この迷宮の支配者の眠る間だったからだ。

 ズズン……

 地面が揺れ始める。

 「ふふ……やっぱり、いたのね」

 サラの前に、黒き巨影がゆっくりと姿を現した。

 「……貴様、何者だ?」

 低く唸る声。

 三つの巨大な頭を持つ魔獣——ケルベロス。

 この迷宮の主にして、最強の守護獣。

 普通の冒険者ならば、恐怖に震えるところだろう。
 しかし、サラはただ微笑んだ。

 「あなたが、この迷宮の王なのね」

 ケルベロスは牙を剥き、唸り声を上げる。

 「貴様を食らう……!」

 ドンッ!

 大地が揺れるほどの勢いで、ケルベロスが襲いかかる。

 しかし——

 「……お手。」

 サラがそう呟くと、ケルベロスはピタリと動きを止めた。

 そして、ゆっくりとその巨大な前脚を上げると……サラの手のひらの上に乗せた。

 「……は?」

 ケルベロス自身も、何が起こったのか理解していないようだった。

 「よしよし、いい子ね」

 サラは微笑みながら、その巨大な頭を優しく撫でる。

 ——迷宮の支配者が、新たな主を得た瞬間だった。
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