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1-3 家族の失望
しおりを挟むフェリシア・ドレイクは、生まれた瞬間から家の期待を背負っていた。
美しさ、知性、礼儀作法、王太子妃としての資質。
そのすべてを満たすために、幼い頃から必死に努力し――そして、その努力は報われたはずだった。王太子アルヴィンの婚約者に選ばれたあの日までは。
けれど今、その輝きはすべて崩れ去ろうとしていた。
---
◆偽造文書がもたらす崩壊
舞踏会の翌日。
フェリシアは父に呼ばれ、執務室へ入った瞬間、胸の奥がひどくざわついた。
「フェリシア……これ以上、家の名誉を傷つけるな」
開口一番、父・ルードヴィッヒ伯爵の言葉は鋼のように冷たい。
「……父様。私は……本当に何もしていません!」
必死に訴えるも、伯爵は眉をひそめるだけだった。
「アルヴィン殿下が“証拠”を提示した以上、お前の言葉ではどうにもならん。社交界も……もうお前を受け入れまい」
“証拠”という名の偽造手紙。
それが、フェリシアのすべてを否定していく。
喉が焼けるように熱く、視界が揺れた。
「そんな……私は……」
---
◆母の言葉は最後の刃
だが、追い打ちをかけたのは母だった。
「フェリシア、私はあなたを愛しています。……けれど今回ばかりは擁護できません」
母イザベルの言葉は、優しさの形をしていながら、その実もっとも冷たかった。
「母様! 本当に信じてくださらないのですか!」
「嫉妬深い、という噂は前からあったのよ。……しばらくは大人しくしていなさい。それが家のためよ」
背を向ける母。
その瞬間、フェリシアの胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
(母様まで……)
どれだけ努力しても、真実を叫んでも、誰も聞いてくれない――。
---
◆家族会議という名の追放通告
午後。
伯爵家で急遽「家族会議」が開かれ、フェリシアは形式的に席に着かされた。
「フェリシアは……しばらく表舞台から姿を消すべきだろう」
父が淡々と言う。
それはほぼ「追放」を意味していた。
「……私に、この家を出て行けと?」
問いかける声は震えていた。
だが返ってきたのは、父の、重苦しい沈黙。
――その沈黙こそが肯定だった。
「君は、自分の行動がもたらした結果を受け入れるべきだ」
(私の……行動……?)
無実であることは叫び続けた。
それでも誰も――家族すら――信じてくれない。
フェリシアは静かに立ち上がった。
「……わかりました。私はこの家を去ります」
涙はこぼさなかった。
こぼす価値すらないと、ようやく理解してしまったから。
---
◆ドレイク家を去る夜
その夜。
フェリシアはごくわずかな荷物だけをまとめると、人気のない裏門からそっと屋敷を離れた。
見送る人影はひとりもいない。
門番すら、彼女を憐れむような視線で見送るだけだった。
冷たい夜風が頬を撫でる。
それでも、フェリシアの瞳には涙も迷いもなかった。
(私は必ず無実を証明する。
真実を暴き、この屈辱を必ず晴らす)
燃えるような決意だけが、彼女を前へと押し出していた。
――そして、この夜の旅立ちが。
隣国の“冷徹公爵リヒト”との出会いへとつながることを、フェリシアはまだ知らない。
彼こそが、後の彼女の運命を大きく変える存在だということを――。
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