婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

鍛高譚

文字の大きさ
21 / 21

後日談 ――「未来へ続く、穏やかな物語」

しおりを挟む

 

エーバーハルト公爵領に、ゆっくりと春が訪れていた。

優しい風が花を揺らし、陽だまりに子どもたちの笑い声が響く――
そんな平和な公爵領の中心にいるのは、領民から“希望の夫人”と呼ばれるフェリシアだった。

今日は、彼女と家族の“ちょっと特別な日”である。

 

──────────────────
◆公爵邸の日常は、今日もにぎやか
──────────────────

「お母様ー!見てください!新しいドレスを描きました!」

画用紙を抱えて走ってくるのは、長女エリーナ。
フェリシアに似て聡明で、リヒト譲りの穏やかな優しさも持つ、才色兼備の小さな淑女だ。

「まぁ、素敵ね……エリーナはデザイナーになれるかもしれないわね。」

フェリシアが褒めると、エリーナは頬を真っ赤にしてほころんだ。

一方、やんちゃ盛りの長男ルーカスは――

「母上!父上!見てくれ!ぼく、もうこんなにジャンプできるぞ!」

勢いよく庭の石畳から跳び上がり、豪快に転ぶ。

「ルーカス、無茶しないの。怪我したらまた泣くのよ?」

「泣、泣かないもん!」

公爵邸の庭は、今日もとても平和だった。

フェリシアはそんな光景を見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 

──────────────────
◆王国からの客人
──────────────────

午後、珍しい来客がおとずれた。

フェリシアのかつての王国から、元教師であったマリアンヌが訪れたのだ。
思わぬ再会にフェリシアは目を輝かせる。

「フェリシア……すっかり素敵な女性ね。まるで別人みたい。」

「マリアンヌ先生こそ、お変わりなくて安心しました。」

公爵邸に案内される間、昔話が尽きることはなかった。

紅茶を飲みながら、マリアンヌはふと真剣な顔になる。

「……フェリシア。あなたの選んだ道は、結果として王国の希望にもなったのよ。」

「希望……?」

「あなたがあの陰謀を暴き、毅然と立ち去ったことで、王国は改革に乗り出した。
今、王族も貴族も、以前よりずっと誠実で透明な政治を目指しているわ。」

フェリシアの胸に静かな驚きが走った。

かつて傷つき、失望して離れた国。
その国が、今は自分の決断をきっかけに変わろうとしている――。

「……そう。よかったわ。」

それだけを言い、フェリシアは穏やかに微笑んだ。
過去を許す必要はない。
けれど、過去が未来へ続く光になるのなら――それは嬉しいことだった。

 

──────────────────
◆夫婦の夜は、静かで優しい
──────────────────

客人を送り出した後の夜、公爵邸のバルコニーには涼しい風が吹いていた。

フェリシアは月を眺めながら、そっと隣にいる夫へ言う。

「……あの時、王国を離れなかったら、私は今ここにいなかったのね。」

「そうだね。でも、君はどんな選択をしても前に進めたはずだよ。」

リヒトはそう言って、彼女の肩にそっと腕を回した。

「けれど……君と出会えた選択肢を選んだ自分を、僕は心から誇っている。」

「……リヒト。」

フェリシアはそっと彼の胸に身を寄せた。
ここは、かつての彼女が夢見た“未来”そのものだった。

 

──────────────────
◆未来への約束
──────────────────

やがて子どもたちが眠り、公爵邸に静けさが戻る。

フェリシアはふと、星空を見上げながら呟いた。

「私は……これからも、この隣国で、人々と共に歩んでいきたい。
過去に囚われるのではなく、未来を作るために。」

リヒトは優しく彼女の手を握り返す。

「フェリシア。君と共に歩ける未来は、僕にとっても最高の贈り物だよ。」

二人は見つめ合い、微笑み合った。

春の風がふたりの間をそっと通り抜け――
その瞬間、未来へ向かう新しい物語が、またひとつ動き出した。

 

──────────────────
◆そして――
フェリシアの物語は、今なお続いていく。
家族との日々も、隣国の発展も、彼女の手によって豊かに彩られながら。

彼女はもう、“過去に傷ついた令嬢”ではない。
愛され、尊敬され、未来を切り開く女性として――
今日も幸せの中を歩き続けていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

家族から虐げられた令嬢は冷血伯爵に嫁がされる〜売り飛ばされた先で温かい家庭を築きます〜

香木陽灯
恋愛
「ナタリア! 廊下にホコリがたまっているわ! きちんと掃除なさい」 「お姉様、お茶が冷めてしまったわ。淹れなおして。早くね」 グラミリアン伯爵家では長女のナタリアが使用人のように働かされていた。 彼女はある日、冷血伯爵に嫁ぐように言われる。 「あなたが伯爵家に嫁げば、我が家の利益になるの。あなたは知らないだろうけれど、伯爵に娘を差し出した家には、国王から褒美が出るともっぱらの噂なのよ」   売られるように嫁がされたナタリアだったが、冷血伯爵は噂とは違い優しい人だった。 「僕が世間でなんと呼ばれているか知っているだろう? 僕と結婚することで、君も色々言われるかもしれない。……申し訳ない」 自分に自信がないナタリアと優しい冷血伯爵は、少しずつ距離が近づいていく。 ※ゆるめの設定 ※他サイトにも掲載中

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...